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ノースキャロライナ

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 栄口、と名前を呼んだらこちらを向いたのでしばらく目を合わせてみた。栄口も何の変哲も無い、普通の男子高校生でしかない。
「好きだよ」
 栄口の瞳の奥がぐらりと揺れたような気がした。
「そういうのがさぁ、ひどいって言ってるんだよ……」
 投げられたボールはさっきのよりも強い音を立ててカゴの中へ入った。
「……好きだよ」
「……」
「す、すき……」
「水谷、いい加減に……」
 栄口は苦言を途中で止め、明らかに様子のおかしい水谷に気づいた。当の水谷はもう大変だった。この前泣いたとき「わーっと」なったのに似ていたけれど、今日のは変に頬が熱くなっていく感じがする。まともに喋れないとわかっていても何か言いたくて黙っていられない。
「さっささささ」
「ななな、何」
 自分の動揺が栄口へも伝染したらしく、布に包まれた磨きかけのボールがポトンと地面へ落ちた。
こいつ一体どうしたんだ、と身構える栄口がなんだかとてつもなく恥ずかしく思えて、でも逃げるのも嫌で、覆い被さるように乱暴に抱きしめた。どちらかといえば技で固めた、と表現するほうが正しいのかもしれない。
「ギャー!」
 抱きしめられている相手はなぜか絶叫していた。実のところ水谷も「あー!」とか「だー!」とか大声を出してどこか向こうへ走ってしまいたい。そうでもしなきゃ恥ずかしすぎて溶けてしまいそうだ。
 でもそれをするためには栄口を抱きとめている腕を一度離さなければならない。そしたらオレは必然的に栄口の顔を見て、もっと恥ずかしくならなければいけなくなる。できない、絶対できない。それに上気した頬へ栄口の耳の冷たい感触が当たるのが気持ちいい。
「お前ら何やってんだよ」
 部室から出てきた花井が呆れた顔で告げる。
「ほ、ホモごっこ?」
「へー、どっちがホモなんだ?」
「……どっちも?」
「救われねぇ〜」
 田島は笑い、花井はげんなりとした。二人は変な冗談を口走る水谷と、まだうんうん唸っている栄口へ別れの挨拶を述べ、自転車置き場の方へ歩いて行った。
 このままでは埒が明かないと判断したのか、栄口は必死に腕へ力を入れ、引っ付いた水谷をめりめりとはがした。
「水谷」
 ぜえぜえと息を荒くして名前を呼ばれた。
「まず着替えろ、オレ帰れないから」
「……はい」
 そうなのだった。水谷はまだ練習着のまま栄口へ絡んでいた。とっとと着替えてもらわなければ鍵当番の栄口は寒空の下ずっとボールを磨くことになる。

作品名:ノースキャロライナ 作家名:さはら