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東方鬼人伝

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「ま、そんな昔話よりも今は山だ山」


俺らは中程まで打ち込んだ斧を引っこ抜くと

「ふんっ……ぬうぅ!」


枯れ木を前に押す


すると枯れ木は俺らが押した方向へメキメキと音を立てて倒れて行く


「おお~、ものの数分で木が倒れちまった。(童子はほんに剛力だのう……おとぎ話と思っとったがもしかするとホントに童子は鬼の子孫かもしれん)」



茂村は童子が楽々と木を切り倒すのを見て、改めて木曾 九郎(キソ クロウ(童子の本名))の非凡さを思い出していた




幼少の頃から石灯篭をひっくり返したり

自身よりも大きな大人を軽く投げ飛ばす剛力を見せ


18歳には身の丈6尺5寸(195センチ)になった

今じゃ近所の柔道場の子供相手に師範代を務める傍ら

日夜野良仕事に精を出している


また筋力に負けぬ胆力を備え、少年の時
素手で三尺近い蛇を捕まえ


医者を呼びに村から麓まで熊の出る道を走ったり夜の墓場を悠々と散歩したりと度胸もある


性格もおおらかで優しく、行動力のあるリーダー的存在


さらに不公平なことに、九郎はなかなかの美男子で

九郎の名の由来は酒顛童子を退治した武将の子孫で美男子であったと言う源 義経の伝承に由来する


ただ九郎は無類の酒好き(恐ろしく強い)でちょっ~と頭が悪く、女性に世辞の一つも言えない素直過ぎる性格が欠点だった



しかしその素直さも美徳とも取れるので

九郎に嫁をもたせようか、と言う話も結構あるのだが本人は興味ないと言ってなかなか取り合わない

若い娘に会ったことが少ないので
色恋沙汰に対して疎く興味が湧かないのであろうと父親は言う



(嫁さえもらってくれりゃ九郎の一族も安泰なんだがなぁ)


茂村は枯れ木の切株を引っこ抜いている九郎をぼんやりと眺めていたが

自身も柴刈りを手伝うことにした














「こんなもんかな?」


「ふぅ、やっぱし童子連れてくると山仕事が一日で済んで楽々だなあ」


今日の仕事は病気にかかって枯れた木を切り倒す作業だったが

九郎が今月一杯使って切る予定の量のほとんどの木を一日で切り倒したため


茂村は九郎に今日は作業を終わる旨を伝えた


「さて、後はヨモギでも拾って帰るだけだが……」


そう言うと茂村はカゴから徳利を取り出し


「コイツをぐいっとやってからにしようや」

九郎に見せた


「茂村のじいさまはホントにわかっとる!」


九郎も笑ってそれに応じ


二人はいそいそと酒盛りの場所を作り始めた
作品名:東方鬼人伝 作家名:faust