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遠くの花火、近くの残響

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 なんとなく、なんとなくシャツの色が似ているようで、人込みの中なのに栄口は怯むことなく大きな声を出してしまった。
「水谷!」
 前へ前へと進む列の中で一人だけ動きを止めた人物はやはり水谷だった。すーみーまーせーん、と間延びした声を出しながら流れに逆らって栄口のほうへと歩いてくる。合流したのはいいものの立ち止まって話すような場でもなく、すぐに二人は列から外れたところまで避難した。
「携帯繋がりにくくなってね?」
「オレもそう思ってた」
「花火のせいかな」
「わかんない」
 ここにたどり着くまで何度も電話をかけたのだが、ちゃんと相手へ通じたのは五回に一回くらいだった。しかもぶつぶつと会話は途切れ、水谷が皆と逆の位置にいることを知れたのは奇跡に近いように思えた。
「みんなは公園のほうで見てるってさ」
「げえ、マジでオレ逆行ってたんだな」
 人に揉まれて疲弊したのか、水谷は少しくたびれた様子だった。
「どうする? このままこっちで見るか?」
「いや、みんなのとこ行くわ」
 あっさりと水谷がそう言うので、栄口は隠し切れず落胆を表情に出してしまった。しかしよくよく考えてみると水谷が自分と二人だけで花火を見る理由など無い。
 今日の自分はいつもより過剰に何かを期待してしまう。花火が上がるからか、夜なのに妙に蒸し暑いからかはわからない。
「こりゃ多分戻ってる最中に始まっちゃうな」
 大会開始まであと十分、この混雑ぶりを考えるととても間に合いそうになかった。
「栄口」
 まっすぐにこちらを見てきた目が、珍しくとても辛そうな色になっていた。それからうつむき、毛先をいじりながら「ごめんな」と言うものだから、頭の大事な回路に電圧がかかりすぎて、素っ気無く「いーよ」としか返せなかった。いくら混み合っているとはいえ、こんな近距離かつ、そういう好きな顔で喋られたらいつもの自分の機能が停止してしまう。かけるべき優しい言葉が出なくなる。
 今が夜でとてもよかった。きっと今オレの頬は赤い。そんな感慨をひしひしと噛み締めながら、水谷へ「行くぞー」と声をかけ、栄口は来た道を引き返す。

作品名:遠くの花火、近くの残響 作家名:さはら