二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ふざけんなぁ!! 8

INDEX|4ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

なんでもチャレンジというけれど(涙) 後編2






「ハニィィィ・フラァァァァッシュ!!」
そんな野太い奇声で軽快に始まった、漢(おとこ)門田京平の歌。
ジャージ素材でもぴっちぴっちな衣装に身をつつみ、左手にサーベルを持って振り回す、筋肉隆々のキューティー・ハニーは、元気で明るい旋律と裏腹に、悲壮感が漂い鬼気迫るものがあり。
静雄は茫然自失し、帝人も目をまん丸にして固まった。


「……あいつ、気でも狂ったか?……」
「門田さんって、ああいうノリの良い性格でしたっけ? もっとこう……、どっしり頼もしい文鎮(習字の時に使う重石)みたいな人だと思っていたんですが」
静雄は一瞬言葉に詰まり、こくりと小首を傾げた。
「前々から思ってたがよぉ、お前、結構例えが渋いな?」
とても現役女子高生とは思えない。

「あは♪ うちの母、友達も多くて多趣味な人だったから、しょっちゅう家空けてて。だから正臣と二人、直ぐに祖父母の家スペースに置いていかれたので、其処で育てられた影響が出てるのかもしれませんね」
どうやら二世帯住宅らしい。
「なぁ、お前の親父さんって、婿養子じゃねーか?」
「え、凄い。どうして判っちゃうんですか?」
「そりゃ、姑と同じ屋根の下に住んでてさ、幼子二人残して頻繁に家を空けて遊びほうける嫁なんていね―っつうか。そっか、それであのお袋さん、あんな性格なのか」
「はい?」

帝人の母親は【親】というよりも、まだ【娘】気分なノリだ。
子供の自立を妨げず、明るく歯に衣を着せず、ずばずば物言えるあっぴろげな性格……と言えば聞こえはいいが、まだ15歳の純真な少女を、仕送り一切ナシで物価が超高い東京なんぞに送り出した上、連絡が数ヶ月途絶えても心配一つせず捜しもしなかった事といい、責任能力を疑いたくなるぐらい、自己中でガキ臭い駄目母である。

自分もそう人に誇れる性質ではないけれど、将来の義母があれかと思うと、正直気が合いそうになくて鬱陶しい。
でも親の悪口を言われて、気分を害さない子供はまずいないから。
静雄だって一応社会人の端くれだし、『言わぬが花』くらい弁えている。

「あ、静雄さん。そろそろ終わりそうですよ」

悪夢に近い門田の野太い美声が響いた四分間、最後にハスキーな息遣いで「可愛いわよ♪」と囁き、歌が締めくくられた時、静雄の腕にびっちりと鳥肌で埋め尽くされた。

「なんであいつ、あそこまでやれるんだ?」

帝人と静雄、カラオケビギナーな二人は知らなかった。
採点ゲームの場合、画面下部に走る歌詞部分だけを淡々と歌っていれば良い訳ではなく、括弧書きで時折画面に入る、掛け声や台詞も完璧にタイミング良く言わないと、減点の対象になるらしい。

「門田さん、サイコーっす♪」
「ドタチン、笑ったわよぉぉぉ」
「全力を尽くし切る、それでこそ漢だ!!」

バン組三人が健闘を讃えて取り囲み、ひゅーひゅーと盛大に歓声を上げる。
だが、そのど真ん中に立った俯く彼の顔は、今までの堂々とした歌いっぷりが嘘のように、みるみるうちに茹蛸になり。
「……もういいだろ。お前ら俺を見るな、見るんじゃねぇぇぇ!!……」

うっすら涙を浮かべ、脱兎で更衣室に突っ走り、カーテンを閉めそのまま篭城してしまった。一応更衣ルームは二つあるから困りはしないが、飯も食わず、次の籤を引くまで出てこないつもりらしい。
そんな涙無くして語れない……、門田渾身の【キューティ・ハニー】の点数は73点で、トムの【銀河鉄道999】が92点だから、点差は51に開いてしまい、努力と根性だけではカバーできないコスプレバトルの恐ろしさを、肌で感じる静雄だった。


