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【ギルエリ】 「痛いキス」 ノベリスト版に改訂

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そのことをローデリヒも承知の上で切りかかってきたのか・・・。

ローデリヒは剣を両手で持ち、じりっ、じりっとギルベルトに迫ってきた。

「はっ!この坊ちゃんが、一人で俺様に勝てると思ってるのかよ!!」

剣と剣が打ちあって火花が飛び散る。
次の瞬間、ガシンと剣が絡み合う。
そして、離れて、またぶつかり合う。
力任せに振りおろされた剣に、お互いの手がしびれる。
しかし、二人とも、剣を打ちあうのをやめはしない。
何度も何度も、横に、縦に、冷たい刃が舞い踊る。
騎士団として、何百年も剣をふるい続けてきたギルベルトは、ローデリヒを左右に翻弄させる。
ローデリヒは、その度になんとか体の姿勢を保って、打ちおろされ、横凪ぎにされる剣を剣で受ける。

「シュレジェンはもう俺のもんだぜ。お前のその細腕一つで取り戻せるとでも思ってんのかよ!」
「・・・・・・・・・!!」

ローデリヒはギルベルトの挑発にはのらず、冷静に、黙って剣を打ちこんでくる。
剣の技量の差は明確だった。
このままなら、体力の面でもギルベルトがいずれローデリヒを打ち負かすだろう。
しかし弱いはずのローデリヒが何度も剣を受け止めるのに、ギルベルトはいらいらとし始めた。
ギルベルトは、渾身の力を込めて、剣を打ちおろした。
はじけ飛ぶ、と思われたローデリヒの剣は、ぐっと剣を握り締めた彼によって、まだ握られている。

(ちきしょう!!このお坊ちゃんが!!剣の腕は大したことないくせに・・・!!)

普通の剣士ならば、ギルベルトの一撃で、剣を落とすはずだ。
なのに、ローデリヒから、剣をたたき落とせない!

(こいつ・・・・・!!技じゃねえ!!手の力・・・・握力が半端ねえんだ!!)

ギルベルトに翻弄されながらも、ローデリヒは、振りおろされる剣を受け止めている。
思えば、ローデリヒ個人と剣を交えるのは、これが初めてかもしれない。
戦場で実際に戦うのは、兵士たち・・・・・・。
なんだかんだで、「神聖ローマ帝国」の範疇にある「ドイツ騎士団」・「プロイセン公国」は、オーストリアの下で戦いこそすれ、敵となったことはほとんどなかったのだ。

(へっ!面白くなってきやがったぜ!!)

ローデリヒは、蒼白になりながらも、怒りの表情のまま、必死でギルベルトの剣を受け止め、ともすれば払い、打ちこもうとしてくる。

(なんでこんなに坊ちゃんが真剣なのか知らねえけどよ!!)

剣を弾き飛ばすのが無理ならば・・・・・。
別の方法で・・・・!
打ちあうたびに、ローデリヒが顔を一瞬しかめるところから、彼の手はそろそろ限界のはずだ。
だが、人の何倍もの、握力の持ち主なのだろうローデリヒは剣を離さない。

(ならよ、お坊ちゃん!お前は数時間も戦ったことがないだろ!切っても切っても終わらない、地獄のような戦闘の中で過ごしたことなんぞないだろう!!俺は、ずっと北の海の地でそういう戦いをしてきたんだ!)

ギルベルトの目がその緋色を増す。
血の色がさらに濃く、表情からは感情が一切消えた。

それを見て、ローデリヒの背中がぞっと総毛だつ。

(これが、虐殺をもいとわない「ドイツ騎士団」の姿!!これが、本当のプロイセン・・・・・・・!!)

