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ヨギ チハル
ヨギ チハル
novelistID. 26457
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砂漠の蒼

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 たしかに『女王』といっても一人の女性なのかもしれない。それは『守護聖』であっても一人の人間である自分と同じことなのだ。それにカティスは『女王』に対してずいぶんと気安い関係のようだ。そうはいってもけじめをつけるところはしっかりつけるカティスである。そのめりはりがよい関係を築ける秘訣なのだろう。
「バラ水だって、俺の庭のバラで作ってるんだぜ」
 バラ水というのは女性が主に使う化粧品である。化粧品の基礎に使われるものだ。そのまま香水として使い、洗濯にも使っていた。そういえば母親も使っていたような気がする。母親が歩くたびにほのかに香る、その匂いがルヴァは好きだった。なつかしい言葉をこんなところで聞くことになるとは思わなかった。半透明のガラスの小瓶に入ったバラ水。
「女王のところに一緒に持っていこうか。いくつか花束を作って補佐官のところに持っていってもいい。驚くぞ。お前、休みの日にあんまり出歩かないだろう」
「は、はい」
 指摘されてまた、かぁ、とルヴァは頬を染めた。たしかに、最近休日に外へ出ることはなかったような気がする。聖地にきてからは王立図書館や、執務室、果ては私邸まで本に埋もれた生活をしていた。好きで読んでいるものだから、呼ばれない限り、わざわざ外に出ることもなかった。だからこうしてカティスが様子を見ながら外へ連れ出してくれるのだが。
「お前が持ってきたって知ったら、きっと喜ぶぞ。楽しみだな。女王はオレンジ色のバラが好みなんだ。どうかな、今は咲いていたかな…」
 カティスはバラを摘みに行くことだけが楽しみなわけではない。ルヴァと一緒に何かをするのが楽しみなのだ。カティスだけではない。女王も、補佐官も。みんなルヴァを待っている。それがルヴァ自身にもわかるので、ルヴァはどこかくすぐったいような気持ちでカティスの話を聞いていた。 
「よし、じゃあ週末は決まりだな。本当に朝早いから覚悟しておけよ。あと夕食何が食べたいか決めておいてくれ」
「そんな、気を使わないで下さい」
「まだお前は酒が飲めないだろう。ならば他の事でもてなしをさせてくれ。旅をしてきた人には最大限のもてなしを、だろう?」
「ふふ、ありがとうございます」
 母親の話を持ち出されてしまっては、従わざるをえなかった。どうやら週末は穏やかには過ごせないようだ。それでもこれから過ごす週末を楽しみに感じている自分の気持ちに、ルヴァは少し驚いていた。
 だいぶ慣れたと思っていたが、まだまだ緊張が解けていないようだ。これではいけないと思っていてもどうすることも出来なかった。何よりもありがたいことは、そのことについて気付いていながら、とやかく口を出さずにゆっくりと見守っていてくれていることだ。先代もそうだった。女王も、カティスも。本当に、ありがたい。カティスなら、両手を広げて受け止めてくれる気がする。母親とも父親とも違う。そんな人にすがるのは筋違いだ、と思ってもカティスならば許してくれるような気がしてならない。ならば、自分も少しずつ大切なものを見せても構わないだろうか。許してもらえるだろうか。受け入れてもらえるだろうか。
 ふぅ、とルヴァが小さく息を吐くと、カティスはルヴァのターバンにそっと触れた。反射的にびくりと肩が揺れてしまうが、カティスはターバンの意を知っている。触れた指先は柔らかだった。頭を撫でたり、肩を触ったり、そういったスキンシップはカティスの癖なのだ。それはわかっているのだが、どうしても触れられることに慣れずにいる。そのことも、カティスは知っている。
「ルヴァ、お前はいい子だな。お前の素直さにはいつも感心するよ」
「そんな…。そんなこと、ない、です…」
 どきりとした。見透かされたのかと思うほど。
そんなルヴァの動揺をよそに、カティスは席を立ち上がった。
「じゃあまた週末に。悪かったな、長居して」
「いえ。あの、楽しみにしています」
 パタン、と大きな扉が閉まると、先ほどの空気とは打って変わって部屋中がしんとなる。周りは執務の時間だから当然なのだが。テーブルの上に広げたカップや皿を端に寄せながら、ルヴァはまだ胸が強く鼓動を打つのを感じた。 
「……カティス、」
 「おいで」と伸ばされた手のひらを取ることを、ルヴァは迷っていた。

* * *

 数日後、誘いどおりルヴァはカティスの屋敷に泊めてもらった。
「ようこそルヴァ様」
数日後、誘いどおりルヴァはカティスの屋敷に向かった。何度か遊びに来たことはあるが、泊まるのは初めてだった。若い女中が率先してルヴァを迎えに出た。
カティスの屋敷の者はこの小さな守護聖を温かく迎えた。まるで家族のように。ジュリアスやクラヴィスの屋敷に行ったこともあるが、彼らの屋敷はどこか寒々としていたような気がする。それが、このカティスの屋敷の人々はどうだろう。カティスは主として、家を取り仕切っているようだったし、なにより使用人や女中達もそれをよしとしていた。守護聖と従者、ではなく大家族そのものだ。その姿はルヴァの知っている『日常』と重なる。聖地暮らしで久しく味わっていない感覚だった。
「おいおい、あんまりおもちゃにするなよ」
 口ではそういいながらも、カティスは笑って女を止めることはしなかった。しばらくルヴァはこの女中に振り回されることになったが、ルヴァはそれが嫌ではなかった。

「さぁ、お前のお目当てはあるかな」
「わぁ…」
 いくらか落ち着いた頃、ルヴァは図書室に案内された。王立図書館や、普段使う資料などは執務室の書棚に入っているだろうが、それ以外の雑多なものというのはどこに行ってもあるものだ。守護聖の屋敷にはそれぞれ小さいながらも図書室がある。中には先代やその前の守護聖たちの集めた書物や手記などもあり、カティスの屋敷もそれは例外ではない。初めからわかっていたことだが、ルヴァを案内したが最後、日が暮れるまで出てこなかった。ルヴァにとっては宝の山だ。仕方のないことなのかもしれない。
「明日は早いといわなかったか?」
寝床にまで本を抱えて持ってきたので、カティスにいい加減にしろ、と取り上げられた。それでもけして本気で怒ったりしなかった。せいぜい、突っつかれるくらいだ。
「あっ、何するんですかー」
ルヴァは聖地に来て初めて、他人に甘えた。 

翌朝、まだ日が上がる前のひんやりした空気の中、ルヴァは起こされた。
「ほら、ルヴァ。起きろ」
「ん…。あ、カティス…?」
 もそり、とまだ開かない目をこすりながらルヴァは答えた。
 カティスの寝室である。客人用のベッドルームも当然あったが、カティスは自分の寝室に寝かせた。ルヴァはカティスの一番私的な場所に入れられて正直落ち着かなかったが、当のカティスが何も気にしてないようだったので、ルヴァも極力気にしないようにした。
今の自分はまるで犬か猫のようだ。なんにでも怯えてしまって情けなくなる。それでもカティスが笑って受け入れてくれるから何とかやっているのだ。
作品名:砂漠の蒼 作家名:ヨギ チハル