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綾沙かへる
綾沙かへる
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唄う風

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 ナビゲーションから外した携帯端末を、リアシートから引っ張り出したノート型のマシンに繋ぐと、恐ろしい勢いでキーを叩き始める。
 「…なにしてんの?」
 その質問にキラは答えず、画面から視線を上げる事もせずにそこのケーブル、こっちに繋いでくださいとだけ言った。
 「衛星にアクセスして、目標を探してます。ヒットしたらこっちにも出ますけど、大きい画面の方がいいかと思って。」
 一通りの入力を終えたキラが顔を上げてそう言うと、ほどなくモニタの中に赤と青の点が光り始める。よし、と小さく呟いたキラは膝の上にあったマシンをフラガに押しつけて、ニュートラルになったままのシフトノブに片手を置いた。
 「…仕事、出来るような改造するんじゃなかった。」
 折角の休日なのに、と続けた言葉は、少しだけ拗ねているように聞こえる。つい先程、同じ口で仕方ないと言っていたのは建前だったのだろうか。それに苦笑して、フラガも仕方ないさ、と言った。
 「それにしたって、結構距離あるぞ?大丈夫なのか?」
 モニタで点滅する光は画面にして5センチほど距離がある。そうして、今も確実に少しずつ広がっている。今ふたりがいるところよりも、目標は先にいると言う事で。
 一瞬きょとんとしたキラは、少し強気な笑みを浮かべた。
 「…掴まってて下さいね?」
 間を置いて程なくそう言ったキラに、フラガの背中を少しだけ悪寒が走り抜けた。


 楽しい、と思うのも事実だ。思うようにハンドルを操って、退避の遅れた車の中を恐ろしいほどのスピードで縫うように駆け抜ける。ほんの一瞬でも気を抜けば大惨事になる。それがほど良い緊張感となって、気を引き締めていた。
 モビルスーツを動かす事に比べたら、笑えるくらいに簡単な動作。操作そのものよりも、交通法規を覚える事の方がややこしかったくらいで。
 そもそもオートではなく自分でシフトチェンジをする車を選んだ事自体、相当変わっているのだと思う。それでも、その方が自分で動かしていると言う自覚と責任が生まれる。
 「…スピード狂め…」
 モニタを睨んでいたフラガは、走り始めるなり苦笑してそう呟いた。確かに、それも自分で良く解っている。そう文句を言いながらも、たいして姿勢を崩さずにいるのだから、度胸はお互い様だとキラは思った。
 「そろそろ追い付くぞ?」
 どうするんだ、と何処かのんびり言ったフラガに、少し考えてから周りの一般車両、どうなってますかと聞き返した。
 「向こう二百キロくらいは目標以外は走ってないな。」
 その言葉通りに、無線変わりに繋いだ副官からも退避完了の報告が入る。
 「…道路地図、出して貰えますか。」
 ナビゲーションの小さな画面に、単調なハイウェイの地図が映し出されると、キラは対面通行の場所を探して欲しい、と言った。
 「反対車線に入って、抜きますから。」
 すごい事考えるな、と笑ったフラガはそれでも言われた通りに画面の中を操作してその場所を見つける。
 「ああ、すぐ先だな。後百メートル先。その先はざっと八十キロくらい先だから、その頃には抜けるんじゃないか?」
 これからキラがやろうとしている事が読めたのか、丁寧にその先の情報までフラガは澱みなく答える。
 対面通行の車線は、片側が一車線しかない。走行車線しかないから、路肩を除けば追い越しが掛けられない場所。中央分離帯の代わりに、ポールが立っているだけだったから、それを倒して反対側に抜ける。言うのは簡単だけれど、今の速度を保ったままだとかなりの荒業で。
 「…ちょっと、衝撃強いですけど。」
 大丈夫ですよね、と言ったキラに、少しだけ嫌そうな顔をして。
 「…ヤダっつってもやるんでしょ、おまえさんは。」
 その言葉に苦笑を返して。
 「バッテリー、すごい食うんですよね、これ。」
 コンソールパネルにあったボタンを叩くように押して、目の前に開けた反対側の車線に向かってハンドルを切った。


 取り敢えず、膝の上にあるマシンを落とすわけにはいかなくて。
 折角綺麗に収まっていた洗濯物が転がって、リアシートに絨毯のように広がった事をバックミラーで見つけてしまって溜息を吐く。
 上下に、強い衝撃。基本的にドライバーはハンドルとフットペダルに固定されていて、大抵の衝撃には耐えられるし、そうでなければ困る。片手を頭の上にある取っ手に固定して、空いた手でマシンを掴んで、なんとか衝撃をやり過ごすと、車に乗っているだけだと言うのに考えられないくらいの重力が身体をシートに押しつけた。
 「…こらこら、ほんとに出しすぎだって。」
 思わず零れた呟きに、キラはそうですかね、と言った。
 「…実はこの車、メーターの先まで出してみた事なくて。」
 ちょっと楽しいかもしれません、と続けて笑う。
 本当に一体どんな改造を施したのか、覗き見たメーターは恐ろしい数字をはじき出していると言うのに、全くそんな気がしない。強い重力がなければ、普通に走っているようで。
 スピードメーターの細い針がレッドゾーンを示していたのは、ほんの僅かな時間だけ。
 「…見えた。」
 ぽつりとキラが呟く。
 「…いけるな。この先でまた対面があるから、そこで戻ればいい。…次の出口で追い出すぞ。」
 最後の言葉は無線の向こうで待機する人間に向けて、フラガはマシンを畳むと足許に下ろした。肉眼で目標が確認出来る距離まで近付いた為、必要がなくなったのと、この先でキラが起こす動作に押さえていられるほど余裕がないからだ。
 「…いつでもどうぞ。」
 そう促すと、了解と呟いたキラは更にアクセルを踏み込んで、滅多に使われる事のないギアにシフトノブを移動させる。流れるような動作で軽くハンドルを切ると、車線を仕切っていたポールをなぎ倒してもといた車線に戻った。
 有り得ないところから割り込まれて慌てたのか、追っていた車は車体をふらつかせる。それをバックミラーで確認したキラは、ほんの少しペダルから足を浮かせた。
 タイミングは一瞬。
 リアの駆動を切断して、カウントを取る。
 「…掴まってて下さいね…ッ」
 今日二度目の言葉を呟いたキラは、思い切り良くブレーキペダルを踏み込み、一瞬後にクラッチを切ってギアをセカンドに叩き込む。回転の遅いギアに対応し切れなかった全開のシャフトは、力のないリアタイヤを滑らせ、ロックの掛かったフロントタイヤを中心にして横滑りを始める。
 耳障りな音をアスファルトに刻み、焼けるゴムのイヤな匂いを残して後ろにいた車の目の前で、道路を塞ぐように中央分離帯に寄せて急停止させた。
 慌てた後続車は左にハンドルを切って、黒いタイヤの跡を引き摺りながらタイミング良く出口のゲートに続く横道に逸れる。
 「…大成功。」
 白いライトバンのテールを見ながら、フラガは溜息を吐いた。隣りのシートでは、額に薄く浮かんだ汗を手のひらで拭ったキラが、無茶をした後遺症がないかどうかを確認していた。そうして、小さく笑う。
 「…アレだけ無理したわりには、なんともないですよ。」
 その笑みは、車の仕上りにか、作戦成功にか。
 ともかく、追い出したからと言って戻って来られては意味がないから、こちら側も塞いでおかなければならない。
作品名:唄う風 作家名:綾沙かへる