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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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こんな休日もいいかもしれない

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 小さな手で指さされた方に視線を投げて、解った、いい子にしててねと言ってキラは小走りに歩き出す。
 「…おい、キラ。」
 少しだけ情けなさそうにキラを見るフラガに苦笑する。
 「少佐、小さくても女の子ですから。カッコイイお兄さんの方がいいよね?」
 最後の言葉を少女に向けると、リデラは少しだけ頬を赤くして頷いた。繋いだ手にも力が入った事が分かる。それを見て、ほんの少しだけ複雑な気分になったけれど、小さな子にヤキモチなんて、と自分に呆れながら少女に向かって笑みを浮かべる。
 「冷蔵庫に入れてあるの、食べて待ってて下さい。すぐ探して戻ります。」
 そう言って、子供が走って行ったであろう道をキラも辿り始める。


 「…参ったなぁ。」
 懐かれている、と言っても主に上の少年の方で、妹の方にはどうも避けられている感じすらあったと言うのに。
 固く握られた手のひらが汗ばむほど、少女はフラガの大きな手を掴んで離さなかった。その仕草に、少し前のキラの姿を思い出して苦笑する。
 「…同レベル…」
 呟いて、俯いたままだった少女に大丈夫さ、と声を掛ける。
 「お兄ちゃん、すぐ帰ってくるよ。もう少しいい子で待ってような。」
 少女が頷くのを確認して、手を引いたまま建物の方へと歩き出すと、フラガの四分の一ほどしかない歩幅で一生懸命ついて来る。
 子供っていうのはひとつの事だけで一杯一杯なのか、とひとりで納得してから、おもむろに少女を抱き上げて肩の上に乗せた。
 「うわあ…」
 肩車に最初は驚いた少女も、歓声を上げた。
 「よし、最初お兄さんの家な。それでお母さんに電話してから、おやつ食べよう。」
 自分の目線よりも高いところにある少女に笑みを浮かべて言うと、彼女は嬉しそうに頷いた。
 部屋に戻って暖かな空気に触れる。脱いだ小さな靴をきちんと揃える仕草が可愛らしくて、思わず笑みが零れた。
 「リデラ、ココア好きか?」
 ソファの上のお気に入りの場所に落ちついた少女にそう訊ねると、勢いよく首を縦に振った。それを受けて、キラが片付けて行ったキッチンで、小さめのマグカップにココアを作ってリデラに渡す。少女が火傷をしないように、半分は冷たいミルクにする事も忘れない。
 ココアの入ったカップを両手で持って、少しずつ啜る少女を見ながら、フラガは予め渡されていた母親の勤務先に電話を掛ける。少しだけ考えてから、上の子の方は一人で遊びに行っていて、今迎えに行っている所だと伝える事にする。今の時点ではあまり大事にするのは好ましくない。探しに行っているキラとはいつでも連絡がつくし、ソファの上で大人しくしている少女もキラと少年が戻るまで自分が見ているから心配はない。
 電話口に出た母親に、勤務中に呼び出した事を詫びて、子供達を預かっている事とヘルパーに頼まれた伝言を告げる。なるべく急いで帰ります、と言った母親に遠慮なく、と愛想よく言って電話を切ると、何時の間にか少女がフラガを凝視していた。
 「…どうした?」
 そう訊くと、おかあさん、と少女は呟いた。
 「おかあさん、はやくかえってくる?」
 小首を傾げた可愛らしい仕草に、フラガは笑みを浮かべて答える。
 「リデラがいい子で待ってればお母さんもお兄ちゃんもすぐ帰ってくるさ。」
 そう言いながら、何処となく仕草がキラに似てるな、と思って少しだけ慌てた。そうして、それは多分本人に言ったら激怒するだろうから、自分の心の中にしまっておこう、と固く誓う。
 部屋の片隅に放り出してあったフラガの上着を被って楽しそうに笑う少女を見て、キラに心の中だけで詫びて溜息をついた。


 「ええと、こっち…かな?」
 マンションの裏手から、広い敷地を持った住宅街の並ぶ通りを注意深く歩いて行く。
 昼過ぎに吹いていた風向きを思い出しながら、あのままだったとしたらこっち側だよな、と街灯の灯り始めた道をひたすら進んで行く。横道を見つけてはざっと進んで確認して、また戻っては進む、を何度か繰り返していると、川に沿った堤防にぶつかった。左右どちらにも伸びる細い道は、所々暗闇がわだかまっていてあまり視界は良くない。今も風向きが変わっていないとしたら、と風下の方へと進むと、橋の上に人影らしきものが見えた。
 「…あれ…ッ」
 小さな人影が、近付くにつれてはっきりと見えるようになる。紛れもなく、自分が探している少年。橋から身を乗り出すようにして、下を覗き込んでいる。日が沈んだこの時間に、橋の下は闇が漂っているだけで何も見えない。
 不意に人影が動いて、こちら側に走って来た。
 キラが近付くと、少年は泣きそうな顔で見知った人にどうしよう、と呟いた。
 「…どうしたの?」
 ようやく見つけた、と安堵したのも束の間、少年が指差した先には口を開けた空間。暗闇が広がっているその下を、ガードレールに手をついて覗き込む。視界が悪くて距離は掴めないけれど、下のほうに白っぽいものが見えた。
 「…あれ、リデラの帽子?」
 振り返ってそう訊くと、少年は頷いた。
 「ここまで来たけど、下に落ちちゃって。降りるところないし、多分、登れないし…」
 振り返って見ると、マンションからの距離は大した事はない。脇道に逸れながら来た所為で随分遠くまで来たと思っていたけれど、これなら先に帰して自分が拾いに行く事も出来る。
 「大丈夫だよ。」
 そう言って少年の頭を軽く撫でた。
 「僕が拾って来る。だから君はお家に…あ、えーと、お隣りさん分かる?」
 リデラはフラガが面倒を見ているし、少年が帰っても自宅は無人のはず、と思い起こしてからキラは続ける。
 「リデラ、お隣さんちにいるよ。君も早く帰った方がいい、もうこんなに暗いし。」
 そう言ったキラに、少年はううん、と首を横に振った。
 「僕、持って帰るって約束したんだ。だから、ここにいる。」
 そう言った少年に溜息をついて、そう、と呟く。
 「じゃあちょっと行って来るね。ここで待ってて…あ、車が来たら気を付けて。」
 キラの言葉に少年が頷いた事を確認すると、ガードレールを乗り越えて向こう側に立った。ここから下を覗き込むと、大した高さではなかった。傾斜は急だけれど、凹凸のあるコンクリートに固められた堤防は落りる事も出来るし登る事も出来る。ゆっくりと足場を確かめながら少しずつ降りて行くと、予想よりも早く平らな地面があった。良く見ると段差になっていて、そこからもう一段低い所に目的のものはあった。足元を確かめながらゆっくりと降りると、枯れ葉混じりの柔らかな草の感触が伝わる。目的の帽子が、不思議な角度に傾いている事も納得した。それを拾い上げて枯れ葉を払う。
 「だいじょうぶー?」
 上のほうから少年の声が聞こえて、大丈夫、と返事をした。戻ろうと思って見上げた先で、少年がガードレールの下をくぐっている姿が視界に入る。
 危ないよ、と言おうとしたとき、車が一台通り過ぎて行った。目の高さが丁度ライトの位置にあるのか、光に照らされて浮かぶ少年が眩しそうに目を閉じた瞬間、小さな身体が大きく傾く。
 「あぶな…ッ」