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ノースキャロライナ

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「オレあいつの前でちゃんと話せてた?」



 コンビニのガラス窓に『ファックスサービスお取り扱い』というシールが貼ってあって、もうここから書類を送ってしまおうか、と栄口は投げやりに思う。
 そんな勝手なことをしたら水谷と自分の関係はより悪化しそうだし、何よりこの状況をセッティングした花井に申し訳が立たないと気づくと、胃の中へ大きな石がズシリと落ちた感じがした。
 ポケットへ手を突っ込み背中を丸めた水谷は、大体男子生徒五人がゆうに歩けるような間隔を置き、かったるそうに栄口の前を行く。ぎりぎり他人のふり、ぎりぎり知り合いのつもりという距離感はとてもリアルだ。


 七組の扉へ手をかけようとしたとき聞こえてきたのは「なんでオレが」という水谷の荒い声色で、反射的に栄口の指は怯んだ。呼び出されたけど開けたくないなぁ。ためらっていたら目の前の戸が開く。
 弾かれるように飛び出してきた水谷は数センチ下の栄口を一瞥し、足早にどこかへ歩いて行った。相変わらずの手厳しい反応にひとつ吐息を吐くと、教室の中に一人残った花井もまた自らの席で、はぁ、とため息をついていた。
「何、用って」
 栄口が声を掛けると花井はすぐにキャプテンの顔へと戻った。
「ごめんな、ミーティング終わったあとなのに」
「別にいいって」
「これ、駅近くのスポーツ用品店へ持って行って欲しいんだ」
 花井の机の上には発注書と思わしき書類が一枚乗っている。なんだそんなこと、と栄口が二度返事をしようと思ったら、なんとも歯切れ悪く「……水谷と」と花井は付け加えるのだった。さっきの水谷の大声はきっとこれが原因だったのだろう。栄口はようやく合点がいった。
「こういうのって篠岡とかシガポがやるもんじゃないの」
「……」
「それに別に電話とかファックスでもいいじゃん」
「……」
「なんでオレと水谷で」
「……だよなぁ」
 花井もそう思うならいっそ構わないで欲しい。栄口は、ぐ、と奥歯を噛み締める。
「まぁ、さ。オレらはお前らに仲直りして欲しいだけだから」
 さりげなく口に出された『オレら』の語感が嫌だった。
「なんで喧嘩したとかは聞かないし」
「……」
 あの水谷に腹が立ったのは事実だ。百歩譲ってホモは許すとして、なんでそこで巣山を出してくるんだ。ひょっとしてオレは男なら誰でもいい見境のない奴だと思われているのだろうか。ふざけんなよ、オレは、水谷が……と言い返したところで何の意味も持たない。そう瞬時に気づき、栄口は蹴るだけ蹴って早々に戦線を離脱した。が、すぐに慣れないことをしたと少し後悔した。仮にも蹴ったのは鉄の棒だったので、しばらく足がじんじん痛んだ。
「水谷は、ああだろ? だから栄口から折れてくれないか?」
 折れるも何も、既にオレは根元からボキボキになぎ倒されて起き上がる気力もない。何も知らない花井に八つ当たりするのは筋違いだが、落胆しつつそう思った。
 差し出された紙切れを受け取ったら契約が始まってしまう。仲直りなんてどうやってできるのか、こっちが教えてもらいたいくらいだ。

作品名:ノースキャロライナ 作家名:さはら