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本望にて

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二、



ライネイスの部族と平和協定を結んで二年が過ぎ、季節は秋から冬へと移り変わろうとしている。
「お嬢ちゃん」
二十歳半ばぐらいの体格の良い青年に、トーヤは声をかけられた。
「あんた、秋祭の競馬に出場するような歳じゃねえのか」
青年はにやりと笑った。
秋祭は夏が終わって秋が始まる頃に行われる祭りである。
トーヤたち騎馬民族は冬越しに備えて秋に大規模な狩りをする。そのまえに、意気を高めるためと成功を祈願するために、祭を開催するのだ。
祭では三つの競技が行われる。弓、格闘技、そして競馬だ。
競馬の騎手は身体の軽い子供が務めることになっている。おおよそ六歳から十二歳までの子供だ。
騎手は絶対に十二歳以下でなければならないという決まりはないものの、トーヤは二年まえの十二歳のときを最後にもう騎手を務めていない。
青年が秋祭の競馬に出場するような歳ではないのかと聞いたのは、トーヤが十二歳以下に見えるという意味だろう。
つまり、からかっているのだ。
それをわかったうえで、トーヤは明るく笑う。
「私は秋祭の競馬にはもう出ないけど、出ていたときは強かったわ」
強かったというのは事実である。
秋祭の競馬は長い距離を走るのだが、馬を走らせられない子供や途中で馬に振り落とされる子供もいる中、トーヤは駆け抜け、いつも上位に入った。優勝したこともある。
「馬の扱いは得意よ。見せてあげるから、ついてきて」
ほがらかに告げると、トーヤは止めていた足をふたたび進める。
隣にいるスレンも歩きだした。
トーヤに声をかけきた青年がついてくる。
彼だけではなく、その場にいた何人かもついてきた。皆、体格が良い。おもしろがっている様子だ。
しばらくして、トーヤは自分の馬をつれだした。
馬には乗らずに手綱を引いて歩く。
手綱を持っていないほうの手は縄を持っている。
その縄をトーヤが手にしたとき、まわりにいた青年たちは、おや、と笑った。トーヤがなにをするつもりなのか察したのだろう。
今日も天気が良い。
太陽は照っている。
だが、吹く風は冷たくて、冬が近いことを感じさせる。
春と夏には緑ゆたかだった草原が今では茶色くなっている。
やがて、草原で馬が群れているのが見えてきた。
放牧中の馬である。
長いあいだ人を乗せていたため動きがにぶくなった馬を、しばらく野生に近い状態にして、元気を取りもどさせるのだ。
「あの馬がいいわね」
トーヤは馬の群れをざっと見渡したあと、一頭の馬を指さした。
毛づやも肉付きも良い。体力はすっかり回復しているようだ。きっと、よく走るだろう。
まわりにいる者たちはトーヤの判断に異論がない様子である。
だから、トーヤは自分の馬に乗った。
作品名:本望にて 作家名:hujio