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【ギルエリ】 「痛いキス」 ノベリスト版に改訂

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生まれつき男で・・・・・剣を振り回してて当たり前だと思われるお前に・・!!」

雨はぽつぽつと、怒鳴りあう二人の間に落ちて来る。
空はますます暗くなり、風がひどくなってきた。
ギルベルトはじっと黙ってエリザベータをにらみつけている。

エリザベータは心のうちでも怒鳴り続ける。

(どうせ、俺のことなんか、お前にはわからない・・・・・!!)

胸ははりさけそうなのに、怒りがこみ上げてくる。

(こいつは生まれつき、男だから・・・!俺みたいに女じゃねえから・・・!)

エリザベータの怒りは、自分が男でない事への、ギルベルトへの理不尽な八つ当たりもあったが、そんな事は今の彼女にはわからなかった。
ただ、自分を執拗にせめるギルベルトへの怒りと、自分のふがいなさへの怒りと哀しみがないまぜになってエリザベータの胸をさいなむ。

  この苦しみは、お前にはわからない!!
  このつらさは、お前になんか、わからない!!


そう言われたギルベルトは、逆にだんだんと怒りが醒めてきていた。
最初はギルベルトも、自分の苦しみしかわからなかった。
どうして、彼女が自分を責めるのか・・・・。
責められることがどうしてこんなにつらいのか・・・・。

自分はオーストリアの国力を割くことで、ハンガリーやボヘミアなどオーストリアの配下の国々が、その支配から脱出できるきっかけを作るのではないのか?
それはオーストリアの支配を受け続けている彼女にとってもいいことではなかったのか?
現にフリッツはオーストリア配下の、虐げられている国々にも、今回の戦への参加と協力をひそかに呼びかけた。
どこも表立って協力こそしなかったが、彼らはこの戦の結果を見守って手だしはしなかった。
今回この戦に勝てば、彼らの態度も変わるだろう。

そんな中、ハンガリーだけが、マリア・テレジアの必死の嘆願を受けて、プロイセンに立ち向かってきた・・・・・。
どうして「彼女」だけが・・・・・。
他の国々は 、宗主国であるオーストリアには協力していない。
それなのに、ハンガリーは・・・・・・。


もちろん、戦争をしかけた一番大きな理由は、「プロイセン」が強く大きくなることだ!
強国オーストリアから経済の発達し、豊富な資源のあることろを奪う。
小さなプロイセンにとって、どんなチャンスでもものにして強国になるのは必然だ。
どの国もそうしているではないか・・・・・。
それをこの、幼馴染みの、気づいてはいないが自身がずっと恋している少女から否定される・・・・・・!
しかも彼女はあくまで宗主国の、オーストリアの味方をしようというのだ!

長い年月と苦しみの末、やっとのことで「国」となった。
ただ認めて欲しかったのに・・・・自分がもう立派の一つの「国」となった事を。
必死で大きくなって、戦って、彼女を支配している憎い国を攻めた自分を、彼女が非難する!!

この焼けつくような胸の痛みと、気が狂いそうな怒り・・・・・・・・。

目の前の少女は激しく自分に怒りをぶつけてくる。
しかし、つかんだ少女の腕のか細さに、もうかつての「相棒」が変わってしまった事を知る。
まだ子供の心のままのギルベルトにとって、エリザベータの自分への非難はただひたすらショックだった。
この痛みが恋であることも知らず、ただ、変わってしまった彼女への怒りだけが心を支配している。

だが、今、彼女は泣いている・・・・・・・・・・。
心の底から嘆いて、憤って・・・・怒りながら泣いている・・・・。
エリザベータを責めた事がむなしくなってきた。


  あぁ・・・俺はどうしたいんだ?!
  泣かせたいんじゃない!
  わめかせたいんじゃない!!
  そうだ・・・・・俺は、こいつに・・・・。
  元のように、昔のような、ハンガリーでいて欲しいんだ・・・・・・
  俺と渡り合って、喧嘩して、殴りあって・・・一緒にまた狩りをして・・・・。



彼女は変わってしまった。
体も心も、その考えも。
支配を受けている間に、「幼馴染み」は「敵」の「配下」になった・・・・。


  俺達は・・・・・もう子供時代のようには・・・二度と戻れない!

残酷なまでの現実に頭がしびれるような衝撃を受けた。
変わってしまったのは、彼女だけではない。
自分だって・・・・・。
公国となって、世俗にまみれた。
膨れ上がる欲だけが自分を支配するようになった。
オーストリアを攻めたのも、結局はおのれの欲のため。
誰がなんと言おうと、今回の戦の暴挙はプロイセン側にある・・・・・。

雨は音を立てて降り始めた。
それでも二人は立ちつくしていた。

もう、何も言えない。
雨に打たれて、風になぶられながら、二人でにらみあって立っていた。
雷の音がとどろく。
暗闇の中、ピカっと空に稲妻が走る。
ザアーっと音を立てて雨が激しく降り始めた。

それでも二人は立ちつくしている。

心が麻痺しているようで体が動かない。

稲妻の音は激しくなり、近くの森の木が風になぶられる。
雨は土砂降りになって、二人にうちかかる。
滝のようにふりかかる雨。
衣服は水を吸い込んで重い。

それでも動けない。

心の中の何かが二人とも壊れてしまった。
失くしたものが大きすぎて、しかも何を失くしたのか、わからない。
ののしりあうことで、相手だけでなく、自分もを傷つけた。
それがわかるのに、相手に手を差し伸べるにはお互いにプライドが許さない。

子供同士の意地の張り合いだと、もっと大人であれば思えたろう。
こんなにも苦しいのは、「恋した相手」から非難されているからだと気づいていれば・・・・。
本当に大切だと思うものは、すぐ目の前にあるのに、失くしたものばかりに心をとらわれて、それを見つけられない。
「国」として長く生きてはいるが、心はまだ「少年」のままなのだ。
お互いに同じような年齢であることが、意地の張り合いを助長する。
動けないのは心の重さと、気づいていない恋の重さのせいなのか。

その時、すさまじい音を立てて、そばの木に雷が落ちた。
一瞬、辺りが紫色の光に染まる。
メキメキと音を立てて、炎を上げて木が倒れる。

二人ともハッと正気に戻った。

辺りを見回す。
土砂降りになった雨のせいで、向こうの景色が見えない。
鳴り響く雷の轟音。
森の木の下は危ない。
どこかへ避難しないと。
どちらからともなく、腕を取り合って、走りだした。
どこか・・・雷をさけられるところへ行かなくては!

すでにしたたかに濡れて水を吸い込ん込んだ衣類は重く、体の動きを邪魔する。
軍靴からはジャブジャブと水がしたたる。

ガラガラと音をたてて、そこらじゅうに雷が落ちる。

(まずい・・・・!このままだと雷に打たれて死んでしまう・・・・。)

死にはしないかもしれないが、黒こげになるのはごめんだ。

二人で必死に避難出来る場所を探す。
幸い、雷に打たれた木は、炎をあげながらも、激しく降る雨にかき消されていく。
火事に巻き込まれることはなさそうだ。

しかし、雷から早く逃げなければ・・・・・。

ギルベルトはエリザベータの腕を引っ張りながら、走る。
頭はすっかり冷えていた。