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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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君のいる、世界は03

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 一番手前の建物の入り口の前で車を降りると、守衛の兵士に有り難うと言って、肩に掛けたバッグを持ち直す。振り返るとすぐ後ろにも門があって、やはり守衛がいた。最初からこっちの方を書いておいてくれれば良かったのに、と思いながらも、空調の効いた建物の中へと足を進める。
 受付らしき場所にいた女性に事情を説明して、郵送されて来た辞令と身分証を手渡す。
 「…今日から勤務の方ですね。伺っております…制服はどうしました?」
 やっぱり聞かれたと思いつつ、一応持ってますと応えると、先に宿舎へご案内します、と溜息混じりに言って女性は先に立って歩き始めた。
 その後をついていくと、不意に女性は笑みを浮かべて振り返る。
 「さすがに、フラガ教官の戦友だけあるわ。」
 「…え?」
 突然出た名前に、マヌケな反応を返す。
 それにまた彼女は笑って続けた。
 「あの人ね、いっつも自慢してたの。すごいやつがいるって。でもね、そう言うだらしないところまで感化されてちゃダメよ。」
 規則ですから、そう言って幾つかの渡り廊下を通り、エレベーターをあがると、ひとつの扉の前で立ち止まる。
 「ここがあなたの部屋。それから、向かいの4つ先がフラガ教官の元部屋。」
 今は郊外のマンション暮らしよと聞いてもいないのに、楽しそうにそう言ってドアのロックを解除して、カードキーを手渡した。
 良くある学生寮に似た作りの部屋は、それでも今まで自分が暮らしていた部屋と同じくらいの規模で、違うのはなにも持ってこなくとも生活に必要な物は全て揃っていると言う事。
 「制服に着替えたら、辞令を持って校長室へ行って下さい。」
 そう言って、案内してくれた女性は校長室の場所を書いた案内図を置いて戻って行った。
 誰かが掃除してくれたのか、開け放たれた窓辺でカーテンが揺れている。寝室に続くドアも開いていて、綺麗に整えられたベッドの上には、真新しい制服の予備が幾つか置かれていた。抱えてきたバッグを降ろして、全く同じ状態でビニールの掛かった制服を取り出す。皺になっていないかどうか、クローゼットから出したハンガーに掛けて一通り確認すると、袖を通した。
 「…変な感じ。」
 自分が着た事のある制服は、連合軍の青い志願兵のもの。それから、ザフトの赤いもの。けれどこれは、地球軍の白い制服。フラガが着ていたものと同じ、士官用の。
 これを着るまで、随分悩んだ。
 何度も送られて来た通知も、結局無視出来ずにずっと仕舞っておいて、自分ひとりではどうしようもなくて、親友にだけ相談した。自分でも、その存在の危うさを理解しているからこそ、プラントの片隅にいると言ってもそれとなく監視付きで、地球軍の側からも目の届く範囲に留めておきたいと言う考えからこの封書が送られて来ている事も納得出来る。
 戦争が終って時間が経過しているとはいえ、未だに情勢の不安定な地域は残っているし、過激派によるテロだって起きている。そう言う連中に、自分のような存在が見つかって、利用されるような事態になったら。
 プラントの中心に立場上席を置くアスランや、組織再編にあたって呼び戻されたマリューらアークエンジェルの元クルー達を始め、これから世界を動かして行く人達の中で、キラと言う存在が不安要素の一つであるということは、揺るぎない事実で。
 カガリも、両親も、全てを知っていてなお、キラの自由意思に任せると言ってくれた。
 親友は行けばいいと背中を押してくれた。
 だから、この制服を着ても平静でいられる。
 カレッジの卒業と同時に、部屋を引き払って、家具やその他の大きな物も殆ど処分して、文字通り身ひとつで地球に降りた。引き取り手のいなかった魚達は、アスランに水槽ごと預かっていてねと言って押しつけて、普段機械しか相手にしない親友の困ったような嫌そうな、なんとも言えない顔に笑った。本や、衣類などの僅かな私物が詰まったダンボールが幾つかと、その大きな水槽だけが残された部屋で。諦めたような笑顔で、アスランは行って来い、とだけ言った。
 また、ここから、今度こそ自分の意思で。
 背負った罪は忘れない、護るべきものも、間違えない。
 スタートから、自分の出来る事をひとつずつ。
 「…よし。」
 標準より少し小さい自分には、所々緩くてどこか不恰好だけれど。
 IDカードと身分証、辞令の詰まった封筒を持って、部屋を出る。真新しい制服はまだ糊が効いていて、動きにくい事この上ない。今ごろ、フラガがどうして袖を捲くっていたのかがなんとなく理解出来た。小脇に制帽を挟んで、カードキーで扉をロックすると、渡された案内図を元に校長室に向かって歩き始める。

 校長室を辞したフラガは、1度自分の執務室に戻って卒業生にメールを送ってから、ふたつ隣の執務室に来ていた。退職した教官が綺麗に片付けていった部屋は、新しい主を迎えるために準備中で、資料やら教材やらが無造作に積み重ねられていて机の上が見えないほど。隣接する副官の部屋も似たような状況で、メールで連絡を取った士官と待ち合わせているとはいえ、あまりにも物が少ない自分の部屋と比べてどうにも落ちつかない。所在無さげに壁に凭れて、どうせならついでにもう1通メール送ってくれば良かったとぼんやり考えを巡らせていると、自分の副官が書類の束を持って呼びに来た。
 「フラガ教官、他の教官がいなくて処理する書類溜まっているんですから、こんなとこで油売ってるくらいなら片付けて下さい。」
 そう言って教材の積まれた机の上を手早く片付けてスペースを作ると、そこに書類の束を置いた。
 彼女はフラガの嫌そうな顔に苦笑して、ポケットの中から取り出した封筒をひらひらと振る。
 「…片付いたら、いい事教えてあげましょうか。」
 ラミアス中佐からの極秘メールです、と言ってそれをまたポケットに仕舞い込んだ。
 「…へえ、艦長から?珍しいな、随分ご無沙汰じゃないの。」
 そう言いながら、他人のデスクに座って書類に目を通し始める。彼女は、実に良くフラガの働かせ方を知っていた。マリューから来るメールには、かならずと言っていいほどある人物の情報が記されているから。その人物の写真がフラガのデスクの引き出しにあることも、それを目にするときの顔も、彼女はよく知っていた。だからコレを餌に、日頃から書類の処理が滞りがちなフラガにこの際3日分程の仕事を片付けてもらおうと思ってわざと自分のところで止めておいた。それはメールの送り主であるマリューも承知している。
 面倒臭そうに書類に向かうフラガの姿を見て、彼女は満足そうに頷いた。

 良く来たね、と言ってその老人は鉢植えで溢れた部屋で迎えてくれた。
 「…お世話になります。」
 慣れない正装に、敬礼。辞令を提出して、着任報告をして。事前にマリューから教えられた通りになんとかこなすと、老人は笑みを浮かべてご苦労さん、と言った。そうして、楽しそうに書類にサインを走らせる。
 「フラガ中佐には言われた通り、内緒にしておいたよ。」
 子供のような目をしたこの老人は、マリューから信用の置ける人物だと紹介されていた。そうしてそれは、間違ってはいなかったとキラも笑みで応える。
 「有り難うございます。」
作品名:君のいる、世界は03 作家名:綾沙かへる