犬神
「うわぁ・・・最悪」
帝人は依頼をしてきた村に来た瞬間、その顔をゆがめる。
あたりは瘴気で満ち、腐臭がする。
草も木も、もちろん作物だって育つはずがない。
案内をしてくれた村人には聞こえない程度に帝人はつぶやいた。
「助けてくだせぇ陰陽師様・・・これではこの村はお終いです・・・」
「それで、これは一体いつごろ・・・どうしてなったのか理由は分かりますか?」
「それが突然、大きな狼がこの村を襲い始めたのです。その狼が放つ息は瘴気で穢れ、
あの強靭な爪には毒気があり・・・この村はもう死に絶える寸前なのです!」
涙ながらに語る村長と、取り囲む村人たちの憔悴しきった顔。
この村がどうして帝人たち陰陽師を頼ろうとしたか分かった。
分かったが、納得いかないことがあった。
(大抵理由があるんだよね。この村を襲う切っ掛けとか・・・無い筈ないんだけど)
目の前で泣かれても帝人は対して気に留める風もなく、あごに手を当て考える。
そして、ゆっくりと目を閉じ、心をある一点に集中させた。
ざわざわと騒音の中から、己がほしい心の声に耳を傾ける。
(犬神が・・・)
(だから言ったんだ・・・やめろと、)
(早く殺してくれ・・・死んでしまうよ)
(毛皮を返せば・・・でも、あれじゃぁ)
ある単語に帝人は眉を寄せた。さらに神経を研ぎ澄ませ、心の声を聴こうとする。
そして、聞き取った情報から推測した結果、
馬鹿馬鹿しいと鼻で笑いそうになるのを必死にこらえた。
(自業自得もいいところじゃないか・・・)
それでもこれは仕事であり、私情を挟むわけにはいかなかったので、
帝人は分かりました、と営業でよく使う笑みを張り付けながら、
いつもと同じ言葉を紡ぐ。
「私があなた方の依頼、遂行してご覧に見せましょう」