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水谷文貴の体操16歳

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 休み時間に手を引かれ、どこへ行くんだろうとぼんやり後を追っていたら、誰も使っていない家庭科室へ入らされた。ここ三日ほど栄口はずっと怒っているような気がする。「怒ってない」って言ってたけど絶対怒っている。
「手、出して」
「ほい」
「違う、右じゃなくて左」
 手相でも見るのかなって手のひらをべろんと広げて出したら、やたら丁寧な動作で甲のほうへ返された。栄口はポケットの中からごそごそと一本のペンを取り出す。それ見たことある、今女子の間で流行ってるやつだ。写真とかプリクラに金や銀の文字がきれいに書けるから、七組でも持ってない女子はいないんじゃないかってくらい爆発的に普及して、だからオレもなんとなく見覚えがあった。
「じっとしてて」
 灰色のキャップを抜き、オレの指へとペン先が向かう。なんだろう、いたずら書きでもされてしまうんだろうかと様子を伺っていたら、栄口が描いたのは線数本、数ミリの幅だった。開放された左手をじっくり見てみる。薬指の根元にある銀色の線はまるで、
「栄口がこんな恥ずかしいことする人だとは思ってなかった」
「オレだってそう思ってるよ……」
 向かい合うのも嫌なのか、栄口の身体が横向きになる。
「いろいろ考えたけど、こんな方法しか思いつかなかったんだ」
「……」
「な、なんか重いよな、気持ち悪くてごめん……」
「そんなことない」
 オレは反射的に栄口の手を取ってみるのだけど、頭がいっぱいいっぱいで何を言えばいいのか全然わからなかった。
「う、うれしい」
 感想をがんばって喉から出すのがやっとだった。そっか、と栄口が少し安堵するみたいに笑ったら、今すぐにでもやりたくなってしまった。
 不安だから、足りないから、いつものように湧き上がる、病んだ衝動とはまったく違うものが自分を満たす。なんか肌がびりびりする。栄口とオレの体温を共有したい。栄口が冷たかったらオレの熱を分けてやりたい。その逆でもいい。もし二人ともあったかいのなら、くっつき合って笑いあって、もっと温度を上げてみたい。
 けどここは学校だし、あと数分で次の授業も始まるので一生懸命我慢した。代わりというつもりはないんだけど、そのペンをもらい、栄口の薬指へも輪をかけてみた。手が震えて上手く書けなかったけど、そのじわじわ歪んだ銀色の線を見て栄口がぱちぱちとまばたきする。
「は、恥ずいね、これ、思ってたより……」
「……あ、ありがと栄口」
「へ?」
「こんな恥ずかしいことしてくれてありがとう……」
 こんな衝動的にキスされたことなんて今までなかった。オレと同じことを栄口が思っていたかどうかは知らないけど、遠慮なく入ってきた舌に栄口の熱を知る。溶け合う体温でずっと繋がっていたくて、息継ぎもろくにしなかった。びりびりがキラキラになって心を満たす。
「ふぇ」
 ぬ、と抜かれた舌が名残惜しくて変な声が出たら、栄口はオレの首筋へと舌を這わせ、鎖骨の少し上を軽く噛んだ。やばい、されてしまう。でももうどうでもいい、このままもっとどきどきしてみたい。
 けれど無常にもチャイムが鳴り、栄口ははっと正気に戻って身体を離した。
「うわオレなんか、……なんかごめん!」
「べ、別に、平気だって」
 もう次の授業は始まっている。早く教室に戻らなきゃ先生から怒られてしまう。二人してバタバタと急ぎつつ廊下を走っていたら、あと少しというところでふと栄口がオレの名前を呼んだ。
「水谷」
「はいよ」
「あの、その」
「なんだよぉ」
「……好きだよ」
 七組の教室のすぐ手前でそれを言うのは卑怯だ、と思う。オレはもう中へ入んなきゃいけないし。
「うん」
 バイバイのつもりでひらひらと手を振ったら、栄口はまた一組の方へ走り出した。

作品名:水谷文貴の体操16歳 作家名:さはら