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【ギルエリ】 「痛いキス」 ノベリスト版に改訂

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オーストリアの軍隊は思っていたよりも、もろかった。
しかし、ハンガリー軍が出て来ると様相が一変してしまった。

(やっぱりこいつは強えーよな。
トルコに占領されて・・・坊ちゃんちの支配下に入っても。)

騎馬部隊を整然と進めて攻めてくるハンガリー軍。
このやろうと思いながらも、心のどこかで幼なじみの姿が誇らしかった。

(坊ちゃんのふがいなさがこいつにもわかったろうか?)

そんな事を思う自分が笑えてしまった。

エリザベータがローデリヒに魅かれているのは軍事やけんかの強さではない。
ふがいないのはオーストリアがハンガリーに挑んだ52回の戦いで全て勝っているのだからわかっているだろう。

そうではなくて、ギルベルトにはない、文化や教養、音楽や詩作、壮麗な建物や美術・・・。
ギルベルトのコンプレックスの元とも言えるかもしれないローデリヒ。
オーストリアの壮麗な宮殿に、「神聖ローマ帝国」の冠。

(俺は、何も持っていない・・・ただの荒くれた騎士崩れ・・・・。)

フリッツとフリッツの祖父がずっとプロイセンに文化や美術、工芸を推進している。
それも今、戦争によって中断されている。
そんな芸術よりも、こうやって他国とわかりあって、戦争をしているほうがギルベルトの性にあっている。
そこが、彼女が怒るゆえんなのか・・・・・。
しかしギルベルトの本質は、生まれた時から戦って奪うこと。
聖地の奪還が目的だった誕生の所以。
戦うことこそが自分の本質なら・・・・・、全く違う性質のオーストリアにエリザベータが魅かれるというなら。

湧き上がってきた感情がギルベルトの体を震わす。

ギルベルトと正反対のオーストリア=ローデリヒ。

彼が優雅に宮廷でふるまえばふるまうほど、自分は剣でそれを壊したくなる。

支配した国からの重税で、繁栄を誇るオーストリアが無性に憎かった・・・・・・。
そして、その威光で、自分を見下したような態度のオーストリア・・・・・。

「彼女」がその支配下で「女」として扱われていること・・・・・・。

すべてが許せない・・・・・!

(何もかも・・・だ! 何もかも、俺が壊してやる!!)

震える体と心の中の怒りを抑えて、腕の中のエリザベータを見下ろした。

彼の貸したシャツがはだけて胸が見えた。

とたんに、抱いているエリザベータを突き飛ばしそうになって、あやういところで腕を止めた。

(・・・・・む、胸が・・・・・・・っ!)

白い肌に、見事に盛り上がった形のいいふたつのふくらみ・・・・。
その先端の、桜色をした・・・・・・。



ギルベルトは猛烈な痛みを下腹に感じた。
急速にある一点に血が集まっていくのがわかる。
頭の中が真っ白になる。
息が浅くなって、そして激しくなる。
男としての欲望がギルベルトの全身にうずまく。

(み、見るからいけないんだ・・・!!見なけりゃ・・・!)


エリザベータの胸が見えないように、彼女の体を抱きしめた。

それがかえってギルベルトの欲望に火をつけてしまった
抱きしめたことで、はだけたシャツの下のエリザベータの素肌の感触を余計に感じることになった。

女の肌・・胸の感触・・・。
暖かく乾いた、やわらかな・・・・なめらかな・・・・・。

ドクッドクッと心臓が激しく唸って、口から飛び出していきそうだ。
生まれてはじめて目の前に居る女性に、猛烈に感じた欲望がギルベルトの体を激しく震わす。
抑えようのない男としての本能。
腕の中にいるのは懐かしい幼なじみのはずなのに、「女」として自分は感じて反応している。

必死で、膨れ上がった情動を押さえる方法を思い出す。

(落ち着け・・・・・。そう・・・・・深呼吸・・・・・。)

騎士団であった時、戦いの場面の興奮が、激しい性欲につながったことが何度もあった。
しかし、自分は「騎士団の権化」であり、騎士としての戒律をもっとも厳格に守るべき存在・・・・・・・。
不犯の誓いを守る・・・・・・。
その、欲望の押さえ方のようなものを司祭や、老練な騎士たちから教わったはずだった。

それでも今、猛烈に感じている欲望は止めようがなかった。
腕の中のエリザベータは理想ともいえる女性の体をしていた。
その体を今、自分はほぼ裸の状態で抱きしめている・・・・・・・。

男として、反応しない方がおかしかった。

なんとか欲望をそらそうとする。
しかし、眼はエリザベータの膨らみにいってしまう・・・・・・。
彼女のシャツをはぎとって、全身を見つめたい・・・・・。

欲望を押さえようと必死になるが、体が震える。
気が狂ってしまいそうな激しい渇望。

それを幼なじみのエリザベータに感じる・・・・・・?

欲望と一緒に、騎士時代に植付けられた罪悪感が襲ってきた。

(だめだ・・・・!!俺は・・・騎士・・・・!!騎士ならば、こんなことは・・・。
思うだけでも神に対する罪だ!ああ・・・・・・・!!)

もう騎士でも騎士団でもないことを、この時ギルベルトは完全に忘れていた。
何百年もの習慣は、まだギルベルトに深く根付いている。
彼は、徹底して、潔癖に育てられたのだ。
「騎士」であること、本物の「修道騎士」であってこそ、「騎士団」の具現なのだから。

頭の中で、何度も何度も不犯の誓いを繰り返す。
罪の意識と、湧き上がってくる欲望がせめぎ合う。



その時、エリザベータが身じろぎして、目を覚ました。

「う・・・ん。・・・・・・」



ギルベルトははっとなって彼女を見る。

(頼む!!今、目を覚まさないでくれ!!こんな俺を見ないでくれ!!)



ギルベルトは目を閉じて、エリザベータを見ないようにする。

「ん・・・・・・・。」

エリザベータはギルベルトの腕の中で向きを変えると、また寝入ってしまった。


ギルベルトは、大きくため息をついた。
そのまま、何度も深呼吸する。

彼女に、男として反応している自分を見られなくてよかった。
こんな自分を見られることへの恐怖が、ギルベルトの情欲をなんとか押さえた。

ふうーっともう一度息をつく。



性欲をやり過ごすのは、なんとか出来た。
興奮も少しだけ収まってきた。
しばらくすれば、ふつうの状態に戻るだろう。
後は、もう彼女との接触を・・・・・。

エリザベータから体を離そうとして、ギルベルトはそれが出来ない事に気がついた。

(え・・・・・?!)

腕の中に抱きしめていれば、またいつ反応してしまうかわからない。
それでも離せない・・・・・・。



(なんで・・・・・・。)


小さくなったように感じる幼なじみ。
今、胸の中にいるのは少年ではなく一人の少女・・・・・・・・。
いや、少女というよりは、もう一人前に成長した女性・・・・・・・。


この腕から離す事など出来ない・・・・。
エリザベータをこのまま感じていたい。
ギルベルトは放心したように動けなかった。



雨の音が静かに響いてくる。
振り止みそうにない外はまだ暗い。
夜明けはまだ遠いのだろう。

(雨が止んだら・・・・・・夜が明けたら・・・・・・・)

エリザベータを起こして、止みそうにない雨の中でも馬達を探して帰らなくては。