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遠くの花火、近くの残響

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「帰ろ、栄口」
 そっか、オレは今水谷と同じところに帰れるんだ。その事実は随分前から当たり前のことなのだが、なんだか今日は強く心へ響いてくる。
「うん、帰ろう」
 思わず素直に出た言葉に、へへへと水谷は笑う。自転車の後ろに乗るかと聞いたが、珍しく歩いて帰ろうよと返ってきた。
 車道側を歩く水谷のペースに合わせ、栄口は自転車を押して歩く。橋はもう少しで終わり、しばらくすれば住んでいるアパートがある。
「あ、このサンダルさ、栄口も履けばいいじゃん」
「うん、まぁ、気が向いたら」
「なにそのやる気のなさ」
「オレが履くと健康サンダルっぽくなるんだよ」
 もっと詳しく例えるなら、おっさんがよく履いているツッカケみたいになるのだ。
「そうかなー」
「そうだよ」
「ていうか服もさー、オレ栄口の勝手に着てるから、栄口もオレの着ていいって言ってんのに着ないよな」
 水谷は栄口の服を着るのが好きなのだ。梅雨時、水谷によって自分の着る物がなくなり、くだらない喧嘩をしてしまったときそう言っていた。実際、今水谷が着ているTシャツも栄口のものだった。
「簡単に言うなぁ」
「いいじゃん、着てみてよ」
「オレが水谷の服着たらやばい」
「どういうふうに?」
「コスプレになる」
「えー! なんないよ!」
 花火の音に負けない、でかい声で水谷が否定した。
「なるから」
「なんない!」
「なるってば」
 そんな言い合いを繰り返しながら辿る、家までの道はなぜか楽しい。緩い風に煽られて自転車のカゴへ入れられた白いビニール袋が揺れる。そういえばこの中には卵が入っていて、チャーハンを作ると水谷が言っていた。
 ちょうど腹が空いてきた栄口は、パラパラになるらしいチャーハンのことを考えながら、水谷のいつものだらだらとした話へ相槌ちを打つ。

作品名:遠くの花火、近くの残響 作家名:さはら