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本望にて

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ジゲンの顔から笑みが消えた。
そして、その口がふたたび開かれる。
「おまえさんは、ハクイ殿の息子だろう」
ハクイ。
スレンの父の名だ
その名を聞いたのはずいぶんと久しぶりで、耳だけではなく心まで打たれた気がした。
表情をできるだけ動かさないよう努力はしたが、それでも動揺がある程度は顔に出てしまったのを感じる。
剣を持つ手に自然と力が入った。柄を強く握りしめる。
ジゲンはスレンを眺めている。
「ハクイ殿は気の毒だった」
その声は沈んでいた。
心からスレンの父のことを思っている様子である。
だが。
「気の毒で済むか……ッ」
スレンは吐き捨てた。
一気に感情が高ぶり、それを外に出ないよう抑えつけることができなかった。
ジゲンをにらみつける。
「あんただって見たはずだ。俺の父は身分を剥奪されたうえで、多くの者が集まる中、公開処刑された。あのとき、皆のまえに罪人として引きずり出された父は傷だらけだった。ひどい拷問を受けたのに違いなかった」
裕福な名家の生まれで振帝国の高官だった父。
それが、処刑場に引きずり出されたときは、罪人として手かせをはめられ、粗末な囚人の服を着て、その服はボロボロで、その服を着ている身体もボロボロだった。
いつも綺麗に整えられていた長い髪は無惨に短く切られ、顔は殴られて変形していて、身体にはムチ打たれたらしい痕もあった。
処刑場を、片足を引きずりながら、身体にいくつもある傷から血を流しながら、歩いていた。
スレンは父のその変わり果てた姿を見て、衝撃を受けた。
信じられなかった。
現実のものとは思えなかった。現実だと思いたくなかった。
父の身体にある傷のひとつひとつが、自分の身体にあるもののように感じた。
心が痛かった。
しかし、それで終わりではなかった。
強い衝撃を受け、心が悲鳴をあげているスレンの眼のまえで、父は処刑された。
首をはねられたのだ。
確実に死んだ。
その瞬間を、見た。
「あんたは父がとらえられるまえ、何度も父を訪ねてきた。あんたと父が密談しているのを、俺はたまたま聞いたことがある。あんたと父は、あの腐った国を腐った部分だけ取り除いて立ち直らせようと話していた」
思い出してしまった父の最期の光景をどうにか胸の奥底に沈めて、スレンは話す。
「それなのに、捕まえられて処刑されたのは父だけだった」
腐った国で肥え太った高官にとっては、国の腐敗を取り除こうとする者は邪魔である。
だから、スレンの父は排除されたのだ。
けれども、それなら、同じ志を持っていたジゲンも排除されたはずだ。
そうならなかったのは、なぜか。
「あんたが父を腐った連中の側に売ったとまでは思っていない」
スレンの父はジゲンを信用しているようだった。
その父の判断を、スレンも信じたい。
「連中は父とあんたが手を組んでいたことを知らなかったんだろう」
連中がつかんでいた情報は、父のことのみだったのだろう。
「だが、連中は父に賛同者がいないとは思ってなかっただろう。だから、拷問を……!」
胸の奥底に沈めた過去の光景が浮上してきた。
心が乱れる。
だから、また、その光景を胸の奥底へと沈める。
「だが、あんたは、今、ここにいる。それは、父があんたのことを喋らなかったからだ。拷問されても、口を割らなかったからだ。そして、あんたは俺の父があんたのことを話さないのをいいことに、沈黙した。関わりないようなふりをした。父を助けようとは、一切、しなかった」
スレンはジゲンの眼をひたと見すえて、言う。
「あんたは父を見捨てた、裏切り者だ」
作品名:本望にて 作家名:hujio