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【ギルエリ】 「痛いキス」 ノベリスト版に改訂

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敵同士として。


それでも・・・・・・・。



   昨夜のように、言いあって、喧嘩して・・・・・
   それでも、お互いの腕の中で眠って・・・・・・。

   子供の時と変わらない時間・・・・・・。

   きっと幸せな思いで・・・・・・。




   昨夜のような喧嘩はもうできない・・・・。
   お互いの腕の中で眠るなんて出来ない・・・・。

   子供の時は終わった・・・・。

   俺は・・・・お前を・・愛してる・・・・・。









赤い屋根がすぐそこに見えた。

「じゃあな・・・・・。」
「ああ・・・・・。シャツ、ありがとうな。」
「礼はフリッツに言ってくれ。まあ、いつかでいい。この戦いのほとぼりが冷めたころにでもあいつのとこに来てやってくれよ。」
「新しい城を作ってるんだろ?私に見せたくて仕方ないみたいだった。」
「・・・・小さい城だけど・・・きれいな城になるだろうな・・・設計もフリッツ自身がやってるんだぜ。自慢したくてたまらないんだろ。」

ギルベルトは彼の王の凝り性を思い出して笑った。

「いつか・・・・行けるかな・・・・。」
「こねえと、フリッツが見に来ないって怒って、お前んちを攻めるぜ。」
「脅しかよ・・・・困った王様だな。」
「そういう奴なんだよ。」

別れたくなくても、いつかは別れなければならない。

二人は向き合うと、お互いの顔を見つめた。

「・・・じゃあな・・・・。」
「ああ・・・・。」

動けない二人。
視線が絡み合う。

「行けよ。」
「お前こそ。」
「じゃあ、俺は行くぞ。」
「ああ、じゃあな。」

それでも二人とも動かなかった。

ぷっと吹き出してしまう。

「なんだよ、行けよ!」
「ああ、行くよ!」

ギルベルトは動かないエリザベータの馬をたたいた。
馬が驚いて走り出した。

エリザベータが馬上で振り返る。

ギルベルトは手を上げて、後ろを向いた。

エリザベータも振りかえるのを止めて、夏の離宮に向かって馬を駆けさせた。


それぞれの思いは、胸の中に残して、二人は別れた。

その甘い思いが、この直後に消し飛ぶことになるとはまったく思わずに。





*********************************







お茶を飲んでいたローデリヒの元に、エリザベータが帰還したとの連絡が入った。
夏の離宮!

夏の離宮は、ハンガリーというよりも、シュレジェンに近い。
やはりエリザベータはプロイセンとの戦場からさほど離れていなかったのだ。
昨夜の雷雨で、彼女はきっと濡れて凍えていたにちがいない。

ああ、どうして自分は迎えにいかなかったのだろう・・・・。
雨の中、探しに行けばよかった・・・。

心配ならば、探しに行く・・・。


それだけのことが浮かばなかった・・・・・!

自分で自分を攻めながら、ローデリヒはウィーンから飛び出していった。

お伴を、という家臣の声も、護衛をつけます、という女帝の叫び声も耳に入らなかった。


ローデリヒは馬を駆って、離宮へと向かった。
彼が女帝のいる宮殿から出ることなど、久しぶりの事だった。
気持ちが焦るが、離宮までは遠かった。
無理やり走らせている馬の速度が落ちてきた。
口からは泡が噴き出ている。
このままでは馬を乗りつぶしてしまう。
ローデリヒは、何も考えずに飛び出してきたことを後悔しだした。
やっと軍のいる兵舎へと立ち寄って、馬を借りることを思いついた。
途中で馬を乗り継いで、離宮へ向かう。



ようやく離宮に着いた。
ローデリヒは彼女のいる部屋へと急ぐ。
いつもの優雅な足取りと違って、全速力で走るローデリヒを見て召使たちが驚いている。

「ハンガリー!!」


ドアの前で叫んだローデリヒを、侍女たちがあわてて止めた。

「お待ちくださいませ、国家様!ハンガリー様は、お怪我の確認中でございます。」
「怪我?!ハンガリーが怪我をしているのですか!?」
「いえ・・・・お怪我をしていらっしゃらないか、今、御殿医が見ております。昨夜の雷雨を避難してらして・・・ああ!お待ちを!」

侍女が止めるのも聞かず、ローデリヒは医務室へと向かった。
中からは御殿医とハンガリーの声が聞こえる。

「・・・・・この傷はもう大丈夫ですな。きれいに治っておりますよ・・・」




ローデリヒは医務室に入ろうとしたが、途中で足をとめた。



ドアから横向きになっていて、ローデリヒには気がつかないが、エリザベータが着ているのは・・・・・。

見たことのない、絹のシャツ・・・・・・・!
明らかに、上質で優雅な織りの・・・・・・・・。

この「国」では見たことのない織目・・・・・・・。



ローデリヒの頭にカァっと血が上った。
わなわなと体が震える。
叫びそうになった口を押さえた。





気がついた時、ローデリヒは小宮殿を飛び出し、馬に乗っていた。
殺したいほど憎んでいる相手を探して・・・・・・。

昨夜帰ってこなかったエリザベータ・・・・・。
着ている最上質のシャツ・・・・・・。
豪雨と雷・・・・・・・・。
プロイセンとの戦場にほどちかいこの離宮・・・・・・。




もし、想像通りなら・・・・・・。

嫉妬が湧きあがってきて、押さえることが出来なかった。
膨れ上がるどす黒い感情・・・・。


馬を駆り、「彼」を探す。
まだ、その辺にいるはず・・・・・・・!

彼女が帰ってきたのだから・・・・「彼」は必ず彼女をここまで送ってきたはずだ・・・。

ローデリヒは気が狂ったように馬を飛ばした。
辺りを見回し、その姿を探す。


そうして、駆けまわるうちに、その姿を見つけた・・・・・・・。


馬を降り、剣を引き抜いた。
何も考えずに行動した。
そんなことは、長く生きて来て、はじめての事だったが、ローデリヒは気がつくはずもなかった。



じっと樹の影で小宮殿の方をギルベルトが見ていた。

湧き上がってくる冷たい感情と、正反対の燃えるような思い。
この感情をなんというのか。
穏やかな性格のローデリヒは、まだ知らなかった。





後ろからの殺気に気がつくと、ギルベルトはとっさに横っ跳びによけた。
振りおろされた剣の切っ先がギルベルトの肩をかすめる。
跳んだついでに、ギルベルトは反射的に腰の剣を引き抜いた。
相手を確認する前に、また剣が髪を払う。
熟練した剣の使い手のギルベルトは、本能で後ろに飛びのく。
なんとか体制を整えて、はじめて相手の顔を見た。

ギルベルトは愕然とする。
そこに居たのは・・・・・・・・・・・。

「オーストリア?!」

恐ろしいほどの殺気に満ちたローデリヒの顔。
いつもの柔和な表情はなく、全身から彼の怒りが伝わってくる。

「容赦はしません!プロイセン!!いえ、ギルベルト!!」

声までが、いつもより、低く響く。


「この野郎!!」

突然切りかかってきたローデリヒに、ギルベルトは怒り狂った。
剣も抜いていない相手に後ろから切りかかるなど、いつものローデリヒからは考えられない事だった。
しかも、剣の腕から言えば、到底ギルベルトにかなうはずもない。