さようならと告げる鳥の聲が聴こえる
「どうなるかは、まだ不明瞭さ。神の力を恐れて手を出さぬか、それでも敢えて頼朝の意を受け入れるか」
それこそ天の采配ってやつかな、と彼は口元に笑みを浮かべたままで言う。それでも、瞳に宿る感情は真剣そのものだ。
実際のところ、奥州と熊野では随分と地理的に距離はあるが、現在の陸奥守である藤原泰衡の後見となっているのは、熊野別当の実父、湛快だ。そのとばっちりを食う可能性は大いにある。ヒノエも、だからこそ望美とともに、こうして鎌倉を探ってくれるのだ。
息をついてみたが、不安が消えるわけではない。
「もし本当に戦になるとしても、奥州は、……泰衡さんが大事にしているものは、奪わせない」
不安は消えないが、決意を抱くことができないわけではない。この決意は、以前から胸の内にあったものだ。
一瞬、虚を突かれたように目を瞬いたヒノエだが、すぐに笑って、そうだね、と応えた。
作品名:さようならと告げる鳥の聲が聴こえる 作家名:川村菜桜