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本望にて

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しかし、ジゲンは少しも揺らがずに見返してくる。
「どうして、おまえさんの父親は俺の名を出さなかったと思う? 拷問されても口を割らなかったのは、それだけ強い意志があってのことだ。おまえさんの父親は、ハクイ殿は、俺を生き残らせたかったんだろうよ。自分の成し遂げたかったことを託すために」
スレンの父が成し遂げたかったこと。
もちろん、それは腐った国を変えることだろう。
「俺はそう受け止め、だから、あのとき、一切、動かなかった」
そう告げたあと、ジゲンはふっと軽く笑った。
「なんて言ったところで、おまえさんには言い訳にしか聞こえないだろうな」
「ああ、言い訳にしか聞こえない」
スレンは突き放すように厳しい言葉を返した。
だが、ジゲンの言ったことは筋が通っているように感じる。
けれども、納得できなかった。納得したくない。
心が受け入れることを拒んでいる。
ずっと裏切り者だと思っていた相手なのだから。
「……まあ、おまえさんが俺を裏切り者だと思うのなら、それでもかまわんさ」
ジゲンの声は冷静だ。
「国を去ってここに来たことを裏切りだと思うのなら、それでもいい」
しかし、その語調は徐々に強さを増す。
「俺のやったことは裏切りだと思われてもしかたのないことかもしれん。だが、俺は自分のしたことを恥じるつもりは、まったく、ない」
スレンを見すえる眼差しが鋭くなる。
「おまえさんは不幸にみまわれたが、幸運でもあった。国を追放されて、それでも今ここにいることが、そのひとつだ」
国を追放され、盗賊に襲われても、生き延びることができた。
それについては、たしかに幸運だったと思う。
だが、父が殺されたのは変わらないし、母がどうなったのかわからない。
「それから、あの頃に国を離れたのは、たとえ望んだことではなくても、まだ幸運だった」
ジゲンは話を続ける。
「おまえさんは自分の父親が処刑されたときの話をした。だがな、そんなことは、今のあの国ではたいしたことではないのさ。おまえさんだって噂ぐらい聞いてるだろう。あの国の状態がずいぶんひどくなってしまっていることをな」
顔を歪めているのでも声を荒げているのでもない。
しかし、その胸のうちで感情が激しく波立っているのが伝わってくる。
「少しでも疑わしければ、疑わしくなくても密告があれば、とらえられて処刑される。処刑された者があまりにも多いんで、遺体は弔いもせずに国の外に捨てられる。外といっても遠くまで捨てに行くのが面倒だから、近くだ。草原を見渡せば、死体がいくつも転がってる。それも、首が無かったり、拷問の痕があったりする死体だ。もちろん骸骨も転がってる。特に夏場はにおいがひどかった」
想像したくない光景だ。
「ほんの一部の者を除けば、貧しさに苦しんでいる。雨露がしのげる程度の家で枯れ木のようにやせ細った者たちが身を寄せ合って暮らしているなんてことは、ざらにある。それでも声をあげないのは、処刑されるのを恐れているからだ。おまえさんが今、あの国に行けば、自分いた頃と比べてのあまりの変わりように驚くだろう」
ジゲンは喉元に剣をつきつけられたまま、スレンをにらむように見る。
「あの国には、今、怨みが渦巻いている」
そう断言した。
ジゲンは黙った。口を引き結んでいる。きつく歯をかみあわせているようだ。
怒り。
悔しさ。
悲しみ。
やりきれなさ。
そんな想いを、感じる。
圧倒される。
作品名:本望にて 作家名:hujio