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Crazy Party

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第2章 マグル界って、どう?



屋敷からフルーパウダーを使い、漏れ鍋の暖炉から出ると、ふたりはそのまま近くのバス停へ向った。

「……どうして、タクシーを使わないんだ」
足早に歩くザビニの後ろを数歩遅れながら、ドラコは不平を言う。

「だって呼ぶの面倒くさいから。それにバス停はすぐそこだし」
ハイヒールに慣れているらしいザビニと比べて、明らかにドラコはそれに慣れていなかった。
前につんのめった足取りで、ヨロヨロと不安定に横に揺れて歩いている。

「ほら、早く!」
グスグスしているドラコに痺れを切らしたように、ザビニは相手の腕を引っ張った。
頭一つ分小さい小柄なザビニに引きずられるような格好で、ドラコは渋々歩き続ける。

ハロウィンの夜は思いのほか人通りが多くて、恥ずかしくて顔を上げることが出来ない。
なぜか、道をただ歩いているだけなのに、自分たちの姿を、通りすがりのマグルたちが、じっと見ているような気がしてならないからだ。

(……ああ、こんなバカげた悪ふざけはするんじゃなかった)
ドラコは後悔の念に苛まれて、恥ずかしさに俯いてばかりで、ザビニの後を付いているのが、やっとだ。

バス停に着くと、ザビニは慣れた仕草で、切符の自販機に、きらびやかなスパンコールまみれのポーチから取り出した小銭を突っ込む。
ふたり分の切符をつかみ、見上げて時刻も確認した。

ドラコはザビニの慣れた行動に目を見開いた。
マグルの世界にここまで場慣れしているとは、思ってもいなかったからだ。
やはり、遊び人を自負している彼の行動範囲の広さは只者じゃないと、ドラコは舌を巻いた。

5分も待たずに、ダブルデッカーがやってきて、二人して乗り込む。
帰宅しようとする人々と、これからパーティへ繰り出そうという人々が溢れていて、中はかなり混雑していた。
座る席がなくて、仕方なく立つはめになってしまった。

ザビニはドラコの肩を押すようにして、後方の黄色のパイプバーに身を寄せる。
バスが動き出すと、ドラコは弾みで数歩よろけて、軽い悲鳴を上げてしまった。
また、自分の悲鳴のせいで、他人からジロジロと見詰められているのに気付くと、すぐに居心地悪そうに、俯いてしまう。

ドラコはとなりでガムを噛んでいるザビニの袖を、そっと引っ張る。
「……なぁ、なんだかまわりの人に、僕たちふたりは、見られているんじゃないのか?」
「――はぁ?」
素っ頓狂な声を出して、ザビニは頭をぐるりと回転させてご機嫌に頷いた。

「みたいだね。結構、僕たち、ガン見されているみたいよ」
「やっぱり!」
ドラコは顔を上げると、引きつった顔で相手に詰め寄る。

「だから、嫌だったんだ!絶対におかしいと思われているんだ、僕たちの格好を。男が女装なんて、ヘンテコで笑い者にされているに決まっている。君がドレスを着せるから―――」
怒り心頭のドラコに、ザビニは逆に余裕の表情だ。

目を細め、クチャクチャと口を動かしながら、ドラコの姿を下から上へと検分して、グッと親指を立てる。
「そんなことないさ、とてもチャーミングだよ。―――ダーリン」
ニッと笑って、からかうようにドラコの形のいい尻を撫でた。

「バストだって立派なものだし、コルセットなしのウエストのくびれは絶品だよ。自信を持って」
ドレスに隠れた胸元のウォーターブラをつつき、ドラコの腰に手を回す。

相手はザビニだとしても、自分の今目の前にいるのは、セクシーな美女──、いいや美少女だ。
きつめのはっきりとしたメイクは、性別を隠すのが目的だったけれど、仕上がった横顔は、ローティーンが無理をして大人メイクをしたような、アンバランスさがにじみ出ていて、逆に色っぽい危うさが漂っていた。
魅惑的に身をすりつけられるのは、なかなか悪くなかった。
互いのドレスがこすれあう。

「──しかし、この魔女用のスカートの裾は短すぎないか?」
ドラコは恥ずかしそうに、膝からかなり上にあるスカートの裾を、下へと引っ張った。

「ああ、知らないのか、ドラコは?マグル界でスカートは、中を見せるための布だ。下着がギリギリ見えるくらいが普通だよ」
「本当に?」
ドラコはギョッとして相手を見詰める。
ふたりの履いているスカートは確かにそのラインだった。
「そうそう」と気軽に頷く。

本当にザビニが言うことが正解なら、高齢のおばあさんも、貴族の淑女も、その丈のスカートをはいてしかるべきなのに、そういう超ミニ姿は、自分たち以外に見たことがない。
「でも、このバスに乗っている乗客に、そういう恰好の女性は、ひとりもいないぞ」
「ああ、たまたま、スカート丈が長い人ばかりが、乗っているんだろ」
しれっと答えるザビニに、ドラコは「ふぅーん……」と首を傾げつつ、素直に頷く。
自分がいいように担がれているのに気付かずに、マグル界に疎いドラコは、ザビニの言葉に、あっさり丸めこまれてしまう。

「心配しないで。これから楽しいパーティーじゃないか。音楽も酒もダンスもなんでもある」
「でも……」
不安げなドラコの顔を覗きこんで、耳元に息を吹きかけるように囁く。

「なにも心配ないって。僕たちが変身していることに誰も気がつかないし、ここはマグル界だ。僕たちを知っている奴なんかいるもんか。心ゆくまで破目を外して、とことん楽しもうよ、ドラコ」
人懐っこく身を擦り付けてきた。

ドラコのかぶっている、ロングストレートのブロンドの髪に指を絡ませる。
ドラコはその触れてくるくすぐったさに、たまらずクスリと笑い声を上げた。
ザビニも笑った相手のほほをつつき、その腕に自分の腕を巻きつける。

センセーショナルな超ミニドレスに、派手な化粧のまま、タイプが全く違うふたりがクスクスと密やかに笑いながら、機嫌よく寄り添っている光景は、やはりバスの中では、存分に人目を引いている。
まわりの注目を一身に受けていたけれど、ドラコもふっきれたように、それらを全く無視する。

じろじろと見られたって、どうせ他人ばかりだ。
マグル界に知りあいなど、一人もいない。
恥はかき捨ててやる。
せっかく、女装までしたんだ。
とことんまで楽しんでやる。

目の前には、悪戯と悪乗りが大好きなザビニがいるし、自分たちが向かっているのは、パーティー会場だ。
ドラコは口元を上げて、瞳をきらめかせた。


よし、調子は上々だ。
パーティーだ!
今夜はハロウィンパーティだ!

ドラコは開放的な気分が満ちてくるのを感じた。


作品名:Crazy Party 作家名:sabure