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君と始める20日間

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2日目





昨日は酷い日だった。
アルフレッドは寝起きのぼんやりした頭で洗面所に向かう。10年ぶりに再会したアリスは最後に見たあの雨の日よりもずっと成長していた。───とても奇麗になったと思う。長く伸びた金色の髪や、きゅっと括れた腰、すらりとした肢体は、嫌でもアルフレッドに過ぎた月日を思わせた。
正直なところ、最初は彼もこの滞在に乗り気ではなかった。今更顔を合わせ辛かったというのもあるし、もしかすると無意識に彼女を恐れていたのかもしれない。アリスから遠く離れて生活することは、小さなアルフレッドにはひどく苦痛だった。もう一度彼女と会って、またあんな経験をするくらいなら二度と会いたくないと、無意識に自衛本能が働いたのかもしれない。

顔を洗ってリビングに顔を出すが、アリスはまだ自室で寝ているようだった。今朝は講義がないのだろうか。朝食は適当に済ませて学校に行こうと考えて、辺りを見回すと思わず顔をしかめた。アリスは一人暮らしのはずなのに、どう考えてもカップや食器の数が多い。彼女の趣味ではなさそうな生活用品もあたりに多く点在していた。聞かなくても分かる。昨日の男───確かフランシスとかいう、奴のものだろう。腐れ縁とは言っていたが、異性相手にあの態度はどう考えても自覚が無さすぎではないだろうか。腹ただしいことにあいつの料理は美味かったが、アルフレッドはそれを素直に告げる気には到底ならなかった。食事を済ませると、引越しで疲れたからと適当に理由をつけてさっさと部屋にこもって不貞寝したのだ。
もう朝食は途中のマックにでも立ち寄って食べながら行こうと踵を返したところで、リビングのドアが開いた。アリスが起きてきたのだろう。「グッドモーニング、アリス。そろそろ俺は・・・」学校にいってくるからね!と続く筈だった言葉は不自然に途切れた。沈黙が落ちる。大きめのカッターシャツのボタンを1,2個止めただけの格好で出てきたアリスは、まだ眠いのかフラフラしながら洗面所の方へ向かっていった。寝ぼけているのかもしれない。白い足が惜しげもなく曝され、歩くたびにランジェリーがちらりと除く。健全な男子高校生にとってはこれ異常ないくらい目に毒だった。
結局、アルフレッドが我に帰ったのは、彼女が洗面所に続くドアを後ろ手にぱたんと閉めた後だった。思わずその場にしゃがみこむ。

「Shit!!」───なんてことだ。

アルフレッドは急いで自分の寝室に戻ると、適当な上着を引っつかんで洗面所から出てきたアリスを包んだ。
「君はいつもこうなのかい?これからしばらく一緒に暮らすんだから、もう少し自覚を持ってよ!そんな無防備な格好でふらふらされると落ち着かないんだぞ!」
アリスは勢い良くまくし立てるアルフレッドに驚いているのか目を丸くして、ぽかんと彼を見上げた。まったく5つも年上に見えない。まだぶつくさと文句を続けるアルフレッドに「わ、悪かったわ」とだけ返すと借りた上着を抑えて急いで自室にかけこんだ。
すっかり忘れていた。
昨日からしばらく従兄弟のアルフレッドが下宿することになっていたんだっけ。アリスは呆然と自分の格好を見下ろす。これはない。高校生なんてただでさえ多感なお年頃
なのに申し訳ないことをしたと思う。やや強引に上着を巻きつけてきた彼の必死さに可笑くなりながらも、アリスは頬が緩むを止められなかった。







その日、アルフレッドは学校が終わるとまっすぐ帰宅した。
久しぶりに幼馴染と再会したのだ。積もる話もあるだろう。昨日は生憎そんな場合ではなかったので今日こそはと浮かれて帰宅した彼だったが、見事に期待を裏切られて珍しく落ち込んでいた。帰ってきてすぐにアリスからゼミのコンパで帰宅が遅れるという連絡が入ったのだ。
遅れるってどのくらいだろう。昨日の男も一緒にいるのだろうか。まさか朝帰りなんてことはないよな?シャワーを済ませてからリビングでもんもんと考えていると、いつのまにか23時を回っていた。流石に夜道に若い女性の一人歩きは危険だろう!といいわけ染みた考えで携帯に手を伸すのと、インターホンが間抜けな音を響かせて来訪者を知らせるのは同時だった。
「おーい、坊ちゃん。いるかー?」
慌てて腰を上げたアルフレッドは聴こえた声に思わず顔を顰めた。さも面倒そうに玄関に顔を出すと、泥酔したアリスを支えた同じく酔っ払いの男がへらへらと手を振ってきた。
「うわ、どれだけ飲んだらそんなになるんだい?」
「おにーさんはそこまで酔ってないって」
「そっちはどうでもいいんだぞ。・・・アリスはどうしたの?」
「軽いアルコールと俺らが頼んでたスコッチを間違って飲んだらしい。気付いたときにはこのとーり」
「お約束すぎて言葉も出ないね」
溜息を吐きながらアリスを受け取ると、呂律の回らない口調でなにやらごねた彼女は首の後ろに手を回して絡み付いてくる。途端むっとするようなアルコールの匂いに顔を顰めた。フランシスをさっさと家に追い返してから、アルフレッドはアリスを彼女の寝室に送った。そのまま寝かしてしまっては服が皺になってしまうがしょうがない。悪いのは酔っ払って帰ってきた彼女である。
「アリス、ちょっとおとなしくしててくれよ」
またもや溜息をついて水でも用意しようと立ち上がったアルフレッドだったが、その手を後ろからがっしりと掴まれてつんのめった。
「アル・・・いかないでよ」
帰ってきてから初めての意味が通じる言葉だった。どこか不安気な声音に苦笑して、安心させるように抱きしめる。
「大丈夫、どこにもいかないさ」
「うそ、そういって置いていったじゃない」
「・・・もう行かないよ」
「うそつき・・・っ」
「ヒーローは嘘なんかつかないんだぞ」
そう言ってアリスの顔をを覗き込むと泣きそうな瞳と目が合った。きんいろの睫に縁取ら
れた大きな瞳が熱で潤んできらきらしている。間近で見た新緑は全然昔と変わってなくて、吸い寄せられるように上気した頬を両手で包み込んだ。やばいな、と思ったときには遅かった。唇に柔らかな感触。アリスの小さな舌がアルフレッドの唇をちろりと舐めた。瞬間、アルフレッドのなけなしの理性はあっけなく崩壊した。噛み付くように口付ける。唇を割って荒々しく口腔を貪る舌に、アリスはしっかりと応えてきた。強いアルコールの味にくらくらする。アリスがこくりと喉を鳴らして、口付けの合間から銀色の糸が滴る。顎を伝って胸元を塗らしたをれを舐め取るようにキスを落とすと、「ん、」とアリスから甘い声が洩れた。
「・・・あっつい」
ばたん、と唐突にベッドに倒れこんだアリスは肩で息をしながらシャツのボタンを外し始めた。それにぎょっとしたのはアルフレッドの方である。
「ちょ、ちょっと君!!状況わかってるのかい!?」
「あーもう、、だからあついんだって!」
作品名:君と始める20日間 作家名:名無し