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353訓~360訓ネタバレ銀桂小話集

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真相



「ひとつ気になっていることがあるんです」
新八がメガネのブリッジを押さえながら言った。いつもとは違い、切れ者っぽい雰囲気を漂わせている。
「銀さん」
身体ごと銀時のほうを向いた。
「あなたは桂さんの家によく行っていますね」
銀時はギクッとする。
桂の家によく行っている。
事実である。
では、なぜ桂の家によく行くのか?
その理由は、もちろん……。
銀時は眼を泳がせた。
だって、ここには神楽もいるし。
そう思ったが、当の神楽が平然と言い放った。
「ウン、銀ちゃん、よく、夜にうちを出てヅラの家に行ってるアル。そーゆー関係アル」
「……ああ、そーだよ、そーゆー関係だよ」
知られているのは知っていた。ただ、まだ幼いと言えるぐらいの娘のまえで大っぴらに認めるのにはためらいがあっただけだ。
「話を続けます」
あいかわらず切れ者っぽい雰囲気を漂わせながら、新八は言う。
「銀さんは桂さんの家によく行っていた。それなのに、エリザベスが一年まえから家出していたことに気づかなかったんですか?」
「え」
銀時の心臓が一度大きく打った。
そんな銀時に対し、新八はさらに問いかける。
「本当に気づいてなかったんですか?」
銀時はハッとした。
いつのまにか畳の部屋がコンクリートの殺風景な部屋に変わっていた。
銀時はパイプイスに座っていた。
机を挟んで向かいには新八が座っている。
神楽は机の横に立っている。
そして、部屋の隅にある机の近くに桂が座り、調書を取っている……のではなく、エリザベスの書き残したプラカードを寂しそうに眺めている。
新八は机に手のひらをつき、立ちあがった。
それから、銀時のほうへと少し身を乗りだしてくる。
「本当は気づいていたんじゃないんですか?」
声は重く厳しい。
「うっ」
銀時は背中を嫌な汗がだらだらと流れるのを感じた。
一方、新八は追求の手をゆるめる気はなさそうである。
「銀さん、あなたは気づいていて、桂さんには言わなかった。そうですね?」
「……」
銀時は眼をそらし、うつむいた。
その顔にも汗が流れている。
「銀さん、あなたは桂さんに言わなかっただけじゃない、桂さんにエリザベスの家出を気づかせないようにした。違いますか?」
新八の声はいっそう重く厳しかった。
神楽が歌い始めた。ふるさと、だ。
銀時は足の上に置いた手を拳に強く握りしめる。
脳裏には過去の記憶がよみがえっていた。
この一年のあいだ、エリザベスがいないのを桂に気づかせないために自分がしたことの数々だ。
「ううううう」
「銀さん、認めますね」
「……ああ」
がっくりと銀時はうなだれた。
「どうしてそんなことをしたんですか?」
そう問う新八の声はさっきまでと比べるといくぶん優しかった。
「あのペンギンのお化けがいなくなればいいなー、と……」
「つまり嫉妬ですね?」
「ああ」
銀時は潔く認めた。
それを聞き、新八は机から手を離して、背筋を伸ばして立つ。
そして。
「これが真相です」
だれに向けてでもなく、そう告げた。