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Crazy Party

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第3章 パーティ会場に到着




バスを降り、向かった先のナイトクラブの赤いパイプネオンが瞬いている入口は、地下へと続いていた。

「階段なのか……」
ドラコはうんざりして、眉を寄せる。

「さっさと行こうぜ」
ザビニに引っ張られて、渋々足を踏み出すが、すぐに高いヒールに足元がふらつき、横によろけて、壁に手をついてしまう。
「何してんのさ、そんなところにへばりついて?この店がイヤなの?」
「イヤもなにも、階段が滑るんだよ。こんなにヒールが高い靴履いているから、このまま、下まで転げ落ちそうで――」
「ふーん……」
(まぁ、いいじゃん)という感じで、遠慮なしにまたドラコの手を容赦なく引っ張った。

ドラコは壁から離れて、階下へと不安定な姿勢のまま、歩き出すハメになってしまう。
一歩一歩、慎重に踏み出してしいると、ふいに後ろから声がかかった。

「ハーイ、彼女。どうしたの?もう酔っぱらったの?」
気安くドラコの肩に腕が回される。

「ひっ!」
あまりにも突然のことで、思わず甲高い声が出てしまった。
思わず上げてしまった声が恥ずかしくて、振りむき相手を睨みつけると、その途端、声をかけた男が、ドラコの美貌に軽く口笛を吹いた。

「ああ、その子。ヒールの高いのを履いてきちゃったから、滑りそうで怖がってんの。抱えていってくれる?」
ザビニも気軽に返事をして答えたけれど、ドラコは相手が発した言葉の意味にギョッとなった。

「まっ……まてよ、ザビニ。お前、いったい、何言っているんだ!!」
ドラコが小声で相手に食ってかかろうとしたら、自分の肩にかかっていた太い男の腕が移動して、そのまま腰のあたりに回される。
「お安い御用だ!」
言うが早いか、男の手に力が入ったと思ったら、そのまま、ドラコの体が地面から数センチ浮いた。
訳が分からず、上へと持ち上げられ、しかも、相手の体に引き寄せられる。

さすがに、長身なドラコを抱え上げることまでは、出来なかったけれど、ウエストのあたりに手を回して、自分の側面で持ち上げていた。
「落ちると危ないから、俺の肩に手を回して」
そっと、耳元で囁かれる。

まだまだ階段は続いているし、自分は宙に浮いているし、不安定だった。
もうドラコには、ほかの選択肢がなかった。
仕方なしに、相手の肩に手をまわした。
もちろん出来るだけ、相手と接触が少ないようにして。
そのまま、相手の筋肉が盛り上がっている腕を腰のあたりで感じながら、下へと運ばれていく。

ドラコは決して太ってはいなかったけれど、小柄でもなかったはずだ。
身長もスタイルだって男としては、いたって平均的だと思ったけれど、なぜこんなにも簡単に、抱えられて移動しているのかが分からない。

(結構、相手は無理しているんじゃないのか?)
ふとそんな考えが浮かび、相手をちらりと見上げると、こめかみに青筋が浮きそうな感じで、落としたら大変だとばかりに、結構必死でドラコを抱え上げている。

ほんの数センチ地面から浮いているだけなのに、重たいことは重たいはずだ。
相手の真剣な顔がまったくの自分の予想通りで、少し声を出して笑ってしまった。

(なにしろ抱えているのが、女装しているとはいえ、同じ男だし、──ホントにご愁傷様)
男はドラコの笑い声に「なにっ?」て感じで視線を落とし、ドラコが微笑んでいるのを見て、少し照れたみたいに笑顔を返して、そのまま腕に力を込めると、一気に階段下まで運んだ。

店のドアの前で、ゆっくりと下ろされる。
ザビニは先に下りていて、ふたりのために、重たい鉄の扉を開いた。
「結構、君って、小柄なのに力持ちなんだね」
男の驚嘆する声に、「まぁね……」と意味深に、ザビニは軽くウィンクで答える。

(そりゃあ、ザビニだって男だから、当然だよ)
とドラコは心の中で、少し意地悪く思った。

扉が開くと、目が明るさに慣れていないから、真っ暗な洞窟に入ったような、錯覚を覚える。

腰に響く重低音の音楽が流れる中を、センサーのようなライトが、明かりを落とした空間の中で回転していた。
こういう場所へ一度も来たことがなかったドラコは戸惑い、身構えてしまう。

いつだって、未知なものは怖いものだ。

しかし、立ち止っているドラコは、背中を押されて、前へと強引に連れていかれる。
片方にザビニ、もう片方に見知らぬ男に挟まれるという形で、中へと入った。

男は入口でチャージ料を、気前よく3人分払うと、奥のフロアーへと向かう。
背の高いテーブルとスツールが並んでいる場所に案内すると、ふたりを座らせ、にっこりとほほ笑んだ。

──きっと、一番自信のあるキメ顔なのかもしれない。

色の濃い、ほとんどブロンズに近い短めの髪をワックスで濡らし、指で上へとねじっている、イマドキのヘアースタイルだ。
体つきは、悪くない。
ドラコを抱え上げたことだけはある、立派な盛り上がった腕をしていた。

多分スポーツクラブで、全身を鍛えているということが如実に分かるほど、キレのある筋肉が、薄いTシャツから透けて盛り上がっている。
目尻は少し下に下がり気味で、スッと通った鼻筋と相対している。
甘ったるそうな笑顔が印象的で、シャープな体型と正反対になり、逆にそれが相乗効果を生んでいる感じがした。

――相手は悪くはなかった。
どっちかというとハンサムな部類に入るだろう。
女性だったら、グッとくるのかもしれない。

……ただし、女性だったら、だ。
もちろん、男性から見たら、グッとくる訳がなかった。
それはドラコにしても同じだ。

(きれいな筋肉の付き方をしているな。どういうトレーニングをしたら、こういう体型になるのだろう?)
などと、今後の参考にために聞いてみたいなとは思ったけれど、それ以上の感情など浮かぶはずもない。

ドラコは珍しそうな顔で、ただ無遠慮にジロジロと相手を見詰めた。
相手はそれを別の意味に勘違いしたのか、ドラコのほうへと腕を差し出して、「踊ろうか?」と誘う。

ドラコはいぶかしげに、じっとその手と、相手の顔を交互に見た。
確かに自分たちは女性の恰好をしているし、もしかしたら、かなり酔っぱらった酔狂な男性に、誘われるかもしれないと思ってはいたけれど、いきなり素面の相手から、誘われるとは思ってもいなかった。

ドラコは女性にしたら、かなり長身だし、胸からヒップにかけてのラインのくびれもお粗末で、化粧も濃い目だし、あまり魅力的でないと思っていたから、余計に驚いてしまう。
「――なんで?」
納得がいかず思わず、そんな質問を逆に相手にしてしまった。

男性は一瞬驚いたように言葉に詰まり、次に笑い声を上げる。
「こいつは驚いた!ここへ踊りに来たんだろ?君が魅力的だったから、ダンスに誘ったんだけど、逆に質問されるなんて。──だったら、君はここへ、なにしに来たんだよ?」
「それはそうだけど……」
ただの悪ふざけの延長でここへ来たけれど、相手の言うことも分かる。

クラブに来たのに『なんで踊るんだ?』などと、当たり前なことをわざわざ聞くヤツなんかいない。
確かに踊らないほうが、おかしいくらいだ。

――しかし……、ドラコはこういうクラブでダンスをしたことがなかった。
作品名:Crazy Party 作家名:sabure