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【ギルエリ】 「痛いキス」 ノベリスト版に改訂

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ギルベルトがエリザベータの腕をつかんではがいじめにした。

「なんだよ!」
「お前、あったかくなってきた。こうやってると俺もあったかい・・・。」

じたばたと暴れたせいか、少しだが体が温まってきた。
ギルベルトがぽすんとエリザベータの頭のてっぺんにあごを乗せた。

(こいつ本当に、でかくなりやがって・・・・。)

(ああ・・・やっぱりこいつ、女なんだな・・・。ずいぶん小せえ・・・・。)

お互いの体の変化を感じた。
それに、流れた年月の長さも・・・・・。

一緒にクマン族と戦った記憶は、まだ二人の中では昨日のことのようなのに・・・・。



「雨・・・止みそうにねえな・・・・。」
「ああ。このままここで止むの待ってれば、服も乾くだろう。」

二人で向き合って抱き合う格好になったが、二人とも恥ずかしさはなかった。
ギルベルトがエリザベータの頭のてっぺんをあごでわざとこづくので、エリザベータがそれをよけようとして暴れる。
もごもごと二人で動いていると暖かかった。

まるで、子供の時のような・・・・・。
一緒にハンガリーで過ごした、あの14年間のように・・・・・。
まだ、お互いの性別すら気にしなかった昔に戻ったような。
さっき感じていた苦しみは、抱き合ってお互いの体温を感じていれば、どこかに消え去っていた。

洞窟に吹き込む風が弱まってきた。
雨は小雨になったがやむ気配はない。

ふわあ、とギルベルトがあくびをした。

「おい、寝ちまうのかよ!寝ちまったら・・・・・刺しちまうぞ!」
「う・・・・寝たりしねえよ。ちょっとあったかくなったから。俺、ここんところ戦闘続きで、あんま寝てねえんだよ・・・・・。」
「言っとくがな・・・・。今、俺とお前は敵同士なんだぜ。わかってんだろうな?」
「わかってるよ・・・・。お前はオーストリアの剣だっつーんだろ?
ったく、坊ちゃんらしいよな・・・・。自分じゃなく、お前に盾になってもらうとはよ。」
「オーストリアさんを悪く言うな!俺が自分で志願したんだ!」
「ああ、そうかよ!なら敵同士らしく戦えばいいだろ!ただし、今、俺はさみいんだ!!後にしろ、後に!」
「なんだよ!そりゃよ!」
「おい、離れんな!さみいだろうが!!」
「あー、うるせい、ほんとに刺してや・・俺の剣・・・俺の剣!!何処行った?!ない?!」
「お前の服と一緒にそこにかかってんだろうが。」
「あ・・・あそこか。よかった。」
「ふん・・・・あれはお前んちの昔の国王が持ってたつう剣だろ?まだ持ってたのか。」
「・・・ああ、そりゃ大事なものだしな・・っておい!」

動こうとしたエリザベータはぐいっとギルベルトの胸に押しつけられた。

「いいから動くなよ・・・・。やっとあったまってきた。」
「なんだよ・・・・俺はお前のゆたんぽじゃねえぞ。」

ギルベルトの腕の力が強くなる。
しかし振りほどく気にはならなかった。
エリザベータもギルベルトの背中に腕をまわして強く抱きしめる。

「・・・・昔・・・・みたいだな・・・・。」
「・・・・・・そうだな・・・・。」

ギルベルトの声がだんだんと眠そうに響く。
ギルベルトの顔を見上げると、彼は目を閉じている。

「・・・・昔・・・・・お前んちで・・・あれは・・寒い冬で・・・・。」
「・・・・・お前、寒がりだったもんな・・・・。」



初めて二人が会った時、季節は冬になろうとしていた。

アッコンで生まれたギルベルトにとって、体験したことにない寒い冬。
体が凍るかと思うほど寒かった。
南国のアッコンとハンガリーの平原では気温が全くちがっていた。
ドイツの真冬の寒さで育っている騎士たちはなんともないようだったが、ギルベルトは違った。がたがたと震えて、熱をだした。
内緒で、震えるギルベルトの寝床に潜っていってやった。
毛布をかけてやってもギルベルトは震えていた・・・・・。
なんだか可愛そうになって、こうして二人で抱き合って眠った。
ただ、お互いの体温が暖かかった。

(・・・・敵同士になるなんて思いもしなかった。
・・・・・・いつも心のどこかに居た、大切な幼なじみ・・・・・・・・・。)

(・・・・変わってない・・・変わっちゃいない・・・。敵になったって、俺が他人ちの支配下になったって・・・いつだって、こいつは俺のところに来て、狩りに連れ出してくれて・・・・。)


ギルベルトがそっとエリザベータの頭の上にキスをした。
それを感じながらエリザベータはギルベルトの胸に口づける。

子供のころには、二人で口づけなどしなかったのだけれど・・・・・・。
今はそれが自然な事に思えた。

「・・・ねみい・・・・。」
「・・・・寝たらやばいんじゃねえか・・・。ここ寒いしよ・・・・。」
「う・・・・・・。」
「あ・・・おい!寝るなって。私・・俺にもたれかかったら重いだろう・・おい!」
「・・・・・・だめだ・・・・寝る・・・。」
「おい!!寝るな!」
「・・・・刺すなり・・・・もう・・・好きに・・しろ・・・・。」
「だから刺したりしねえって・・・・!!」

ギルベルトはエリザベータにもたれかかって眠ってしまった。
エリザベータはため息をつく。

さっきまでの派手なけんかで、胸が張り裂けそうに苦しくて痛かった。
なのに、今はこうしてお互いの胸の中で眠ってしまっている・・・・。

けんか仲間・・・・幼馴なじみ・・・・・・。

長い年月を生きて行く「国」としても、もっとも古い記憶の中にいるギルベルト・・。
お互いに最も言いたいことをはっきりと言えて、殴りあっても、ののしりあってもいつの間にか元の通りになれる・・・・・。
女の格好をさせられてからというもの、ギルベルトとはどこかぎくしゃくしていたけれど・・・。

(たぶん・・・・これなら・・・大丈夫・・・・。きっとこれからも・・・・。)

エリザベータはそう思うと心が落ち着いて安心した。

(俺は結局女だったけど・・・・お前はたった一人・・・変わらないでくれるもんな・・・。
 俺に「女でいろ」なんて言わねえのはお前だけだもんな・・・・・。なあ・・相棒・・・・。)


とたんに眠くなってきた。
ギルベルトはエリザベータを離さずに岩棚に半分体をもたれかけて眠っている。
外の雨は朝にはきっと止むだろう。
ギルベルトの胸に顔を押しつけて、エリザベータは目を閉じた。






























雨が降っている。


体が半分だけ冷たい。
半分・・・?

ギルベルトは目を覚ました。
抱きかかえているのは暖かい体。
それがエリザベータとわかると、一瞬で頭に血が上った。
抱いている手が震える。
やわらかで暖かい、自分とはまったく違う女の体・・・・・。

(どうして・・・・なんで・・・こんな・・・・!)

眠ってしまう前のケンカ。  

(怒鳴りあって・・・・そうだ・・・雷からここへ逃げ込んだんだ。)

思い出して、胸がずきりと痛くなった。
張り裂けてしまうくらいの心・・・・・・。
エリザベータに張られた頬よりも、胸がどうにも痛かった。

(それでも・・・・今こいつは俺の腕の中にいる。
 あいつじゃなく、俺の・・・・・・・。)