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【ギルエリ】 「痛いキス」 ノベリスト版に改訂

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「はい。陛下。お時間いただいてありがとうございました。」

フリードリヒは満足げに笑いながら行ってしまった。


なんという国王か!
気さくでいながら強引で、ぬけめない・・・・まるで嵐のような・・・・・。

どこかあのギルベルトに似ている、と思ったとたん、何か頭にきた。
あの丘の向こうにいるだと?

文句の一つも言ってやろうか?

通行証をもらってしまった。明らかに国王の正真正銘のサイン・・・・・。
こんなものをもらってどうしよう・・・・。
プロイセンまで新しい城を見に来いって事なのか。
どうやら自分はあの国王に気にいられたらしい。
どうしてだか、わからないけど。

まあ、いいや・・・・・。何かの役に立つかもしれない。
ありがたくもらっておこう。
でも・・・オーストリアさんには内緒だな・・・。
マリア様にも・・・・。
今回の事で女帝は徹底的にあの国王を嫌っている。
フリードリヒ国王その人と話したなどとわかったら、大変だろう。

しかし・・・聞いているようで聞いていない・・・質問に答えているようで、はぐらかされたような・・・・・。
なんとも抜け目ない国王なのだ。
若くて理想に走る哲学者の国王と聞いていた。
しかし、今話した国王は、底知れない人物だ・・・・・。
気をつけないと・・・・プロイセン国王は、ただならぬ人物・・・。

しかし、この戦争をしかけてきたのは本当にギルベルトではないのだろうか?
国王から聞いてもにわかには信じられない。
いつでもオーストリアに対して敵対心をむき出しにしているギルベルト・・・。


正直、眠れなかったのだ。
プロイセンが突然オーストリアを攻めたと聞いたとき。
どうして?と言う問いが胸をこだまして離れなかった。
苦しかった。
自分も戦わないといけないだろうか?
女帝は必死で自分に助力を求めてきている。
結局、自分は宗主国に逆らうことなど出来ないのか・・・・。

オーストリアを攻める?
弱小国のプロイセンが?

勝てるはずがないと思ったのに、まんまとプロイセンはシュレジェンを奪い取ってしまった。
プロイセンと同盟したフランスとザクセンがオーストリア国内で、好き勝手にしている・・・・・。この間まで、オーストリアと一緒だったスペインまでが・・・・。
オーストリアさんはきっと困っている・・・。
自分が助けられれば・・・・。

でも・・・・ギルベルトと戦う?

戦うのは「国」であるからかまわない。仕方のないことだ。

だけど・・どうして・・・・・。
私がここに来てるのに・・・・

一緒に狩りをしに行ったり・・・・・ダンスや礼儀作法のレッスンに飽きた頃に、いつもギルベルトは現れては、エリザベータを退屈な宮廷から連れだしてくれた・・・。
息がつまりそうな時、後でどんなに怒られようとギルベルトと一緒にウィーンを抜け出すのは爽快だった・・・・・。
ローデリヒが演奏する時は、ギルベルトもものかげに隠れて一緒にそれを聞いたり・・。
なんだかんだでギルベルトはエリザベータに会いにきたし、こっそりと一緒にウィーンを抜け出すのは楽しかったのだ・・・・・・。

ローデリヒはいつもギルベルトを見ると眉をひそめる。
ギルベルトも明らかにローデリヒには態度が悪かったから、三人で一緒に過ごすなどということは皆無だったけれど・・・・・・。

オーストリアを攻めるということは、その支配を受けている「ハンガリー」も巻き込まれる・・・・・・。そのことがプロイセン・ギルベルトの頭の中にあったかどうか・・・。

一つ、文句を言ってやるか!
フリードリヒ国王も、なんだか、私とギルベルトを会わせたがっているようだし・・。
通行証をくれるなんて・・・・!!
プロイセン公国に、いつでも行けるってことじゃないか!
国王の王宮にすら行けそうだ・・・・・。

あの丘の向こうだと言っていたな・・・・。
ちょっと、一発、殴ってやれば気がすむかも・・・・。


エリザベータは護衛の兵士を先に行かせると、丘の向こうへ馬を進めた。


「ハ、ハンガリーっ?!」

引き払われようとしている陣営にギルベルトはいた。
いきなり現れた敵の将、しかもギルベルトと同じような「国」。


「どういうつもりだ!お前は!」

エリザベータはギルベルトの顔を見ると怒鳴り始めた。
そうでもしないと久しぶりに会ったギルベルトとどう話していいのかわからない。

兵たちがエリザベータを取り巻いている。

「俺は勝手に帰るから、お前たちは先に国王のところに戻っていてくれ。
心配ない。あれは、俺のダチだ・・・。」

ギルベルトは、兵たちに下がるように言うと、エリザベータを連れて陣営を離れる。

丘を越えて、森の近くまで来ると、やっとエリザベータの方を向いた。

「なんでお前・・・ここにいるんだ?」
「なんだっていいだろう!それよりもお前!シュレジェンを返せ!あれはオーストリアさんの土地だ!」
「あのよお・・・いきなり現れてそれかよ。お前がまさか出て来るとは思わなかったけどよ・・・・・。」

「・・・・・いきなり攻めてくるってのはお前の策略か?」
「おい・・・・・。なんだ・・・・。まあ、ちょっと落ち着けよ。お前んちの騎馬隊・・・・相変わらずすごいな。見たぜ。お前、人んちに居ても、あれは変わらねえな。」

ギルベルトが懐かしそうに話す。

どうして、こんな天気の事でも話しているみたいに・・・・・。
シュレジェンを奪ったのはどうしてなのか聞きたいのに!

「答えろ!なんでオーストリアさんから奪う?お前はこれをずっと狙ってたってのか?!」
「狙ってたに決まってるだろ!女帝なんかゲルマンの国が認めるかってんだ!昔からの法律だってあるんだぜ!欲しいものがあれば、奪う!誰だってやってることだ!」

けんか腰のエリザベータに、だんだんギルベルトも頭にきはじめた。
懐かしいさに胸がいっぱいになったというのに、相手からは糾弾しかかえってこない。

「オーストリアは、ずっと偉そうにしてきた。今、俺は強くなった!仕返しして何が悪い!」
「だからって、どうしてオーストリアさんなんだ!お前んちの国王は変わったばかりのくせに、こんな事を!お前が国王をたきつけたのか!」

国王自身から聞いたばかりだというのに、ギルベルトに聞かずにはいられない。
そうして、自分がこれほどけんか腰なのか、エリザベータは自分でもわからなかった。

「は!フリッツは天才だ!人の言うことなんぞ聞く耳があるものか!俺がたきつけたって?当たり前だ!欲しいものがあれば、俺はなんでも奪う!それが俺だ!お前だって知ってんだろ!」
「なんにも変ってねえな!私の家に居たころからお前はずっとそうだ!なんでも欲しがって、なんでも奪っていって・・・!それでひどい目にあったのを忘れたの?!」
「なんだ!その女言葉はよ!なよなよしやがって!坊ちゃんちにいって、お前まで軟弱さが移っちまったのかよ!」
「オーストリアさんを馬鹿にするな!お前・・・いい気になるなよ!シュレジェンを一時的に奪っても、取り返しにくるって思わないのか?!」
「うるせえ!今はもうシュレジェンは俺の土地だ!俺のものだ!」