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SLAMDUNK 7×14 作品

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たったの一歩、大きな一歩









夏が来て、秋が来て、やがて冬が去って。
一巡りしてまた春が来て、もうすぐ夏がやってくる。
6月に入ればじきに梅雨入りだろうと、テレビで言っていた。
それでもまだ外はあたたかいと言える陽気で、こうしてじっと立っていると、つい目を閉じてしまいそうになる。
休日のためか、賑わっている昼下がりの公園で、砂場で遊ぶ子どもを見ていた三井は、隣にいる男に話しかけた。
「なあ、ガキの頃って何して遊んだ?」
顔は公園の中心に向けられたままだが、三井はその男がどんな顔をして自分を見ているか容易に想像がついた。
きっと軽く眉をひそめ、バカにするような呆れた顔をしているに決まっているのだ。ほぼ毎日、そうした表情は自分に向けられているのだから。
すっかり慣れたタバコの香りと、短い無精ひげ。
伸びたくしゃくしゃの髪の毛のまま、トレードマークのようなジャケットを着込んで、男は笑う。
「まだガキのくせに、何言ってんだ」
むっとして唇を尖らせると、鉄男はタバコを落として足でもみ消し、不機嫌な三井の顎を取った。
「て・てつお!?」
突然近づけられた顔に三井はうろたえた。
すると、目の前でまたふっと笑われ、だからガキなんだよ、と言われる。
ホラやっぱり、バカにした顔してる…。
「寄り道は終わりだ。帰るぞ」
そういって、さっさと公園を出て行こうと鉄男は歩き出す。
三井は後を追いながら、入口でもう一度、子どもたちを振り返った。
砂のお城を建てたり、ブランコに乗ったり、おいかけっこをしたり。
あの頃の自分も、彼らのように輝いていたはずだ。
楽しいときに笑って悲しかったら泣いて、そんなあたりまえのことを去年までの自分はわかっていた。
「三井」
呼ばれて立ちどまり、自分を待っている人間へと意識を移す。
「ああ、行くよ」
彼の影響で伸ばしている髪(それは内緒だ)をかきあげると、今の居場所へと歩みを進めた。





去年の予選から一年がたって、全国大会の緒戦が明日だと聞いた。
学校の屋上で、いつものように授業をサボって、ぐだぐだと漫画なんかを読んでいた。
今日はまだ徳男しか来ていない。ベンキョウするために学校に来てるわけじゃないから、仕方のないことだ。
こうしてたむろっているだけで、やらなきゃならないことがある訳じゃない。
なんかもう、明日から学校来るのやめようかな。でも、そうしたら鉄男のヤツがうるせーしな…。

みっちゃん、うちのバスケ部も出るらしいよ、と徳夫が言う。
「だから何?」
「ううん、なんでもない」
徳男はオレが、バスケをしていたなんて事は知らない。今のオレの場所では、誰も過去にこだわらないし、何でここにきたかなんて誰も聞かないからだ。それが楽でこうしているんだけど。
きっかけはなんだったか覚えてはいないが、屋上によくいた徳男たちとつるむようになり、それから徳男の紹介で鉄男に会って、いつの間にか鉄男のうちに転がり込むようになった(コレもきっかけは覚えていない)。
けれどどうしてか、徳男はバスケの話をよくする。
そう感じてしまうのは自分の意識が過剰にその話に反応するからだとは思っていても、やっぱりその話をされるのは腹が立った。
「バスケ部なんてどうでもいいんだよ」
怒るでもなく、傷つけられたような響きの三井の声に、徳男は小さく謝った。


あの頃の自分が、一番幸せだったということは知っている。
確実な未来があって、大切なチームメイトがいて、安西先生がいてくれた。
なによりバスケットのことを毎日考えてよかった。
当たり前にボールに触れて、ドリブルの振動が心地よく伝わってきて、ゴールに向かって投げたシュートは、ごく自然に真ん中を通過した。
そして今の自分が、そうでないことも分かっていた。
この両手はずっとボールに触れていない。トレーニングもしていないから、どれほど体力が落ちたか分からない。
それでも、タバコだけは吸わないでおこうなんて考えている自分が、よりいっそう惨めな気がする。
毎日のように見る夢に絶望さえ感じていた。
バスケなんて、もうやらない。
だってオレは、全部失ってしまったんだから。

「かえる」
そういって立ち上がってオレを見て、徳男は慌てて声をかけてきた。
「みっちゃん、怒ってるのかい?」
泣く子も黙るような強面のくせして、心根の優しい男は、何かとオレを気遣ってくれる。
その優しさをうっとおしく感じることもしばしばだが…。
「ちげーよ。見たいテレビがあるんだ」
ドアに向かって歩き始めると、ダム、とどこかでボールが跳ねた。
とっさに足を止める。
ダム、とまたひとつ。
「みっちゃん?」
徳男が後ろで不思議そうな声を出す。聞こえていないのか?
ダム、ダム。
ほら、まただ。バスケのことなんか考えたから、こんな音が聞こえるのだろうか。

ダム、ダム、ダム。

「あ。ボールの音だ」
きょろきょろと徳男は辺りを見回す。聞き違いじゃなかったことに焦って、さっさと出て行こうと歩き出した。
この音を平気で聞いていられるほど、自分はまだ…。

「あっちの貯水塔の方からみたい。見て来ようか?」
「何でだよ!」
怒鳴り返すのとほぼ同時に、突然屋上に大声が響いた。

「見ててくれよ、アヤちゃん! 絶対に勝ってやる!!」

某テレビ番組の主張コーナーでもあるまいし、今どき屋上で叫ぶ奴がいるなんて。
ははっ、と徳男は笑った。
「宮城だよ、今の。バスケ部1年宮城リョータ。何でも、アヤコとかいうマネージャーにぞっこんらしいって噂」
バスケ部、1年、宮城…。
その名前をかみ締めるように呟く。
「みっちゃん、どうしたの?」
徳男が不思議そうに話しかけてきた後ろで、貯水塔の影から姿を現した小柄な男を見つけた。
はしごの途中から飛ぶ。
とん、と軽くコンクリートに降り立った。
重力を感じさせないその動きに、瞬間目を奪われる。
そして、奴の左膝を無意識に見てしまっていた自分に気付いた。
あんなに軽く飛べるのだから、怪我なんかしているわけがない。
唐突に芽生えた黒い気持ちが囁く。
ならばアイツを壊してしまえ。
オレみたいに、バスケができなくなってしまえ。
…コワシテシマエ。
オレに無いものを持った男。オレが触れられないものに、あっさりと触れる存在。
小脇に抱えたバスケットボールが、いっそう拍車をかける。

降りたとき、宮城は一瞬こっちを見た。
しかしその視線は興味なく逸らされ、そのままドアへと体を向けた。

その眼が。
オレに決心させた。

コイツを、壊してやる!

ばたん、と扉は閉められた。
「宮城、か。やってやる…」
こぼれた言葉とともに、三井は笑った。








それから1年。
また夏が来る。
5月21日。その日が湘北高校の緒戦だった。
自分の手から放たれるボールがリングを通過して、客席が沸き立つ。

ああ。戻ってきた。

また、この場所に。何もかもなくしたと思っていた、バスケットの世界に。
コートに立ったときの緊張感と、シュートが決まったときの高揚感と、鋭いパスが自分のためだけに投げられる優越感。
もう2度と、離れてやるものか!!

そうして、昨年一回戦負けの湘北高校は、初の全国切符を勝ち取った。
















作品名:SLAMDUNK 7×14 作品 作家名:鎖霧