ノースキャロライナ
オレが知れるのはここまでかな。今までのこともあり、栄口はこの話題から身を引こうとした。
「栄口は何でオレを好きになったの?」
人が懸命に気を遣っているのに突然変な質問をしてくる水谷が恨めしい。しかも、そんな傷口に塩を塗るような問いかけをよくしれっとできるものだ。
「……言わなきゃダメ?」
「知りたい」
また即答。ひどい話だ、こんなの拷問でしかない。栄口は眉をひそめたが、腹をくくって告げてしまうことにした。
「水谷さ、笑うとき他人と少し遅れるときがあるんだ」
「はぁ? ないない、絶対ない、オレ笑い上戸だし」
「だから遅れるときが目立つんだよ」
よっぽど心当たりがないらしく、水谷は「えぇ?」と首をかしげた。
「なんか、オレそれすげー気になって、不思議で、ずっと見てたら、いつの間にか」
「それで好きになったの? ありえねー!」
「悪いかよ」
「別に」
希望を打ち砕いてくださった本人からあれこれ口出しされるのは面白いものではない。栄口は喉の奥に詰まっていた不満をコーヒーで飲み下す。水谷はカップを両手で持って何か遠くを懐かしむような顔をした。
「でも、オレも、そんな感じだったなぁ」
自分の打ち明け話がきっかけになったのかどうかはわからないが、水谷はぽつぽつと昔のことを語りだした。
「オレ、マチダに好きな子のことを相談してたんだ。でも、実は、マチダとその子って付き合ってたんだよ。……別にそれはいいんだ。けど、そのことを人づてに聞いて」
カップの中でココアの水面がわずかに揺れた。
「……マチダは何で教えてくれなかったんだろうって」
「そりゃ水谷に気つかってるからじゃないの?」
「色々考えたんだ。でも考えれば考えるほどマチダは悪くなくて、オレが悪いだけで」
ずいぶん長い間水谷は自分を責めてしまっている。そして多分オレが何を言おうとも、こんなふうに未だ過去にぐるぐる巻きにされていては決して届かない気がする。栄口は水谷の中にそんな渦を見た。
「今日マチダに会ってほんとびっくりした。会ったらどうしようってずっと思ってたんだ」
青春ドラマみたいに大声で責めて立ててやったらどんな顔するだろうってひどいアイデアがわいたこともあった。「友情より恋愛を取るんだな」って。でもそれはむなしいよなぁ。オレはもっとみじめになるし、マチダもすげー困ると思う。別れてしまえとも思わなかったし、みんな嫌な思いするだけだなって。だからマチダとオレは切り離されたほうがいいなって。