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【ギルエリ】 「痛いキス」 ノベリスト版に改訂

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「うるさい!!そんな卑怯な事するかっ!いくらお前が今、敵だからって・・・!!無防備の奴を後ろから刺すくらい腐ってやしない!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・いくら俺だって・・プライドってもんがある・・・。
何を言われたって出来ないことはあるんだ!!」
「なら、どうして、ここに来た?どうして俺を責める?坊ちゃんがお前に俺を弱らせてこいって命令したんじゃなきゃ、何しに来たんだ?わざわざ、俺に文句言いに来てどうしようってんだ。」
「・・・・聞きたかったからだ。」
「何を?」
「・・・・どうしてお前がオーストリアさんを攻めたのか。」
「へっ!決まってんだろ!俺が強く大きくなるためだ!」
「どうしてオーストリアさんの領地なんだ?」
「混乱している相手に付け込んで何が悪い?俺だっていっつもそうされてきたぜ?弱ってるところをこぞって皆でつるんでたたきにきやがる。坊ちゃんはいっつもそうしてきた。他の連中だってやってる。俺が坊ちゃんにそうしたら責めるのか?お前は。」
「・・・・・・・・俺は今オーストリアさんのうちで世話になってる。
だから少しでも恩返ししたい。」
「だから俺を襲いに来たってわけか!じゃあよ、刺せよ!かまわねえよ!ほら!」

ギルベルトが両手を上にあげた。

「お前が俺を刺さねえなら・・・・いつか俺があの坊ちゃんを刺すぜ?」

エリザベータは一瞬怒りにまかせて、剣を拾い上げてギルベルトを刺そうかと思った。
しかし、出来なかった。
彼を刺したところで、戦局は変わりようがない。
あのだらしない軍隊がオーストリアの主力部隊である限り、勝ち目などなかったのだ。
それに、自分がここへ来たのは・・・・・どうしてもギルベルトと話したかったから・・・・・・。
敵同士になってしまった彼。
それが、どうしようもなくつらい・・・・。
何故、夜も眠れないほどつらいのか、どうして彼はオーストリアを攻めたのか。
直接会って問いただしたかったのだ。
彼の答えはわかっていたのに・・・。

もし、この時、エリザベータが自分の心をもっと深く見つめ直していたのなら気付いていたのかもしれない。

  「どうして「プロイセン」が「オーストリア」を攻めたのか」

ではなくて、

  「どうして、「オーストリアに自分=エリザベータがいるとわかっていて」ギルベルトが攻めてきたのか。」
ハンガリー=エリザベータは宗主国・オーストリアの味方になるしかないではないか。
敵・味方となるとわかっていて、何故攻めてきたのか。

そのことを聞きたかったのだと・・・・・・・。

自分の絶望にとらわれている彼女もまた、まだ心は少年のままなのだ。
少女の心すら、葛藤の中にいて、まだ目覚めてはいない。
少女としての淡い恋になど、気づくはずもなかった。

「・・・・・・・・・・。」

エリザベータは、背を向けたままのギルベルトを見つめ、そして洞窟から外に出た。

もう、これ以上ギルベルトと話していたくない!
心がどうしてだか痛くて、胸がしめつけられて・・・・・。
自分をいつも優しくかばって助けてくれるオーストリアさんのために、戦っていたのに・・・いざとなるとこいつを刺すことも出来ない。それでいて、自分の中の悔しさもどうすることも出来ない。
ギルベルトと話したら、少しは納得出来るのかと思ったけど・・・・かえってつらいだけだった・・・。

洞窟の外はまだ激しく雨が降っている。
雷はどこか遠くへ行ってしまった。

このまま、馬を見つけて帰ろう・・・・・・・。
愛馬はつないではいないから、この雷雨の中、どこかに避難しているだろう。
体はぬれねずみだが、元々濡れているからかまわない・・・。

「なにやってんだ!このやろう!!」

後ろから腕を乱暴につかまれた。
ふりほどく気力もないまま、洞窟の中へ連れ戻された。

「・・・・離せよ・・・・・。」

自分でも不思議なくらい無感動な声が出た。

「雨降ってんのが見えねえのかよ!まだ雷だって鳴ってるんだ!今外へ行くのは馬鹿だろうがっ!」
「馬鹿だろうとなんだっていいさ。俺は帰る。」
「・・・・・・・・!」

ギルベルトの頭の中で、何かが音を立てて切れた。

『帰る』。

何処に?

『オーストリア』の元に?!

湧き上がってくる気持ちが何なのかも、わからなかった。

  帰る?!
  『奴』の元になんか行かせるものか!!
  こいつを『奴』に渡したりするものか!!
  こいつは『俺』のダチだ!!
  『俺』だけのものだ!!

激情にまかせて、ギルベルトの手は、エリザベータの濡れた服をひきはがしにかかった。

「な!何しやがる!!」
「・・・・うるせえ!!」

乱暴に、エリザベータの濡れた衣類をはぎとっていく。

「やめろ!」

エリザベータは叫んで、ギルベルトの腕から逃れようとするが、ものすごい力でつかまれて、重く濡れた服からボタンがはじけ飛んだ。
怒りにゆがんだギルベルトの顔・・・・・。
軍服の上着が飛び、間に着ていたベストもはぎとられた。
上半身は、あと薄いシャツ一枚しかなくなった。

エリザベータは恐怖に駆られた。
この時ほど、ギルベルトとの腕力の差を感じたことはなかった。
怒った男の力にねじ伏せられる・・・・・・・。
どんなに逃れようとしても、出来ない・・・・・!

(・・・・怖い・・・!!オーストリアさん!!)

エリザベータの心に、優しいローデリヒの顔が浮かんだ。

(・・・・こいつが怖い・・・・!!どうして・・・?!)

真っ青になってギルベルトを見上げる。
恐怖に硬直した体が動かない。涙が出てきそうだった。

怒りにまかせていた手が止まった。
エリザベータの顔に浮かんだ表情を見て、瞬時にギルベルトは我に返った。

(何をやってるんだ?俺は!!)

自分がみじめだった・・。
自分の方を振り向かせて、自分を認めさせたかっただけだった・・・。
強く、大きくなった自分見せつけたかった・・・・。
エリザベータに、わかって欲しかった・・・・。
自分がいつまでも放浪の騎士団や、弱小な公国ではない事を見て欲しかった。

しかし、何もかも、うまくいかない。
自分が何をしたいのかもわからなくなってきた。
情けなさのあまりに、心の痛みのあまりに、胸が苦しい。
低く唸ると、ギルベルトは唐突に腕を離し、岩棚にかけてあった自分のシャツをエリザベータに放ってきた。

「このままじゃ風邪ひくだろうが!わめいてないで、それを着ろ!」

ギルベルトはくるりと後ろを向くと、座りこんだ。
エリザベータは、反射的に放り投げられたシャツを持つ。
ほとんどそのシャツは濡れていない。

「全部脱いだらそれを着ろ!フリッツが俺に特別にあつらえたやつだからな!少ししめってるけど、お前が着てるのよりはましだろ!」

シャツは上等の絹で出来ていた。
貴族の間でもめったにみない様な、かなりの上物だった。

「・・・これは・・・・王が着るものじゃ・・・。」
「だから、フリッツが自分じゃなくて俺たちに着ろって、城中の皆に無理やり作ってくれたんだよ!
それなら、すぐに乾くだろうし、何か着てねえと寒いだろうから着てろって言ってんだよ!」