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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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君のいる、世界は06

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 表示された内部の様子を見ながら呟くフラガに、彼は全て押さえてありますと返事を返す。
 「ただし、確認されたモビルスーツは五機ではないと言う情報もありますが…」
 何処かに潜んでいると言うのか。冗談でしょ、とフラガは呟く。ここは市街地で、何処にもモビルスーツを隠せるところは見当たらない。密林ならともかく。
 「…ま、キラが来てからだな。」
 フラガの言葉に、モニタの向こう側から不思議そうな表情が見えた。
 「…キラ…ヤマト教官が?」
 基地内の殆どの人間がキラの本当の経歴を知らない。彼の反応が普通は当然で、フラガが選んで連れて来たパイロット達にも、キラがフリーダムで出る事は伝えてはいなかった。
 「いくらなんでも、俺一人で全部相手にするのは無理だし。こういうのがあいつは得意なんだよ。」
 キラと、その頼れる相棒はね、とフラガが呟いた時、接近を知らせるアラームが響く。ストライクにのみ、照合ライブラリがある機体が表示されている。
 「…お、やっと来たな」
 笑みを浮かべて呟くと、フラガは目標の建物から三十キロ以内の人員退避を命じた。
 「いいから、強制的にでもどかせろ。あとで文句は聞いてやる。その為の、餌もかねてるんだからな。」
 フリーダムを餌呼ばわりして、フラガはキラに向かって通信を開いた。
 「…聞いての通りだ。もっとも、ここは市街地だからな、爆破は無しで頼むぜ。」
 聞こえてましたけど、と言ったキラは苦笑しているようだった。
 「…無茶言いますね、少佐も。」
 その口調は、あの頃の生意気な子供を思い出させる。危惧するほどの事はないらしい、と確認して密かに安堵の溜息を吐いた。
 「それじゃ、おっぱじめるかな。」
 フラガなりの、作戦開始の合図。
 それと同時に、高速で飛行するフリーダムが、ストライクの頭上を駆け抜けて行った。

 その姿は、思い出として語られるしかなかった噂話を、新たに書換える。

 メインカメラが、市庁舎を囲むモビルスーツを捕らえる。正面のモニタに表示された照準をそのうちの一機に合わせて、出力を慎重に調整して引き金を引く。なるべく建物を破壊してはいけない、モビルスーツを大破させてはいけない。制約だらけの命令に、キラは囮の役を買って出た。けれど、実際には囮、と言うよりもフラガをサポートしながら全てのモビルスーツを安全に停止させる事が目的。
 キラの攻撃は、目標を正確に撃ち抜いた。一番外側にいたジンの腕だけを破壊して、注意を引く。接近するフリーダムに気付いたのか、一斉にこちらに向かって照準を合わせた。
 「…遅いッ」
 ペダルを踏み込んで、一気に距離を詰める。持ち替えたビームサーベルで、被弾したジンの動きを止めると一端その場を離れて空中に舞い上がる。その横から、フラガのストライクが隣りのジンの動きを止める。
 フリーダムに付いて来たディンの攻撃を、高度を上げてかわす。かわしながら、二機のディンが自分に付いて来た事を確認した。
 「…コレで、安全に止めろって?」
 呟きながら、キラは空中でフリーダムを反転させた。広いところに落とさなくては、と視線を走らせる。
 「…あそこ、まで」
 モニタに表示された地図と、郊外のハイウェイだけが走る農地を確認する。ライブラリを呼び出して、まずは地上に叩き落とすための弱点を探す。
 ビームライフルは使えない。荷電粒子砲では、遠くまで届きすぎてしまう。地上スレスレまで降下して、邪魔になっていたライフルを投げ落とした。空き地とはいえ、地面が大きく凹む。
 「…こっちだ!」
 フリーダムは速い。距離を置いて後ろにいたディンに、ほんの数秒で反転して肉薄する。背後にまわって、その飛行能力を支えていたスラスターを切り落とす。もう一機。頭部のケーブルを切断すると、ディンのメインカメラは光を失う。
 自爆などされては厄介だから、動力を切断して完全に停止させる。ケーブルを伸ばしてシステムに侵入し、コントロールを全て奪って滅茶苦茶に破壊した。恐らく、オペレーションシステムは使い物にならない。
 全ての動作に、ほんの十分ほど。メインカメラで目標の建物を確認すると、そちらもフラガが片付けていた。その手際の良さに、今でも時々あの人は本当にナチュラルなんだろうか、とキラは思ってしまう。
 「…こっち、終りましたよ。」
 通信を入れると、フラガは笑ってご苦労さん、と言った。
 「こっちも片付いた。後は地上部隊の仕事だな。」
 折角久し振りに出たんだから、もう少し見世物になるか、と言ったフラガに、キラが冗談じゃないですよと返した時、攻撃を感知したシステムは警告を発した。続いて、強い衝撃。
 「…ッ何処から…?」
 軽く頭を振って気を引き締めると、モニタには何処から出て来たのか再びジンの機影が映し出されている。
 「…少佐、もう少しやる事が出来たみたいです。」
 呟きながら、損傷をチェックする。異常は見られない。実弾兵器には、圧倒的な強さを誇るフェイズシフトシステムには、傷ひとつなかった。
 続けざまに荷電粒子砲を感知する。回避行動に移ろうとして、自分の背後にあるものの事を思い出した。
 「…マズイ…ッ」
 回避してしまったら、市街地に被害が出てしまう。とっさにシールドを立ててそれを防ぐとフリーダムは再び空へと舞い上がる。確認出来たモビルスーツは三機。認識信号は出ていない。
 「…遠慮しませんよ。」
 そう呟いて、キラはスロットルを全開にした。
 青い空に、白く煌く機体が駆ける。

 どれだけ気を配っても、多少の被害は出てしまう。
 コックピットのハッチを開けて、フラガは溜息を吐いた。停止したモビルスーツの回収を命じて、随分と距離が開いてしまったフリーダムがゆっくりと隣りに降りてくるのを眺める。癖のある金色の髪が、風に煽られてうっとおしい。
 「…ご苦労さん。」
 独特のハッチが開いて顔を見せたキラに、フラガは苦笑混じりに言った。
 「…少佐こそ。」
 そう言ったキラは、幾分疲労を覗かせていた。
 見世物にしてやれ、と言った機体は、その言葉通りになってしまった。そのパイロットと共に。
 事実、成果は噂以上だった。知ってはいても、その変わらない鮮やかなキラの技術やパイロットとしての腕の健在ぶりに、フラガは改めて感心してしまう。しかも、これは恐らくキラの実力の全てではないのだから。
 「で、どうだった、久し振りに乗った相棒は?」
 フラガの皮肉の混じった言葉に、キラは眉を寄せる。
 「…困った事に、変わりませんね…あの頃と。」
 精神的な問題だと、キラ自身も納得している。緊張と、恐怖。それはフラガにも覚えがある。モビルスーツに乗って実戦に出ると、無事に終った時の疲労感はかなりのものだった。加えて、辛い記憶との戦いにもなったキラの疲労は大きい。
 「…だから、反対だったんだけどね、俺はさ。」
 諦めたように呟くと、キラは俯いたままごめんなさい、と言った。
 「…そっち、行っても良いですか。」
 そう言った声は、今にも泣き出しそうに震えていた。

 あの頃は、戦闘が終る度に泣いていた。
 弱くて、小さな自分。
 そんな脆弱な存在に、力を与えてくれたのはいつだってこの人だ。
作品名:君のいる、世界は06 作家名:綾沙かへる