ノースキャロライナ
その晩のうちにマチダから電話が来て水谷は真実を知らされた。取り乱すことなく耳を傾けることができたのは、今まで誰にも言えなかった自分の気持ちをあの時栄口に打ち明けたからかもしれない。マチダはよっぽど申し訳なく思っているらしく、何度も何度も、それこそ水谷が少し引いてしまうくらい謝っていた。
「オレ本当にわかんなかったんだけど、いつからつきあってたの?」
「クリスマスのちょい前くらい?」
「知らねぇー。でもお前、クリスマスはオレらといたじゃん」
「その後に会ってた……」
「わぁ、余裕っすね」
「だから志望校一ランク落とさなきゃいけなくなったんだよ!」
それよりも水谷はあのひどい出来事が自分の中でもう過去のことになっているのに驚いた。昨日まではこんなに寛容じゃなかったはずだ。かっこ悪いからあまり表へ出さなかったが、マチダは悪くない、悪いのは自分と思いつつも、どこかで相手へ恨みを向けていた。そんなピリピリした感情がきれいにどこかへ消え失せてしまった。
「オレもマチダと同じ立場だったら絶対言えないと思うし」
「いや、でもさ」
電話先で頭を下げ続けているであろうマチダが不憫でならない。謂れがないとまでは言わないが、そんなに詫びられるほどの何かはもう自分の中には存在しない。
なので猥談を交換条件に出してやった。マチダは卑怯だとか何が面白いんだよとか愚痴ったけど、少しもしないうちに水谷とぐへぐへと笑いあう。ずっと忘れていたけれど自分とマチダは似たもの同士なのだった。電話だと意味のわからない単語が全部カタカナに変換されて頭の中へ入ってくる。水谷はまた無駄な知識が増えた。
最後にマチダは「また遊ぼうな」と言った。本屋の前でそれを聞いたとき、水谷は絶対嘘だ、と強く思ったのだ。でも今は素直に信じられる。
「……うん、じゃ、また」
あんなに自分を追い込んでいたことが電話ひとつで解決してしまった。がらりと色を変えた世界に水谷は戸惑う。今まで苦しめていたトラウマも確執も存在しなくなった。身体が軽すぎる。
水谷は明日の練習に備えて眠りたいのだが、テンションが上がりっぱなしでどうにも寝付けない。栄口にも教えたいなぁと思ったけど長電話のせいで時刻はもう午前過ぎだったからやめておいた。栄口がいなかったらこの状況を打開できなかったと思うのだ。ありがとうを言いたい。
でも栄口ってオレのこと好きなんだっけか。忘れかけていたことを思い出す。男が男を好きになるってどんな感じなんだろう。つらくないかな。今回の出来事で水谷は一人で悩むのはすごくつらいことだと身に沁みてわかった。今度は自分が栄口の力になりたいけれども、それは具体的に何をすればいいんだろう。
すぐ水谷は自分が栄口を好きになればいいと気づいた。でもそれはどうなんだ。今まで自分のことで手一杯だったから、あの子のときみたいに誰かへ好意を向けられるかどうかは正直わからない。ましてや相手が栄口となるとさっぱり見当もつかない。