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【ギルエリ】 「痛いキス」 ノベリスト版に改訂

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「悔しくねえのかよ!お前は!」
「なあ・・・・・やめよう・・・・・昨日も同じこと言いあったじゃないか・・・。
繰り返しても無駄だ・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ギルベルトは、ぐっと言葉につまる。
昨日の言いあいは、彼にだってこたえた。
またあんな思いをするのは・・・・・・・・・。

エリザベータが、悲しそうに笑った。
「今の俺の上司はマリア様で、オーストリアさんなんだ・・・・・。俺のうちの金もってる貴族共は、皆ウィーンにいるしな・・・・。」
「・・・・・・・・お前は・・・・・・・。」
「いいこともあるんだぜ。トルコにやられて以来、減る一方だった俺の民もオーストリアさんところにいるうちに、なんとか元の人数に戻ったし・・・。ボヘミアやクロアチアにだって俺の民が暮らしてる。まあ、うちの特産品を売るって意味でも助かってる。悪いことばっかりじゃないんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「一度は、分断されて消えちまうって思ったけど、今こうしていられる。それだけでもありがたいって思う・・」
「もういい!!」

ギルベルトがエリザベータを抱きしめた。
エリザベータはギルベルトの自分への気持ちに感謝して、その体を抱き返した。
ギルベルトが体を震わせているのを感じた。

「・・・俺は、このままなんとかやってくさ。」


「もう、言わなくていい!」

ギルベルトはますます力を入れてエリザベータを抱きしめた。
エリザベータはギルベルトの背中をたたく。

まるで子供をあやすように。


「・・・・・お前は、お前の好きにしろよ・・・。俺は俺の民と上司に従うだけだ・・。」


エリザベータは彼女を抱きしめているギルベルトの首に手を回すと、彼の顔を引き寄せた。

エリザベータは感謝の気持ちを込めて、彼の頬にキスをした。

「ありがとうな。・・・・心配するなよ。」


ギルベルトの感情がわきたった。


「・・・・・・・取り戻す・・・。」
「えっ?」
「・・・なんでもない・・・・・。」

(俺はもっと強くなる・・・お前を坊ちゃんの支配から解き離して・・昔の姿のお前を取り戻す!フリッツの言うように、「俺」が今度はドイツ諸国の帝王になる・・・!!ばらばらの「ドイツ」を一つにまとめて・・・・どこにも負けねえ「大国」になる!ロシアにもフランスにも絶対に負けねえような強い国に!!)


ギルべルトは、抱きしめたエリザベータの首筋に激しく唇を押しつけた。
「あっ・・・・・。」

エリザベータが驚いて、体を離す。
何をすると怒鳴ろうとしたが、ギルベルトは平然とした顔をしている。

ほんの少しだったが、今の彼のキスが怖かった・・・・・。

(どうして、首筋なんかに・・・・。)

キスされたというよりも、かみつかれたような感触だった。



真顔でギルベルトはもう一度エリザベータを抱きしめて言った。

そっと彼女の首に細い金の鎖をかけた。
でも、エリザベータは、キスの感触に惑わされて、その鎖には気がつかなかった。



「負けんなよ・・・・・。お前は負けないはずだ・・・・どんな時も・・・!」


エリザベータが笑った。

「ああ・・・・・・。そうだな・・・・・。」

今度はエリザベータがギルベルトの頬にキスを返した。


「・・・・負けねえよ・・・・・。」





首筋がジンジンする・・・・・・。
それくらい強いキス・・・・・・。


 
(これが唇にきていたら・・・・・・。)

ふとエリザベータはそんな事を思った。
何故そんな事を思ったのか、この時はわからなかった・・・・・。

それなら、きっと怖くなかった・・・・・・。

自分は待っていたような気がしたのだ・・・・・。
彼からの、「唇」へのキスを・・・・。
今、首筋に触れたような、激しい口づけを・・・・・。





そんなことを思っていると、ギルベルトが今度はそっとエリザベータの頬にキスした。



「さあ・・・・・帰るか・・・・・。帰らねえとな・・・。」



体を離したギルベルトを、なぜかエリザベータは残念に思った。

もう少し、抱いていてもよかったのに・・・・・・。
仕方なく、彼を抱いていた手を離した。


(昨夜・・・・・・暖かかったな・・・・。)


ギルベルトの体は男の体だった。
ほのかに、彼のにおいがしていた。

眠ってしまっていた間、彼のため息を聞いた気がする。


何度か眼を覚ました時、ギルベルトは眼を閉じて、自分を抱きしめていた・・・・・。

自分よりも大きくて、骨ばって堅い腕・・・・。
むき出しになった部分にかすかに触れる彼の素肌・・。
筋肉のしなやかな動きが伝わって動く肩のはばの広さ・・・。
静かな吐息と、同じ鼓動を繰り返す心臓の音・・・・・。


それを感じて、安心してまた眠ってしまった・・・・・。

彼に寄りかかって眠っていたから、彼が体を離した時、眼が覚めた。
彼の暖かさを感じなくなって、何か哀しくなって、眼が覚めた・・・・・。

雨音はどこか、懐かしい遠い記憶を思い起こさせた。

そう・・・・故郷の・・・・・ギルベルトと一緒に過ごしたハンガリーの森の中・・・・。





小止みになった雨の中、洞窟を出た。

馬を呼ぶために口笛を吹きながら、二人で森の中を歩く。
森と雨は、二人に遠い昔を思い出させる。

モンゴルとの戦い。
トルコとの戦い・・・・・。

いつも、戦いのさ中で、森を二人で歩く・・・・・・・。
雨の匂い・・・・・。
彼の体温と匂い・・・・・。

何も変わらない・・・・・。

彼は「男」で、私は「女」だったけど・・・。


変わらないでいてくれる・・・・。




「寒くないか?」



ギルベルトが隣を歩きながら言う。


「ああ。大丈夫。」



問いも答えもいつも同じ。

あの時も、今も・・・・・・きっとこれからも・・・・・・。






何度も移動しながら歩いていると、やがて馬達が見つかった。
主を見つけて、喜びながら近づいてくる。
だが、雨に打たれて、森をさまよったのか、元気がなかった。

「・・・怪我は・・・大丈夫そうだな・・こいつらも。」

ギルベルトは木の上によじ登って、方角を確かめた。

「あっちの方に、小さな館が見える。たぶん、坊ちゃんのところのもんだろう。赤い屋根が三つに、丸い塔が一つある。」
「ああ・・それは夏の離宮だ・・・・。たぶん、そこに行けば、馬の代わりもいると思う・・・。お前の馬も疲れてるだろうから・・。」
「遠慮しておく。坊ちゃんに鉢合わせしたらいやだからな。ゆっくり歩いていくさ。俺の陣営も、ここからならさして遠くねえ。まあ、お前を送ったら帰るさ。」
「え?別に送って行かなくてもいいぜ。」
「・・・・・・・送っていくよ・・・・・。いかせろよ。」
「・・・・うん・・・・まあ・・・いいか・・・。」

なんとなく二人とも別れがたかった。
ぱらぱらと雨が頭上にふりかかる。

森を抜ければ・・・・・本当に別れないと・・・・・。

今度はいつ会えるのだろう・・・。
また会うのは戦場なのか・・・・。

きっと戦場でお互いに剣を交えるのだろう。