永遠に失われしもの 第14章
「ヒヒ、懐かしいねぇ~
四百年いや、それ以上かな...」
死神派遣協会の派遣課ロビーの
ソファーの感触を楽しむように、
長い黒い爪でいじりながら座る葬儀屋は、
前に立つウィルに向かって言う。
「派遣課には、もうそんなになりますか・・
こんな所まで、ご足労願ってすみません」
「で、話ってなんだい?...」
葬儀屋は懐から、クッキーの壷を出して、
バリバリと食べ始めている。
「セバスチャン・ミカエリスと
その飼い主について・・
もうお聞き及びとは思いますが、アレらに
対しての排除命令は取り消されました」
「ああ...そうらしいねぇ..」
「アレが金の鍵を持っている・・
それが理由ですが・・どう思われますか?
アレらが本当に、そんなことを為すと?」
「彼らの共同計画では・・ないだろうねぇ。
伯爵はきっと何も知らないと思うよ~」
「では、セバスチャン・ミカエリスが単独で
動いていると?」
思案するウィルをよそに、葬儀屋はヒヒと
楽しそうに笑っている。
「実に、楽しいじゃないか...」
「それでもアレはまだ、
第一条件を満たしたに過ぎない」
(第二条件も、既に満たしているさ...)
葬儀屋は、懐の銀の鍵の首飾りをいじり
ながら、さらに楽しそうに笑っている。
「アレの目的は何です?」
「さぁ...それはまだわからないねぇ...」
「もしも、万が一アレが全てを完遂したら、
世界は・・いや、我々全ても・・」
「ヒヒヒ、楽しみだねぇ...」
葬儀屋の長すぎる前髪の奥で、
翡翠色の眼が光る。
「君が、伯爵に薬を使ったのは、
余計だったねぇ...
きっとそれは、執事君の計画に
大きな狂いをもたらすだろうよ...
わかっているだろう?
君たち死神は、中立でなければいけない。
こと、この件に関しては。
この世界は、相反する二つのもので
構成されているからねぇ...
愛と憎悪、忠誠と裏切り、
生と死、光と闇...
君たちはその狭間に
立ち続けなければならないのさ...常に。
たとえどちらかが一方を駆逐しても、
たとえ全てが無に帰しても、
君たちは最後まで、ただそれを見続ける。
干渉してはいけない...
それが役割だろう?」
「ですが、悪魔があれを手にする筋書きは」
ウィルはいかにも不服そうに、口端を下げ
不機嫌な表情をしている。
「そう本来ならもっと遠く先の...
ああ、いけない、
今日は教皇に謁見するんだった。
すまないけど、もう行くよ」
そそくさと、壷を懐にしまい、
葬儀屋はふらりと立ち上がる。
「ああ・・お時間を割いていただき、
有難うございました。」
とデスサイズで空間を切り開こうとする、
ウィルに葬儀屋は言う。
「ああ、独りで先に行っておくれ...
小生はちょっと寄る所があるから」
(伯爵に頼まれた仕事をしないとねぇ...)
ウィルが空間に消え去ってから、
ゆっくりと葬儀屋は、
死神図書館へと向かった。
作品名:永遠に失われしもの 第14章 作家名:くろ