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ノースキャロライナ

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 それからはずっとこの距離感だった。とりあえず駅までは来た。これからその言われたスポーツ用品店を探さなければいけないのだが、前を歩く水谷はその場所を知っているのだろうか。栄口はわからないのでこうしてただ後を追っている。
 しかしこんなふうに長い時間水谷の姿を見るのは久しぶりだった。以前はやたらと目で追っていたせいもあるのかもしれない。相手の自分に対する感情を知った今では、見たら迷惑だろうし、何より辛いので栄口はわざと視界に入れないようにしていた。
 ここ最近ずっと『どうすればしんどくなくなるか』について考えていた。栄口の導き出した答えは「自分もまた水谷のことを嫌いになればいい」だった。怒り憎み、あんな奴を好きになったオレがバカだったと、以前自分が水谷に貼った『好き』というシールの上にべたりと『嫌い』を貼り付けて、過去を覆い隠してしまうのが一番楽だった。
 けれどなぜだろう、栄口にはとてもできなかった。元々あまり人を嫌うことがなかったのが要因なのかはわからないが、あんな酷い仕打ちを受けたのに水谷を嫌いになれなかった。
 嫌いになれないなら、どうでもいいって思うようになればいい。
 そう栄口は気づいたが、これはなかなか難しい。『好き』シールが水谷から自然に剥がれるのをひたすら待つのだ。無理に剥がそうと爪で引っ掻いたらきっと水谷へ痕をつけてしまう。
 多分他に好きな子を作るのが一番手っ取り早いんだろう。新しくシールを貼ればきっとそのことしか考えなくなる。水谷のことなんて「あれ、なんでここにシール貼ったんだっけ」とふと思い出したときに気づくくらい、どうでもよくなりたかった。けれど失恋の穴埋めに誰かを好きになることはできず、特に気になる女子もいなかった。
 嫌だな、オレは本当にずっと水谷ばかり見てたんだな。そう思う栄口の大体五人ぶん先を歩く、水谷の茶色い毛先が午後の弱い日差しを受けて揺れる。
 シールをぺたりと貼って、いつの日から水谷だけが特別になってしまった。好きになるのはほんの一瞬だった気がするのだ。でもその状態が解除されることのいかに難しいことか、時間のかかることか。
 難儀だ。栄口の頭の中へ使い慣れない単語が湧く。もう、こういうのはしばらくいいや。相当ひどい仕打ちを受けたけど自分には向いてないってわかっただけ儲けもんなのかもしれない。

作品名:ノースキャロライナ 作家名:さはら