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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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カケラ、集める日々。

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 苦笑交じりに返すと、カガリはそうだなあ、と頬杖を突いたままかって来た雑誌らしきものを捲くっている。
 本当はこんなところでのんびりショッピングしたりお茶をしたりしている時間は取れないはずの彼女は、強引に時間を作って遊びに来る。アスランが一緒だったり、孤児やラクスと海辺で遊んでいたりすることよりも、二人で出かけよう、と言って外に出ることが多くなった。
 真っ直ぐな眼差しが人目を引く少女は、街に出れば有名人だ。先の代表首長の娘、現アスハ家当主、いずれは父親の跡を継ぎ、この国を背負って立つであろう少女。普段はそんなことを欠片も感じさせないごく普通の少女は、とても楽しそうに店のショーウィンドウを覗き、バザールの軒先を冷やかし、他愛のない冗談で笑う。
 そんな彼女と一緒に街を歩くことが多くなると、それが普通だと感じる自分に気付いた。少し前、戦争に巻き込まれる前の自分が普通に持っていた時間、感覚、そんなことを思い出させてくれた。
 あまりにも頻繁に様子を見に来るから無理しなくていいよ、と言ったとき、とても悲しそうな顔で彼女は怒ったのだ。無理なんかしてない、と言って。
 双子だと、十六年間実の母親だと信じて疑わなかった人から、二人一緒に真実を聞いた。
コロニーメンデルで研究されていた人工子宮、その実験に使われた双子の片割れ。同じ両親から生まれた子供たち。ひとりは機械の中から生まれ、ひとりは母の胎内から生まれた双子は、その実験そのものが反コーディネイター組織ブルーコスモスから標的とされ、その手が及ぶ前に子供たちだけを連れて脱出し、オーブへ来たのがヤマト夫妻。当時コーディネイターを特別視せず受け入れてくれた地球の国家は少なく、特殊な事情に理解を示してくれたアスハ家で保護を受け、後にコーディネイターは宇宙にいた方が目くらましになると、ナチュラルの少女は養子として残してコペルニクスへと上がったのだと。ナチュラルとコーディネイターの対立が激しくなり、強制的にコーディネイターを排除しようとする動きや、地球軍に協力させようとする動きが表立ってきたため、ヘリオポリスに引っ越した。そこから先は経験した通りなのだと。
 話が終わる頃には、知らず、手を握っていた。
 生みの親と育ての親が違うからと言って、結局それぞれ家族だと信じて過ごしてきた事実も変わらず、これからも変わることはないのだろう。重なった手のひらが汗ばむほど、互いの手を強く握って、それだけしか出来なかった。
 この戦争が起こらなければ、一生知らずに過ごしたはずの真実。皮肉なことに、戦争のお陰で再び巡り会うことの出来た双子。
 悪いことばかりじゃない、そう思えた事実。午後の陽射しを遮る木陰で、笑いながら雑誌を眺めてどこかに行きたい、そんな話が出来るのならば、確かに悪いことばかりではなかったのだ。
 出会ったときは男の子みたいだと思ったことが嘘のように、カガリは可愛らしくなっていく。少し伸びた明るい黄金色の髪を揺らして、よく動く蜂蜜色の瞳を輝かせて、光が弾けるような笑顔で。
 共に過ごす時間が増えれば増えるほど、変化は顕著に現れる。それが、戦争が終わったからじゃなく、誰かの所為だと言うこともよく解る。その誰かが、親友で幼馴染の彼だと言うことも解っている。
互いに父親が為政者で、跡を継ぐべく生きてきた立場や境遇がよく似ている彼らが、互いに惹かれ合っている事なんて見ていれば解る。気付いていないのは本人たちくらいだ。気付いていないのか気付きたくないのかはともかく、せっかく重なることの出来た時間を他人に取られるのはあまり喜ばしくない。
 本来ならば共に過ごす幼い時期に感じる姉弟の独占欲のようなもの。そんな時期を知らずに過ごしてきた自分たちが、今頃それを感じていてもおかしくはない。けれど、そんな子供じみた感情に互いに気付いていないから余計にややこしくなっていく。
 カガリが時折話題にする彼のこと、けして嫌いではないはずの親友のことが少しだけ疎ましい、と思うその理由がイマイチわからなくて、ただそれを表に出さないように曖昧に微笑う。そんなことが最近繰り返されている。
「…どうせならヨーロッパの方に行きたいな」
 不意に聞こえた言葉に、沈んでいた思考が引き戻された。カラン、と音を立てたグラスの中身は見事なグラデーションを作っている。
「そんなに休み、取れるの?」
 在宅で思い出した程度に仕事をしている、と言うよりほとんど引きこもりと変わらないような生活をしていて時間に余裕のあるキラと、次期国家元首として鋭意勉強中のカガリとでは自由に使える時間に差がありすぎる。
 そんなことを思い浮かべながら尋ねてみると、何とかするさ、と相変わらず気楽に笑った。
「大体、私はまだ正式な立場なんて何にもないんだ。強いて上げればアスハ家の当主だけど、そんなのはいなくても大して問題にならない」
 今はな、と続けて真剣に雑誌を捲くる。
「…考えとくね」
 そんな真剣な表情が可笑しくて、小さく笑って応えた。

 陽が暮れて星が瞬く頃に迎えが来る。
「…いらっしゃい、アスラン」
 微かに軋んだ音を立てる扉を開くと、親友が立っている。ああ、と微かに笑みを浮かべる彼は、少し疲れているのか表情が硬い。
「…大丈夫?」
 そう声を掛けると、何がだ、と逆に訊き返された。そういえば昔から自分のことに疎いんだっけ、と苦笑を浮かべ、「疲れてるみたいだから」と続けるとアスランは不意に力を抜いたような顔を覗かせる。
「大したことないさ。それより…少し話、出来るか?」
 「僕に?」、と聞き返すと彼は頷く。軽く後ろを振り返ると、カガリはラクスと一緒にお茶菓子を包んでいるようだった。
「大丈夫。どうしたの?」
 扉を閉めてデッキに出ると、親友は微かに躊躇ったように俯いた。
「…あんまり…その、出歩かないでくれないか。まだ情勢も不安定だし、国内にいると言っても安全とは言えない」
 きょとん、とした顔をしていた、と思う。彼が真っ直ぐ視線を合わせずに話をするときは、自分でも理由が付けられないことを言っているからだ。付き合いが長い分、そういうことはすぐに解る。
「…護衛がいないとか、そういう意味で?」
 恐らく理由は別にあると知りつつ、わざとそう訊いてみる。
「違う、護衛とか、お前がついてるんだからともかく…」
 しどろもどろと言葉を続けるアスランに、小さく吹き出した。
 笑うところか、と少しむっとした顔で反論するアスランに、違うでしょ、と返して。
「ねぇ、アスラン。カガリのこと、好き?」
 ストレートに訊ねると、一瞬の沈黙の後、そういう問題じゃないだろう、と怒ったように誤魔化した。
 誰がどう見ても、カガリはこの国の重要人物だ。戦争が終わってこの国に来たアスランは、彼女の護衛をしている。ザフト軍人として訓練を受け、エリートと呼ばれる「紅」を着ていた彼だ、その有能ぶりに疑う余地はない。けれど、生来の真面目さが仇になっているのか、任務と感情の境目が解らないらしい。
 冷たい、とまで思わせる行動を時々とるくせに、この上彼女と過ごす貴重な時間まで細かく管理されてしまっては堪らない。
「そういう問題だよアスラン」