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君と始める20日間

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3日目





なんだか息苦しさを覚えて、アリスはうっすらと瞼を空けた。カーテン越しに朝の柔らかな光が差し込んでいる。もう朝か、重い頭を抑えながらゆっくりと上半身を持ち上げると、するりと肌を滑ってタオルケットが落ちた。
「・・・え?」
アリスは目を見開いた。むき出しになったやけに白い肢体が目に飛び込んでくる。そしてその腰に巻きつくがっしりとした───男の腕。アリスは呆然とその腕の先を見た。寝乱れたブロンドが陽光にきらきらと反射して綺麗だ。眼鏡を外した安らかな寝顔はくらくらするような青年期特有の危うさがある。まだ幼さを残した表情とは裏腹にがっしりとした首にかけられているごつめのチェーン、無地のTシャツから覗く鎖骨───そこでアリスははっとした。Tシャツ!?少しだけ布団を捲って確認すると、ちらりとジーンスが目に入った。乱れてはいるが、アルフレッドは服を着ている。おそらく最悪の事態は避けられたことにほっとすると同時に、こんな時に冷静に確認する自分に嫌気がした。一つ溜息をつくと、もう一度自分の格好を見下ろす。スカートは皺になってしまっているが、昨日大学に行ったものと同じだった。しかし上半身は何故か着ていたカッターシャツを脱ぎ捨て、ブラのホックが外れて申し訳程度に腕に引っかかっている。先ほど起き上がったときに落ちたのは、タオルケットではなくどうやらアルフレッドの上着のようだ。
「これは・・・セーフよね!セーフ!!」
とたんに先ほどの最悪の事態がまた頭を過ったが、これ以上考えまいと頭を振ったときだった。玄関からインターホンが鳴る。ピンポーン、ピンポーンピンポーン、ガチャ。「おい、無用心だな」
アリスはひゅっと息を呑んだ。やばい、フランシスの野郎。しかもがちゃってなんだがちゃって!!!焦るアリスと尻目に足音はどんどん近づいてくる。2人が寝ているのはアリスの寝室だった。勝手知ったる他人の家とばかりにフランシスはまっすぐこちらに向かってくる。どうしよう、どうしよう。ガチャッ───「そろそろ起きないと二コマ目の授業間に合わない・・・」混乱したアリスはとにかく服を着なければ、とシャツに手を伸ばした体制で固まった。今までで見たことの無いような素っ頓狂な顔をしたフランシスと目が合う。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・ひ、いやあああああああああ!!!!!変態!ヒゲ!○○野郎!!今すぐ出て行け!!さもないと引き千切ってやる!」
恐慌状態に陥ったアリスがフランシスに向かって我武者羅に枕を投げる。最後の台詞辺りで真っ青になったフランシスは勢い良くドアを閉めて回れ右した。
泡を食って去っていくフランシスの足音を聞きながらアリスは両手で顔を覆う。死にたい。顔から火が出そうだ。穴があったら埋まりたい。そろそろ啜り泣きを始めそうなアリスを現実に引き戻したのはさっきまで腹部あたりに巻きついていたアルフレッドの腕だった。肩に乗ったそれに思わずびくっと身体が震えた。
「ア・・・アル?」
どうしよう、顔が見れない。昨日何があった、記憶が無いんだけどなんて死んでも聞けるわけがない。
顔を覆った手にゆっくりとアルフレッドの手が重なる。優しく、でも抗えないような力でそれを外すと、アルフレッドはまっすぐアリスの目を覗き込んできた。からっと晴れた真夏の空のような鮮やかな青が視界を染め上げる。見つめる瞳があまりに真摯で、窒息しそうだ。
「・・・昨日のこと、覚えてる?」
ゆっくりと吐き出した声音は掠れていた。部屋に重い沈黙が落ちる。
端的に言えばまったく覚えていない。昨日はゼミの飲み会があって、あまり遅くならないことを条件に無理やり参加させられた。その際にアルフレッドにも連絡を入れたし、酒に強くない自覚もあったのでゼミでも仲のいい女友達とちびちび飲んでいたはずだ。
それがどうしてこうなったのだろう。(アルフレッドは一応服を着ているが、)半裸の男女がベッドで同衾。若気の至りなんて笑って済ませられるような話ではなかった。アリスは青い顔でアルフレッドを見上げた。空色の瞳は一片の曇りなくアリスを射抜く。
「お、覚えてるわ・・・」
そう言った後のアルフレッドの微笑みを、アリスは一生忘れられないと思った───いろんな意味で。正直言ってアリスは混乱していたのだ。少なくとも思わず口から出任せを言ってしまうほどには。それがこの後どんなにやっかいな事態を引き起こそうとも、この時の彼女は知る由もなかった。






「あ、戻ってきましたか。アルフレッドさん、こっちですよ」
「菊!」
鼻歌を歌いながら廊下を歩いていると、教室の窓から見覚えのある黒髪が顔を出した。おっとりとした笑みを浮かべる男子生徒は入学式で意気投合した同じクラスの本田菊だ。
購買で買ったパンとコーラを片手に、アルフレッドは近くの椅子を引っ張って菊の向かいに腰を下ろした。
「今日はご機嫌ですね。何かあったんですか?」
「まあね!」
弁当の包みを解きながら訪ねる菊にニッと笑ってみせる。詳細を告げる気はなかったのでそのままパンに齧り付くと、菊はさりげなく話を違う話題に転換した。アルフレッドは菊のこういったところが気に入っている。

「そういえばもうすぐ三者面談ですね」
「ああ!まったく入学早々嫌になるね!!」
「アルフレッドさんは実家が遠いのでしょう?」
「うん、まあ今はこっちの知り合いの家でやっかいになってるんだけど」
「私の両親は生憎と今海外なので、二者面談にさせて頂こうと思っているんですが。アルフレッドさんはその方に?」
「その方って、アリスにかい!?冗談じゃないよ!」
「同居人は女の方でしたか」
「あ」
くすくすと笑う菊に一本とられた気分だった。以外に抜け目がない。そのあともさり気なく投げかけられる追及を適当に交わして、アルフレッドはこの穏やかな友人の認識をもう一度改めようと心に決めた。



作品名:君と始める20日間 作家名:名無し