水の器 鋼の翼番外2
彼女は、ワンピースのポケットを探って、自分のIDカードを取り出した。慣れた手つきで、入口のカードリーダーにIDカードを通す。だが。
「ドアが、開かない……!?」
カードリーダーは、認証不可のアラームを耳障りに鳴らしただけだった。いつもなら速やかに開くドアが、うんともすんとも言わない。慌てて彼女は、もう一度カードをカードリーダーに通してみた。結果は先ほどと同じだ。空しく響くアラームに、彼女は呆然とする。
「そんな、どうしよう、どうしたら……」
開かないドアを前にして、途方に暮れる女。その時、彼女が胸に抱いていたものが、もぞりと動いた。
「あー、うー」
それは、生まれて間もない赤ん坊。彼女の一人息子だった。急に起こされた上にずっと小刻みに揺さぶられていて機嫌が悪いのか、彼女の腕の中で手足をバタバタさせてぐずっている。
彼女はますます焦り出した。早く隠れ場所を探さなくてはならない。今ここで追手に見つかれば、確実に追いつかれてしまう。
彼女は小走りで、他に隠れる場所があるか探した。きょろきょろと辺りを見渡していた彼女の目に、ドアの開いた部屋が映る。あそこなら隠れられそうだ。これ幸いとばかりに、彼女は赤ん坊を抱いて部屋の中に飛び込んだ。
その部屋の札にはこう書かれている。「小型モーメント機器開発部」と。
作品名:水の器 鋼の翼番外2 作家名:うるら