一方的に打ちこんできていたギルベルトの手が止まった。

両手で持っていた剣を片手にもちかえる。
何かを唱えて、また剣を両手で持つ。

ローデリヒはギルベルトのすきを探したが、まったくと言っていいほどそれがない。
口の中でぶつぶつとつぶやくそれがローデリヒの集中力を妨げた。
ローデリヒの腕も、ギルベルトが打ちこむ剣戟にしびれて痛みが走るようになってきている。それでもローデリヒは剣を引けなかった。
エリザベータの姿を見てから、ローデリヒの頭には、ギルベルトを討つことしか浮かばなかった。
湧き上がってくる感情に任せてギルベルトに襲いかかった。
今は、何も考えられない・・・・。
感情が理性を支配するなど、生まれてこのかた、ローデリヒにはまるでなかったことだった。それだけに制御がきかない。

二人はまた剣で打ちあう。
ガシっと音がして、剣の先が刃こぼれして飛んでいく。
疲れた腕よりも、剣自体が持たなくなってきた。

ギルベルトがにやりと笑った。
その残忍な表情にローデリヒは怒り狂いそうだった。

(暴虐で・・・・卑劣で・・・・・・下品な男!!こんな男に・・・・・・!)

その瞬間、ローデリヒのすきをついて、ギルベルトの剣が上腕をかすめる。
「くっ!」

ローデリヒは、思わず左腕を押さえる。

すかさずギルベルトが右腕を狙ってくる。
ガンっと剣が鳴ったが、襲ってくる剣を撃ち返す。
左腕から、とろりと血がしたたり始めた。

「・・・どうだよ坊ちゃん、降参するならこれで許してやる。」
「誰がっ!誰が、降参などしますか!!」
「ほお、まだ続けようってのか?上等じゃねえか。」
「くっ!」

ギルベルトの繰り出す、左右からの連続攻撃に、必死で応戦するものの、たらたらと流れてくる左腕からの出血で、力が入らなくなってきた。

それを見て、ギルベルトは酷薄な薄い笑みを唇に浮かべた。

「そろそろ力が入らなくなってきたろ。やめねえなら、俺はかまわないぜ。どうするよ?」
「・・・・・・・この!」
「お馬鹿さんが!か?馬鹿はお前だろう。俺にたった一人で打ちかかってきて、勝てるわきゃあねえだろうが!」

ギルベルトの剣が今度は脇腹をかすめる。
鋭い痛みがローデリヒを襲う。

「このまま、なぶりものにされる前に、手をついて謝れよ・・・・。なんたって、今回はお前が俺の後ろからいきなり襲ってきたんだからな!シュレジェンを取られて、頭に血が上ったのかよ!ええ?このくそ坊ちゃんが!!」

「黙りなさい!!この下賤な成りあがりが!」
「おっと、お前だってそうだろうが!元は貧乏な辺境伯ふぜい!お前はなあ、実力もないくせに、周りの王家をだまくらかして、大きくなってきたんだ!上司を取りこまれて、お前に従うしかねえ憐れな国を、いったいいくつ飲み込んできやがった!」
「私は貴方とは違います!虐殺と暴力だけで支配する貴方とは!」
「はっ!支配するのに、何が違うって言うんだ?どっちもやってることは同じだ!弱けりゃとられ、強くなったら取り返す・・!!お前と俺の立場はこれから逆転するんだよ!
お前に味あわされた屈辱を、返してやるよ!今、な!」

ギルベルトの剣がローデリヒの頭上に打ちおろされた。

ガキっと音をたてて、ギルベルトの一撃を受け止めたローデリヒの剣が折れた。
剣先が吹き飛んで、彼らの真横の地面に突き刺さった。

「さあ・・・これで終わりだ!オーストリア!」

ローデリヒは折れた剣をギルベルトに投げつける。
それを軽く剣ではじくとギルベルトはローデリヒを睨みつけた。

激しい憎しみ。
呪うようになめてきた数々の屈辱の思い。
次々に大国を飲みこんで大きくなっていく憎い相手。
「俺の好きな女を支配している」国。

後ろずさるローデリヒに向けて、ギルベルトはまっすぐに剣を向けた。

ローデリヒも、腰にさした短剣を引き抜いて構える。

大嫌いな相手。
下品な物言いや、乱暴な手段を選ばぬ辺境の属国。