一方、大の大人をまたもや涙ぐませる結果となってしまい、気を使いしぃな帝人の罪悪感も、MAXに差し掛かっていた。
チケットを新羅達に便乗させて貰い、転売して稼ぐなんて気持ちなどすっぽり忘れ、そのまま門田チームに差し上げてしまってもいいから、兎に角この息苦しい雰囲気から脱却したかった。だが、ゲームはシビアなものだから。
発起人がいくら帝人でも、スタートした瞬間から己の手を離れてしまい、ゴールに辿り着くまで何もできなくて。
せめて篭城している門田に差し入れをしようと、せっせと皿に料理を形よく取り分け、持っていって貰おうと、現在頼れる壁となってくれている静雄を見上げたのに。


「……門田、惨ぇ……。俺にはとてもできねぇ……」


見かけドーベルマンで中身がチワワな心を持つ青年……、静雄も、今から己の身に降りかかるかもしれない羞恥に心配し、怯えていて他人に気を使える所ではないようだ。


「静雄、京平に見蕩れてる場合じゃないよ。次は君だって」
「見蕩れてなんかねぇよ!! おい、絶対信じるなよ帝人!! 俺はホモじゃねーからな!!」
(…突っ込む所は其処なんですね?……誰もそんな事疑いませんよ、はぁ……)
一体、この純朴な人の中では、自分はどれだけ頭が弱く、清らかで騙され易い世間知らずな馬鹿娘になっているのだろう?
一度じっくり問い詰めてみたいが、帝人は結構プライドが高い。
知ったが最後、修復不可能な溝ができそうで、それもまた恐怖だ。


弾む足取りでやってきたセルティが、紫の抽選箱を差し出すと、静雄の顔はみるみる内に血の気がなくなり、カッチコチに固まり、緊張の糸がどんどん張り詰めた。
一歩間違えば切れそうな雰囲気は、確実に周囲の温度を一度下げただろう。
特異な怪力を持つ癖に、彼はメンタル面が弱すぎる。
(もう、男だったら、うじうじせずにドーンと行って来い!!)
と、帝人は内心思ったけど、勿論口が裂けても言えない。

彼が見栄や格好なんてつけなくても、可愛いヘタレだって事は、この集まりの中では周知の事実なのに。
無駄な抵抗時間が勿体無いので、純真な見上げる笑顔を作る。

「私、静雄さんのコスプレ、とっても楽しみです♪ うふふ♪ 頑張って来て下さいね♪」
確信犯でプレッシャーをかけてやると、逃げ道を絶たれた男はようやく諦めた。
背中を丸めて項垂れ、ギクシャクと不思議な動きで箱に腕を突っ込み、冷や汗を一杯垂らしながらだけど、のろのろとカプセルを引く。
それを、セルティがすばやく奪い取って開き、また物言えぬ恋人を気遣い、新羅が直ぐに紙を覗き込んだ。

「田中先輩、番号は7番です」
「お、静雄やったな。【ONE PIECE】のモンキー・D・ルフィだべ」
衣装を確認する為待機してくれていたトムが、トレードマークの麦藁帽子を高く掲げて振った。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ぐぐっと両手の拳を握り、バーテン男は歓喜の雄叫びをあげる。
それは彼が毎週欠かさず録画して見ている唯一のアニメな上、みっともない女装をしなくて済んだという安心感もあり、ソファーから立ち上がった時にはニカッとやんちゃな笑みまで浮かべていて。

「帝人、直ぐ戻るからイイ子で待ってろよ。セルティ、俺が帰ってくるまで帝人の盾になってやってくれ。誰にも俺の場所に座らせんじゃねーぞ、頼むな♪」

さっきまでの葛藤が嘘のように、上機嫌にぽしっと帝人の頭をかき撫で、弾む足取りでずんずん更衣室へと行ってしまった。
本当に、判りやすい男だった。

でも、門田への差し入れ皿は、帝人の手に残ったままだ。
作品名:ふざけんなぁ!! 8 作家名:みかる