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【ギルエリ】 「痛いキス」 ノベリスト版に改訂

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ギルベルトが怒鳴り散らす。
それでもギルベルトに一瞬感じた恐怖が、エリザベータの手を震わせて、自分の着ているずぶぬれのシャツを脱ぐのをためらわせた。

「こんな雨の中、馬も見つからねえのに出て行くなんて馬鹿だろうが!どうせ俺達は雷にも気がつかねえ馬鹿なんだからよ!せめて、風邪ひいて皆に迷惑かけねえようにするくらいはしねえと、もう本当に、馬鹿も馬鹿すぎるっだろうが!!」

ギルベルトが座りながらわめき散らしている。
こちらを向きそうで、それでもこちらを見ないように必死になっている顔が、遠雷に光って赤く見えた。

(・・・泣いてる・・・・?)

一瞬の光でわからなかったが、ギルベルトの顔に涙が光っていたような・・・。
それとも、雨のしずくなのか・・・・。

(・・・どうして・・泣く・・・・?こいつが・・・・?)

ギルベルトはあまりの情けなさに、不覚にも涙が出そうだった。
自分がしたことは、何一つエリザベータにはわかってもらえなかった・・・・。
それどころか、彼女と敵同士になって・・・・。
彼女はオーストリアの味方・・・・いや、坊ちゃんの「盾」となって自分と戦う・・・。
自身が周辺国に支配され、蹂躙された過去を持つ彼女だからこそ、自分が「国」となり、大きく強くなって行く姿を見て、
喜んでくれると思ったのに・・・・。
この戦に勝って、「彼女」ハンガリーを、あの坊ちゃんの「支配」から抜け出させることだって出来るって・・・・


エリザベータがこっちを見ているのに、気がついた。

泣いているなどと思われたくない。
体が震えた。
雨のしずくが髪を伝って、背中に落ちた。



「へーっくしょん!!」

その時、ギルベルトが大きなくしゃみをした。


それで、いきなり二人の間の空気が変わった。
エリザベータの呪縛が解け、一瞬、気が抜けたように足から力が抜けた。
次の瞬間にはギルベルトに感じていた恐怖よりも、寒さに震えている幼馴染みの少年に対する思いがまさった。

「お前、寒いならお前が着て・・・。」
「うるせえ!早くそのシャツ着て、俺様の背中にくっつけよ!」

何を馬鹿な事を!と思ったが、エリザベータは思い出した。

(それって・・・・・昔クマン族を、砦のてっぺんで見張ってた時。)

ギルベルトはあの時の事を思い出して言ったのか。
彼がハンガリーに来た時。
何百年前だったろう?まだ彼は「ドイツ騎士団」だった・・・・。

クマン族を夜に見張る役目を、無理やり二人で志願したものの、あまりの夜の寒さにお互いに背中をくっつけて見張りにたった。
合わさった背中からぬくもりが伝わってきて暖かった。
眠りこけそうになって、砦から下ろされて、こっぴどく怒られて・・・・・・。

その事を思い出したとたん、手の震えが止まった。

(こいつは・・・・・・俺の・・・・昔っからの大切なダチだ!!)

そう思うことで、心が落ち着いた。
深く呼吸して、背を向けたギルベルトの背中を見つめる。
エリザベータは濡れたシャツを脱ぐと、素肌にギルベルトが寄越した絹のシャツを身にまとった。
しめってひんやりとしていたシャツは、着ると驚くほど暖かい。
女王や王妃が公式の席で纏う最上質の絹の様だ。
それをドレスでなく、下着のシャツに使う・・・・・・。
自分ではなく、家臣のために。
今さらながら、国王フリードリヒに脱帽する思いだった。

ギルベルトのように、濡れた衣類を岩棚にかける。
服からは、雨水がしたたり落ちた。
それを絞って、もう一度岩棚にのせ直すと、エリザベータはむき出しのギルベルトの背中に自分の背中をくっつけて座った。
とたんにギルベルトが背中で押してくる。

「押すなよ!」
「さみいんだよ!もっとくっつけ!」
「なんだよ!」

心が凍るかと思ったギルベルトは内心ほっとしていた。
そう・・彼女は「女」で変わってしまったけれど・・・・それでも・・・・。
自分も変わったの・・・・。だから「彼女」が変わっても仕方ない。
でも、大切な「幼馴染みのダチ」であることは、まだ彼女もいっしょだったらしい・・・・・。

素直にギルベルトの脱いだシャツにくるまってくれた「彼女」・・・・・・。

ギルベルトは、宮廷の姫君たちに贈られるはずだった絹を家臣たちの下着として配ってしまった国王に呆れていたが、
今は猛烈に感謝したい気持ちだった。

これで、エリザベータは少しは暖かいだろう。

負けじと押しあっているうちに、最初は冷たかったお互いの背中がだんだんと暖かくなってくる。
洞窟の中に風は吹きこんできてはいたが、雨はさっきよりも弱まってきた。

エリザベータはシャツの袖が自分の腕よりも長い事に気付いた。
戸惑いながら、袖を伸ばして、手まで隠す。

(そっか・・・こいつ、背がまた伸びたのか・・・・。)

座っているとシャツはひざまで隠れるほど長い。
もう背を追いぬかれて悔しいという気持ちは浮かばなかった。
このまま、こいつと静かに背中を合わせていたい。




寒い。
背中は暖かいけれど容赦なく吹き込む風に、どうしても体が震えてしまう。
シャツを着ていないギルベルトはもっと寒いだろう。

「おい・・」

後ろを向いてギルベルトの方を見ようとした時、ぐいっと腕と体を引き寄せられた。
抗議する間もなく、ギルベルトの固い胸が押しつけられる。
背中合わせだった体が今度は向き合って胸と胸がくっつきあう。
「さみい・・・・・。」

ギルベルトががたがたと震えながらエリザベータにしがみつくように腕を彼女の背中に回す。
「寒いよな。」
エリザベータも、ギルベルトの背中に腕をまわして裸の彼の体を少しでもおおってやる。
エリザベータはギルベルトの胸に顔をうずめて彼の背中に腕を回す姿勢になっているが、さっき感じた恐怖はもうなかった。
ただ、彼の震えを止めてやりたい。
自分はギルベルトのシャツを着ているから少しはましだが、ギルベルトは髪は濡れているし、上半身はむき出しの裸なのだ。

「火がつけられるといいんだが。」
「たきつけになるようなもんが、ここにはねえし。」
「やっぱりこのシャツお前が着て・・」
「うるせえよ。それはお前が着てろ!それよりももっとつっくけよ!なんとか暖まらねえと、ここで凍えしんじまう!」
「雨が止んだら、こっから出て、もっとあったかそうなところを探すか。馬たちも見つけてやらねえとな。」
「あぁ。馬たちは自分で逃げてるだろうがよ・・おい!」

エリザベータはギルベルトの背中を手でこする。

「こうすりゃ、ちょっとはあったかいだろ?」

「痛え。」
「我慢しろよ!こすればちょっとはあったかいだろ?」
「いてて・・・そこは痛えんだよ!あ。おい!わざとそこばっかり、こすんな!」
「うるせえなあ。なんだ、お前、背中怪我してんのか?傷がまだ開いてんじゃねえか。包帯くらいまいとけよな。」
「傷なんかとっくに治ってらあ!!痛!だから、そこは触んな!」
「お前、うるさい!寒いんだろ?せっかくあっためてやってんだから・・。」
「ちっくしょう!火さえ起こせりゃあよ。」
「全部、濡れてるんだ。雨だって止んでねえし。」
「いてっ!お前、動くな!」