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本望にて

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「今日の夕食は決まりだな。みんな、喜ぶに違いない」
「うん、おいしいからね」
「角も皮も使える」
角はヤジリに、皮は弓の弦にもなる。
スレンはトーヤが倒した動物を持ちあげた。
その重みが腕にずしりとくる。
これだけ大きな獲物をトーヤは見事に射止めた。
トーヤは少女ながら並みの大人以上に馬を乗りこなせる。弓矢も並みの大人以上に使える。
自信があるのと本人の気質により、いつかなにかあったときは自分は騎兵として戦うと何度も勇ましく言っていた。
「あ」
トーヤが声をあげた。
その眼は遠くに向けられている。
「父様だ!」
嬉しそうに指さした。
草原にはなだらかな勾配がある。
トーヤの指さした先は、ふたりがいるのよりもやや高い場所。
その遠く離れたところには、馬に乗った人の姿が小さくある。数騎、列を作って進んでいる。
ここからでは小さくしか見えないが、眼の良いスレンには先頭にいるのが自分の属している部族の統領であることがわかった。後続も、同じ部族の者たちである。
帰ってきたのだ。
トーヤの父にして部族の統領は、同じ部族の者たちとともに、他の部族を訪ねていた。
他の部族。
それは、最強の騎馬民族と言われている部族だ。
統領が変わってから、ますます強くなり、勢力を拡大している。
その統領の名は、ライネイス。
ライネイスもそうとう強いらしいと聞いているが、トーヤもスレンも実際に彼の姿を見たことがない。
見たことがない、会ったことがない、噂でしか知らない。
だからこそ、ライネイスに対して恐れを抱いてもいる。
「ご無事で良かった」
スレンは思わずつぶやいた。
敵対関係にあるわけではないものの、ライネイスは好戦的な人物であるようなので、不穏な事態が発生する可能性はあった。
それに、ライネイス率いる部族と平和協定を結び、実質はライネイスの配下に入る部族が続出している。
ライネイスはトーヤとスレンの属している部族も支配下に置こうとしているのかもしれない。
もしそうであれば、ライネイスの部族を訪ねたトーヤの父の身は危うい。
スレンはそんな心配をしていたので、帰ってきた姿を見て、ほっとした。
「うん」
隣で、トーヤが相づちを打った。
スレンは視線を転じ、トーヤを見る。
トーヤは晴れやかに笑っていた。

大きな天幕があちらこちらに張られている。
騎馬民族は遊牧民でもあり、季節に合わせて宿営地を変える。
天幕はほとんど布で出来ていて、椀を伏せたような形をしている。流線形であるのは草原を吹き抜ける風に対処するためだ。
そのひとつの木製の扉が開けられ、トーヤの父が出てきた。
トーヤはハッと眼を大きくし、それから、緊張した面持ちで父のほうへと駆け寄る。
「父様」
「なんだ」
末娘の堅い表情からなにかを察したのか、トーヤの父は微笑みかけなかった。問う声も低かった。その身体から統領らしい威厳が漂う。
トーヤは怯まず、父の眼を真っ直ぐに見る。
「どうしてライネイスと協定を結んだの? 協定を結んだってことは、私たちは彼らの支配下に入るってことなんでしょう」
作品名:本望にて 作家名:hujio