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SLAMDUNK 7×14 作品

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Theory of games








このゲームの始まりが君なのか僕なのか。分からないわけじゃないけど。











窓の外から聞こえる声を、夕闇に溶けた教室の中で聴いていた。
ほかの生徒は既に帰ってしまったので、窓際の一番後ろに座る自分だけが頬杖をついて外の色を見ている。
時折聞こえるカキーンという音に、でかい当たりだと内心で一人ごちたりした。
そろそろ動き出してバイトに行かなければ。
今日は花道を見に行きそびれてしまった。あいつらは行ったんだろうか。
たくさんの音が眼下の世界で生まれ、自分の耳に届くまでにそれは吸い込まれるように小さくなっていく。まったくの静寂でない心地よさが、ここから離れがたくしているのかもしれなかった。
「水戸…?」
空気を震わせ、その空間が割れるように声がした。
よく通るその声の主を、俺は知っていた。

「部活は、三井サン?」
意図的にゆっくりと振り返ると、教室前方の入り口に立ったまま驚いたように俺を見ていた。
その姿がまだ制服のままだなんてことは、見なくても知っていた。
「イヤ今から行くけどよぉ…」
なんで、という顔をして三井サンは立っている。こっちに入ってくればいいのに。
あの人の足を止めているのは、無意識の警戒なのか、それとも。
誰かさんの入れ知恵か。

「つーか、そこ、俺の席なんだけど」
背が高い割にほそっこい身体は、さっきからゆらゆらと揺れていた。
「こっちに来なよ、三井サン」
目が合うまで、見続けてやるつもりだった。しかしすぐに三井サンの視線を捕らえられる。
まだ完全に懐いてるわけじゃないらしい。誰かさんに。
「おいで」
そう言って笑うと、俺の席だっつーのと呟きながらのそりと動き出した。
よしよし、いい子だね。
三井サンが自分の机の横に立って、俺を静かに見下ろした。
その目元がほんのりと赤く染まっているのは、きっと夕暮れのせいじゃない。
「…あのさー、この前、その、屋上でさ…」
「キスしたこと?」
「!! っまあ、そうだけど、よ!」
思い出させんじゃねーよ、びっくりするだろうが! と叫んで、三井サンは前の席のいすに座った。
「したいと思ったからだよ」
すると見る見るうちに首から耳まで真っ赤になって、唇を震わせた。いい顔できるじゃん、三井サン。
俺の話じゃなくて、と三井サンは言う。
だから俺は、そうだよ、と言う。
「そうだよ、って。じゃあ、宮城にもキスしたかったってことか!?」
にっこりと笑うと、今度は真っ青な顔をして大げさに肩をすくめた。
「うぇー。オマエ、男とキスすんのが好きなんかよ」
そういうわけでもないんだけどね、と心の中で呟いて、すっかりもう警戒を解いてしまっているカワイイこのヒトの頬に触れた。
一瞬にしてまた赤くなる首筋を見ながら、すごい特技だなと感心すらしてしまう。
「…宮城にも、触ったの、か」
さまよわせた視線のまま、三井サンは小さく聞いてきた。
ヤバイ、ちょっと本気で、イイ、と思ってしまった。
「アンタだけだよ、三井サン」
嘘だと分かるように甘い声で囁いてやると、眉間にしわを寄せて難しい顔をする。
「オマエのこと、わかンね」
俺のことを知りたいの?
「いいんだ、三井サンには分からなくて。俺が三井サンを分かっていれば」
何だよソレ、と睨まれて、思わず俺は三井サンの唇をふさいだ。
目を閉じなかったから、ひどく近い距離で薄茶色の瞳が揺れる。
舌を出して唇をなぞる。端から端まで余すことなく。
口を開けとその下唇を突付くと、三井サンは素直に従った。
いつの間にか固く閉じられた瞼を見ながら、必死に俺についてこようとする三井サンの舌をからめ取る。
次第に深くなっていくその行為に、自分でも驚くほど興奮した。
口付けの合間を縫って、睦言のように事実を告げる。
「宮城さんから、俺に、近づくなって、…言われなかった、?」
うっすらと目を開けた三井サンが、唇を動かして、何で知っていると訊いてきた。
「ん…、俺もね、きのう…言われたから。---こんな風にしながら、ね」

ぐっと強い力で肩を押された。
おや、と思って三井サンの顔を見ると、怒ったような泣き出しそうな、それでいて酷く色気のある、絶妙な顔をしていた。
いいね、ソレ。背中がぞくぞくするほど面白い。
こんな感覚をまさか三井サンで味わうことが出来るなんて、まさに棚からナントカ。
「テメー、ふざけんなっ!!」
ガンッ、と自分の机を蹴って三井サンは立ち上がった。
「宮城に変なことすんじゃねーよ! 今度アイツに触れやがったら、俺がぶっ殺してやる!」
昨日のキスを仕掛けて来たのは向こうなんだけど、とは言わないことにした。
少なくとも最初はおれからだったし。
うん? やっぱりあれは、宮城さんが原因かな。
クソ、と吐き捨てて、三井サンは足元に転がっていたドラムバッグを持ち上げた。
もう一度机を蹴ってから、くるりと背中を向けて入ってきたドアに向かって歩き出す。


今日はこのまま行かせてあげるよ。
アンタの中で何がそんなに気に入らないのか、じっくり考えるといい。



「またね」
そう言うと、顔だけこちらを向いた三井サンは。
「覚悟しとけ」
とぶっきらぼうに告げて、そのまま大股で歩いていった。

その音が遠のいていくのを聞きながら、俺はニヤつく口元を隠しきれない。
こんなのがたまらなくイイと思ってしまうあたり、相当病んでいるようだ。
椅子から立ち上がり、体育館に続く廊下を怒りながら走っているだろう人のことを思い浮かべる。


明日から、なんだか楽しくなりそうだ。



じわりとした心の疼きは気づかないことにして、ポケットからタバコを取り出した。









作品名:SLAMDUNK 7×14 作品 作家名:鎖霧