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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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こんな休日もいいかもしれない

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 「…お、なかなか。また一段と腕を上げたねぇ。」
 抵抗ない味だったのか、フラガは機嫌よくデザートを口に運ぶ。
 有り難うございます、と言ってキラは笑みを浮かべた。
 「隣のちびどもが喜びそうなメニューだよな。」
 結局半分以上を胃袋に納めたフラガはそう呟いた。
 「…そう言うと思って、普通のプリン作ってありますよ。」
 二度目の紅茶を淹れながらキラは答えた。
 フラガの部屋の隣には、同じ基地に勤務する士官とその家族が住んでいる。時折顔を合わせる婦人は病院勤めの看護士で、まだ小さな子供が二人とヘルパーが留守番をしているらしい。
フラガとキラは共に士官でもあり、養成学校の教官でもある。民間人も通う「学校」と言う場所に勤務していて、休日は一般の学校と同じように週末。階級が上のフラガは時折それ以外の仕事もこなすため、休日出勤する事も多い。それでも隣家の夫婦のようにシフト制ではない為、引っ越してきた当初から時折夕方二人きりで外にいる子供達の相手をしていたらしい。当然婦人とも顔見知りで、週末ヘルパーの帰った後はフラガが面倒を見ている事が多かった。
 「すっかり懐かれてますよね。」
 楽しそうにキラは言って、冷めたプリンにソースを掛けて冷蔵庫に納めた。
 「お前のおやつも評判いいぞ。」
 そう返事をしたフラガは、のんびり新聞を広げていた。
 「…少佐の作れるおやつって、ホットケーキだけじゃないですか。」
 そう呟きながら空いた食器を片付けて、広くなったテーブルの上にキラは自分の持ってきた鞄からノートパソコンを取り出して電源を入れる。
 薄っぺらいカードを挿し込んで、執務室にある自分の端末に接続してメールチェックを始めた。
 滑るようにキーボードを叩くキラを見て、フラガは仕事熱心だな、と言って苦笑した。
 「…少佐、来月入ったらすぐに試験だって事忘れてませんか…?」
 フラガとキラの担当科目は当然違う。主に実技の多いフラガに比べて、室内の講義を担当するキラの方が、試験の時期は忙しい。
 いくらカレッジを出ている元パイロットだと言っても、実際に講義を受ける学生達とはせいぜい二つか三つくらいしか年の差がない。赴任して来た当初、本気でどうしていいか解らずに途方に暮れた。隣りに執務室を持つ年配の教官が助けてくれなければ、何もせずに一時間終えるところだった。
 「…少佐みたいな人じゃなくて良かった…」
 普通に講義を進められる人物だったからこそ、おかげでキラもなんとかやっている。
 顔を合わせる度に必ず文句の出るフラガの副官の苦労はきっと計り知れない。
 試験と聞いて明後日の方を見ていたフラガが、今回もなにも準備していないと言うことは明白だ。
 「…また徹夜ですよ。」
 半目で呆れながら呟くと、フラガは唐突にごめんな、と言った。
 「キラだって俺がデスクワーク嫌いなの知ってるだろ。」
 先に謝っとく、と言うフラガに堪え切れずに吹き出す。
 「…今夜中に幾つか草案送っときます。だから明日のランチ奢って下さい。」
 そう言うと、フラガは助かると言って笑顔で頷いた。


 インターフォンが鳴って、隣家に通うヘルパーが顔を出した。小柄で可愛いと言う表現がぴったり来る女性の顔も、休日の殆どをここで過ごす事になっているキラは良く知っている。
 家主であるフラガが応対している間に自分の作業を終らせて、マシンの電源を落とした。
 「…今日もですか?」
 それにしては時間が早いですねと荷物を鞄に押し込みながら尋ねると、フラガは苦笑混じりに溜息を付いた。
 「ヘルパーさん、急用で帰るから頼むって。」
 どっちがヘルパーだか、と言うフラガも、本気で嫌だと言う顔には見えない事から、子供達の相手をする事が別に嫌いではない事が伺える。それに曖昧な笑みを浮かべて答えると、不意に背中に重みが掛かった。
 「…うーん、折角二人だけなのにな。」
 自分よりもひとまわり身体の大きい大人が、まるで甘えるように圧し掛かって来て、キラは苦笑した。
 「あの子達、好きでしょう少佐。」
 それに、普段いくらでもそういう時間は作れる。
 「…冷たいねぇ、最近。」
 そう言って拗ねたように肩に埋められた柔らかな髪が、項を撫でてくすぐったい。
 「…大人が拗ねても可愛くないです。」
 それを避けるように身体を捻ると、そうする事が当たり前のように柔らかな唇が触れる。軽く触れるだけの口付けを繰り返して、ダメですよ、と呟いた。
 「…ケチ。」
 仕方ないなと言う顔でそれだけ言うと、フラガはようやくキラを開放してくれる。
 普段の凛々しい姿を見ている事が多い分、その子供のような仕草はいつ見てもおかしくてつい笑ってしまう。
 「あの子達、何処にいるんです?」
 時計を見るフラガにそう尋ねると、まだ外と言う返事が返って来た。
 「いつものところで遊んでるって。」
 一応声掛けてくっつってたな、と言ってから、ベランダの窓を明けて眉を寄せる。
 いつものところと言うのは、このマンションに併設されている公園のような小さな広場。そこでいつも二人で遊んでいる姿を時々見かける。
 「…寒くなってきたな。」
 外の気温を確認すると窓を閉めて、フラガは自室に上着を取りに行った。
 時刻は夕暮れ。窓の外はオレンジ色に染まっていて、冬に向かう今の季節は日も短くなる一方で、小さな子供達をいつまでも外に出して置くには相応しくない。迎えに行こうとするフラガの意思を読みとって、キラも椅子の背に掛けてあった上着を羽織った。


 広場には子供がひとりで立っていた。
 夕暮れを背にして、長く伸びた自分の影をじっと見つめたまま、俯いて。その外に人影はなく、二人で少しだけ顔を見合わせる。
 「…どうした?」
 そう言って長身をかがめ、子供の顔を覗き込むと、今にも泣き出しそうだった子供は少しだけ安心したように頬を緩める。
 「あのね、お兄ちゃんかえってこないの。」
 小さな声でそう呟く。
 「…お兄ちゃん?」
 膝を付いてキラも目線を揃えて聞き返すと、子供は頷いた。
 「お兄ちゃんね、リデラのぼうしとりにいってくれたの。とばされちゃって、遠くのほうにとんでいったの。ここでまってなさいって。」
 だからまってるの、とリデラは言ってまた俯く。
 「えらいね、リデラ。でもここは寒いから、こっちのお兄さんと一緒にお家で待ってよう。」
 そう言ってキラは柔らかな亜麻色の髪を撫でた。冷え切った少女の手をフラガに無言で握らせる。
 「僕、その辺見てきます。少佐はこの子と一緒に中へ戻ってて下さい…懐かれてるでしょう?」
 少なくとも僕よりは、と言ってキラは立ちあがった。
 「…俺が行く方が…」
 少女の手を引いて言いかけたフラガにダメですよ、とまた言ってキラは続ける。
 「少佐は、一応ご両親に連絡を。あと、さっきのヘルパーさんにも何時ごろまで二人でいたのか聞いてください。」
 連絡とれますよね、と言って薄いハーフコートのポケットに入れた携帯電話を確かめる。
 それから、リデラに向かってどっちに行ったの、と尋ねる。
 「えっと、あっちのほう。」