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東方鬼人伝

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鍬を納屋に放り込んで代わりに斧を引っ張り出す


「しかしここら辺の山がつ(木こり)さんもすっかりいなくなっちまったなあ」


家の前に出てぼんやりしていると

茂村のじいさまも斧を片手に自分の家の納屋から戻ってきた


「んだな、山は一度手をつけると一生面倒みんといけんからなぁ
まるで家族みたいだな、じいさまよう」


山っちゅうのはまるでいきもんみてぇだ

一度俺ら達が手を加えると山の均衡は崩れちまう

そうなるとほっとくとハゲ山みたくなっちまうんだと

そう

山がつのじいさまがよく言ってたよ


「山入るのはええがな……」


「なんだい?」


「童子、お前は知ってっか?」


茂村のじいさまがにやりと笑って言う


「ここら辺はな、神様が住んでる場所でな
行儀良くせんと神隠しにあうんだ」


「なんだ、そんなことかい、そんな話ならばっちゃに聞いたよう。りそーきょーってやつが此処らへんにあったって話だろー?」


「んだよ、えらい怖ーい“あやかし”が理想郷を作るために人さ拐って働かせとるらしい」


「それがどうしたよ?」


「鈍いやつだ、それが此処らへんに現れるんだ」

「そいつはおっかないね」

「だろー?」



たいしておっかないとは思わねぇけども

茂村のじいさまは聞かんとしつこいからなあ



茂村のじいさまの話もそこそこに俺ら達は山の中腹まで辿りついた


「童子、ここら辺のはずだ さっさと済ませちまおう」


「おう」


茂村のじいさまはそう言うと枯れ木を探し始め


ものの数秒で発見した

「これだ、童子、やっちまえ」


じいさまは木を指し示すとそう言う

なかなか太い木だ


「そんじゃいくぞぉ!」


斧をふりかぶって木の幹に当てる


固い感触が斧を通して伝わってくる

生きてる木はかすかに弾力があるからこの木は確かに枯れ木なんだろう


「もう一つ!」


二度目を幹に叩き込む


メキメキと木の割れる音が響き

斧が中程まで食い込む


「二発でやるとはさすがだなあ、童子よ」


「茂村のじいさまよ、前から気になってたんだが、なんで皆俺らのことを童子って呼ぶんだ?」


「そりゃお前の一族にゃ代々酒好きで剛力の者が多くてな、鬼の血が流れとるって言い伝えがあるからさ
お前は一族の歴史の中でも飛び抜けて剛力だから鬼の頭目、酒顛童子の名にあやかってお前を童子と呼んどるんだ」

「なるほど、俺らの一族にそんな意味があったんだなあ」


「だども、鬼の血が入っておったとしてももうかなり薄くなっとるだろうなあ」


頼光公といやぁ平安だったか?

もう千年近く前になる
俺らの一族はそんな前からあるのかー
作品名:東方鬼人伝 作家名:faust