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【Secretシリーズ 2】Truth -真実-

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第2章 ふたりだけの部屋



どこかで、うっすらと話し声が聞こえてくる。
何かをいろいろと言付けているようだ。
やがてそれは相手の了解する声が聞こえて、そしてパタンと扉が閉められた。

ドラコはゆっくりと目を開いた。
見覚えのない部屋だ。
(ここはいったい誰の部屋だろう?)
頭が痛い。

渡されたトレイを持って、ハリーが寝ているベッドまで歩いてくる。
覗き込むと、眠っていると思っていた相手が起きていたので、少し驚いた顔をした。
「……や、やあ。気分はどうだい?」
言葉に詰まったようにハリーは尋ねる。

「いいわけないだろ」
ぶっきらぼうに、ドラコは答えた。
「そりゃそうだね」
肩をすくめる。

「ここは?」
「君の部屋だ。ここに来たときから、ずっとこの部屋を使っているんだ。覚えていない?」
「自分の屋敷で眠ったあとからの記憶が一切ない。何も思い出せない」
「――――そうか」
ハリーはそっとため息をついた。

「風邪薬と頭痛薬だ。君に合わせて作ってくれたから、よく効くと思うよ」
トレイをドラコの前に差し出す。
「誰が作ったんだ?」
「ああ、ハーマイオニーさ」
「じゃあ、飲まない!いったいどんな毒が入っているのか、分からないからな」
見下したような素振りで、薬を突き返した。

「そんなことするはずがないだろ。君はハーマイオニーの薬がよく効くから、彼女の作った薬しか飲まなかったくせに。あんなに信頼していたじゃないか」
「――僕がグレンジャーのことを信頼していただと?何のことだ?寝ぼけたことを言うな!僕は自分の主治医が作った薬しか飲まない、ものすごく用心深いタチなんでね」
ハリーの言葉の上げ足を取って、せせら笑う。

「僕が頭を下げて、飲んでくれとお願いしても無理かな?」
「絶対に飲まない!」
「でも飲まないと、明日、きっと君は体調を崩すと思うけど――。弱ったな……」
「イヤなものはイヤだ!!」
かなり強情な性格だ。

ドラコの気分を変えようと思ったのだろう、ハリーはもう一つの箱を彼の前に差し出した。
「チョコレートがあるよ。これ君が好きだろ?」
そこにはたくさんの金色のコインの形をしたチョコが入っていた。

ドラコの顔が真っ赤になる。
「君は僕のことを、バカにしているのか!!女、子供のように、お菓子で釣ろうなんて!いいかげんにしろっ!」
容赦なく、それを叩き落とした。

ハリーの手から箱は落ちて、コインチョコが床にバラバラと、無残に散らばる。
金色の金貨の形をしたチョコレートは円形で、クルクルと回転しながら転がり、部屋のあちこちに広がってしまう。
ハリーは相手を注意することもせず、ただ大人しく無言のままうつむき、それらを拾い集めていった。
元の箱の中へと、ひとつずつ丁寧に戻していく。

その動作はひどくゆっくりとした緩慢な動きで、肩は落ち込み、背が丸まり、惨めな姿に見えた。
今まで気づかなかったが、ハリーはかなり青い顔をしていた。
体調が悪いのかもしれない。

――まあそんなことは、ドラコには全く関係ない話だ。
フンとバカにするように鼻を鳴らした。

それ以上、薬や食べ物を勧めたりはせずに、ハリーは部屋のすみにあった椅子に、ドサリと座り込んだ。
腕を膝の上に置き、手を組んで、視線はずっと下を向いたまま、動こうとはしない。
こうべを垂れ、何かを深く考えているようだ。

なぜかドラコは、彼の存在が気にかかりすぎて、イライラしてしまう。
「いい加減。出て行ってくれないか。部屋を。他人がいると落ちつかない性分でね!」

ドラコの冷たい口調に、ハリーは顔を上げた。
「――――えっ?ああ、ごめん。でも部屋から出ると、君の看病をすることが出来ないから、ここに居させてもらうよ。君の邪魔はしないように気をつけるから」
「いいから、出ていって欲しいんだ。特に僕は、君なんかに看病をされたくはない!」
ドラコの容赦ない言葉に、ハリーは一瞬だけ、ひどく傷ついた顔を見せる。

「じゃあ、ロンを呼ぼうか?彼は口は悪いけど、おせっかいすぎるほど、気はいい性格なんだ。よく面倒を見てくれると思うよ」
「まだ分からないのか?!僕はひとりで、部屋で眠りたいんだ。ただそれだけだ。――さっさと出て行けっ!!」
容赦のない声に、鋭い目つき。
全身からお前は敵だと言って威嚇する態度をとる。

ハリーはクラリとめまいを感じた。
――――ひどい悪夢を見ているようだ。

昨日、眠りにつくまで、あんなにも笑ってくれたのに。
「ハリー」「ハリー」邪気のない声が聞こえてくる。
いつものように、ドラコは安心した顔で、眠りについたはずだった。

その相手が今同じ顔で、同じ声で、自分の全てを否定し、拒絶して、にらみつける。

こんなに苦しいとは思わなかった。
苦しくて息も出来ない。

これは自分への罰だった。
勝手に都合よく彼を作り変えた、自分自身への罰だ。


(──あのドラコが消えた瞬間に、自分も死にたかった)


突きつけられた現実の辛さに、涙がこぼれそうになる。
(――愛していたのに…………)
ハリーは頭を振った。

(――いや、今でも愛しているんだ…………)
指先が震えた。

全身から力が抜けて、本当はこの場所にへたり込みそうになるのを、必死で気力でカバーしている。
ハリーはぐっと唇を噛んで、震える指先に力をこめた。
(弱音を吐くな!最初からこうなることは、わかっていたはずだ)

「……じゃあ、僕は部屋から出るけど、気分が悪くなったら、その手元にある杖を振って、呼びかけるんだよ。君が呼べば、誰でもすぐ駆け付けるから。――――いいね?」
やっとふりしぼった笑顔を浮かべて、相手に語りかけた。

しかしドラコは冷めた顔で、見返すだけだ。
「ああ、分かった」
いつもの癖で、その肩を抱きそうになるのをこらえて、ハリーは部屋から出ていった。


深いため息が出る。

出ていった部屋は、自分とドラコの部屋だった。
この狭い隠れ家に、余分な部屋などあるはずもない。

今夜は冷えるにちがいなかった。

とぼとぼとハリーは階段を下りて、大広間へ向かう。
扉を開けて中へ入ると、部屋には誰もおらず、暖炉には火も消えて、部屋はぞっとするほど冷え切っていた。
ハリーはうつむいたままドサリと、ソファーに横たわった。
このまま寝たら風邪をひくことは分かっている。

だけど、もう動けなかった。

あまりにも彼は疲れすぎていて、何も考えることなど出来なかったからだ――――