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【Secretシリーズ 2】Truth -真実-

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第7章 決意



目が覚めると、ふたりは屋敷を目指した。
日が沈む前に、そこにたどり着きたかったからだ。

ハリーもドラコも、早くたどり着きたいのか、そうでないのかよく分からず、ただ前を見て、先を急いだ。

ふたりが向かう空は青く澄んで、とても気持ちがよかった。
このままずっと、ふたりの時間が続いてくれればいいと、何度も思ったけれども、口には出さない。

──もう胸がいっぱいで、何も言葉にはならなかったからだ。


強風に、またハリーの咳がひどくなったようだ。
かなり咳き込んで、からだが揺れる。
たまらずドラコはハリーのとなりにほうきを移動させると、ハーマイオニーからもらったマフラーをほどいて、相手に渡した。
それを首に撒いて、その中に顔をうずめてみろと、ジェスチャーをする。
少しはよくなるはずだからという、仕草をした。

その身振りがかわいくて、ハリーは笑った。
こんなほうきに乗っていなかったら、すぐに抱きしめてしまいそうだ。


彼のすべてが愛しい。


――――ハリーは幸せだと思った。
彼からはたくさんの幸せをもらった。
もう十分だと、ハリーは思う。
もう悔いなど、どこにもない。


ドラコがマフラーを巻いたハリーを見て安心して、彼の後ろに戻ろうとすると、ハリーが腕を出して、それを引き止める。
(今咳き込んでいるから、ほうきから落ちるかもしれない。だから、となりで見ていて欲しい)
というジェスチャーをした。

その仕草が下手くそで、最初は何のことを言っているのか分からなかったドラコだったが、やがてしつこく何度も繰り返すことで、やっと理解した。
腹を抱えるほど笑って頷いた。
言葉を交わさなくても、目を見て通じ合えるなんて、ひどく素敵なことのように思える。

(もっとちがう方法があったのかもしれない)と二人は思った。
自分たちの関係は、本当はもっと別の結果に向かっていく方法もあったかもしれない、という思いが頭をよぎった。


でも、きっとそれは、多分、遅すぎたことだ…………


ただ今は、追うのではなく、追われるのではなく、いっしょに前を見て進んでいくことが、嬉しかった。
このままふたりでいると、どこまでも一緒に進んで行けそうで、どんな困難にも負けないような気がしてくる。

ドラコはハリーが好きで、ハリーはドラコのことが好きだった。
お互いすれ違ってばかりで、一度も口にしたことはなかったけれども──

夜になり、辺りが暗くなる頃、やっとマルフォイ家の屋敷の前にたどりついた。
大きな屋敷にはたくさんの明かりがともっている。
大勢の人が集まっている雰囲気がした。
たぶん、あの人を中心に、作戦会議の真っ最中なのだろうとドラコは思った。

ふたりは近くの目立たない木立の影に着地する。
「ありがとう、ハリー。ここまで送ってくれて」
心からの感謝の気持ちを込めて、言葉を告げた。

いつもの「ポッター」ではなく「ハリー」と言ったことに、ドラコは気づかない。
ハリーは嬉しくて笑った。
彼から名前を呼ばれるなんて、もうないと思っていたからだ。

「じゃあ、行こうか」
ハリーはドラコの手を取ると、正面の大きな門へと歩いて行こうとする。

ドラコはびっくりしたように、相手の顔を見た。
「……ばか!気でもちがったのか!君はここまででいいんだ。ここらからは、僕ひとりで行くから」

ハリーは笑いながら、頭を振る。
「いいや、君を屋敷まで届けるよ。──約束しただろ?」
「やめておけ!この屋敷にいるのは、容赦ない連中ばかりだ。君が僕といっしょに門の中に入れば、命の保障なんてないぞっ!早く立ち去れ!あいつらに見つかる前に!」

「――いやだ」
笑ってハリーは否定する。

「死にたいのかっ!!」
カッとなり必死でドラコは鋭く叫んだ。

「その覚悟は、最初から出来ていたよ。君をこの屋敷から連れ出すと決めたその日から、ずっと覚悟はしていた。――――だから、いいんだ」
ハリーはぎゅっとドラコの両手を握った。

「ごめん、ドラコ。長いあいだ、君を家族から引き離してしまって。辛くて、寂しかっただろう。本当にごめん……」
その慰めの言葉は、熱でうなされていたとき、聞いたことがある。
あのときハリーは泣いていた。
──だけど今のハリーは、泣いてはいないし、それに続く、愛の言葉はなかった。

ドラコはたまらず、涙が溢れてきた。

──辛かった。
寂しかった。
自分はやっぱりハリーには好かれていないのだ。
こんな出来損ないの自分なんか、好かれる訳がない…………

「ドラコ。ドラコ。お願いだ、泣かないで……。上を――――、君の屋敷を見てごらん。……そう、あの窓だ。あれは君の部屋だろ?」
やさしく笑って、ドラコを慰めようとする。

「ご両親が君のことを思って、いつ帰ってきてもいいように、毎日部屋を整えて、夜には明かりを入れて、君の帰りを待っていたんだ。……君は誰よりも愛されているんだ。――さあ、家に帰ろう……」
ドラコはかぶりをふった。
「――だから、僕は、ひとりで帰るよ。君は、ついてこなくていいから……」
ハリーはじっとドラコの顔を見て、語りかける。

「君は頭がとてもいいから、本当は分かっているんだろ?敵にさらわれて、のこのこ戻ってきても、多分、あいつは君のことを許さないと思うよ。秘密をばらした裏切り者の君が帰っても、君の居場所はない。でも、僕をいっしょに連れて帰ってきたら、話はちがうはずだ。僕が一番憎たらしい敵だからね。よくやったと大喜びするはずだ。……それで、君は許されるよ。大丈夫だからね。君は何も心配することはないんだ。――――さあ帰ろう、ドラコ。君の家に……」

ハリーは幸せだった。

大好きなドラコのために死ねるなんて、なんて幸福な人生だろうと思う。

自分の苦難の連続の、意味のない人生も、こういう結末があるのだったら、本当に生きてきてよかったと、しみじみ思う。


――――愛していた、誰よりも。
自分の命なんかより、ずっとずっと、ドラコのことを愛していたんだ――――


ハリーは泣いているドラコを見て思った。
(ドラコは本当はとても気が小さいんだ。ひどく臆病で、神経質だ。だから、僕が死ぬ瞬間だけは、ドラコに絶対に見せてはいけない。ちゃんと呪文をかけておかなければ。その最後の瞬間、僕のからだは瞬時に移動できるようにしよう。どこか遠くに――――)

思案して、すぐにハリーは結論を出した。
(──そうだ。深い海の底がいい。誰も探せない、海の底で、僕は死のう…………)

心は決まった。迷いはない。

ハリーはドラコの手を取ると、門へ向かったのだった。