ふざけんなぁ!! 8
なんでもチャレンジというけれど(涙) 後編3
「失礼しまーす。デザートをお持ちいたしましたぁ♪」
八人分のプリンアラモードをワゴンに乗せ、一人で全部運んできてくれた店長さんは、正臣を慕うだけあり変わった男だった。
だって、猫耳ヘルメットを脱ぎ首から上の無いセルティを見ても、悲鳴を上げる所か、逆に目をキラキラ輝かせていたし。
またコスプレで異様な雰囲気を醸し出している面々にも怯む事なく、平和島静雄が白スク姿の幼女をお膝抱っこしている姿を見ても、楽しげにデザートを人数分置き「ごゆっくりお楽しみください」と一礼し、何一つ問うこと無く帰っていった。
お客に全く嫌な気分にさせない、プロの鏡だ。
「ほら、余所の男なんか見てねーで、とっととチョコウエハウス食え」
早速、焼餅焼きな静雄が、アイスに刺さっていたお菓子を引っ張り抜いて差し出してきた。
お膝抱っこしながら腰を支えてくれているのだけれど、その手に力が篭ってちょっと痛い。
「はいありがとうございます、静雄さんもプリン……、あーんです♪」
でもそんな彼が微笑ましく、銀のスプーンに大きく抉り取り差し出すと、速攻ぱくりと食べてくれてとても可愛い。
ライオンに餌付けしている気分だ。
「……お前が作る焼きプリンの方が、うめぇな」
「えへへへ♪ 明日また作りますね♪」
「幽のより大き目にな」
「はい♪ 判ってます♪」
そんな自分達の姿を、羨ましげに眺めていた闇医者がいて。
「ねぇねぇセルティ、静雄と帝人ちゃん。当分順番が回ってこないからって、あんなラブラブズルイと思わない? 私たちもやろうよ。ほら、セルティ、スプーン握って私にあーん…、ふべしっ!!」
カメラの視界を遮った彼は、哀れにも情け容赦なくセルティの地獄突きに沈んだ。
(……ツンデレだ。セルティさん……)
人前でいちゃつくのは照れるが、家に帰ればべたべたな鴛鴦(おしどり)夫婦になる事は、一週間彼らの家に入院していた帝人は知っている。
「うえぇぇぇん、なんで私が【古代進】!!」
突如、狩沢の悲鳴が轟いた。
女性用コスプレ衣装が多いというのに、ポイントゲッターと期待された彼女は、よりによって【宇宙戦艦ヤマト】を引き当てたらしい。
最近、実写版でキムタクがあの役をやっていたので、映画の宣伝コマーシャルをTVで見て独特な衣装は知っていたのだが、胸元を赤矢印が飾る、独特の白ツナギ服はとっても格好悪い。
テンション下がりまくりな上【ささきいさお】の独特で渋いテノールとビブラートが女性に出せる訳がなく、あえなく彼女は轟沈した。
78点。
「ゆまっちぃぃぃぃ!!」
「任せるっす狩沢さん。俺の声なら女歌でもどんと来いっす!!」
点差はどんどん開き、この時点でもう61もある。門田チームに焦りの色が見え始めた。
逆にチケットなんかどうでもいい静雄達は余裕綽々で、唯一恋人セルティの為に執着を見せていた新羅とて、飄々と彼女が差し出す籤を引く始末。
アルカリックスマイルを崩さない彼のコスプレは、今回独特なかつらのみだった。
「ははははは、なんで私が【サザエさん】?」
『面白い頭だな、新羅♪』
「静雄、知ってるか? サザエさんとお前、同じ年の23歳なんだべ?」
「トムさん、なんでそんなくだらない雑学知ってんですか!?」
でも、ほのぼのSONGは穏やかな新羅にピッタリ合っていて。
セルティがフラッシュをバシバシ使って激写する中、新羅は愛しい人の視線を独り占めできた事に満足しつつ、幸せにのんびりと歌いきった。
84点。
「きたきたきたぁぁぁぁぁぁぁぁ!! いよいよ俺の天下っすー!!」
一周目のトリを飾る遊馬崎は、【北斗の拳】の【ケンシロウ】になっていた。
撫で肩だし、はだけた胸元もつるぺたで、革ジャンな筋肉隆々男のコスプレは全く似合わなかったが、主題歌の【愛を取り戻せ】。
これは高音がでたらめ伸びやかで、難聴になりそうなぐらい、キンキン甲高く迫力ある歌なのに、彼は軽々こなし歌いきった。
結果は文句無しの96点で、門田チームのアンカーは立派に役目を果たし、点差を49と僅かに縮めたのだ。
二周目は、どのチームもメンバーシャッフルを行わなかったので、初っ端はまたもや帝人だった。
幕開けは、やっぱり波乱万丈で。
「……絶対陰謀を感じる……、ねぇまさおみぃぃぃ、まともな籤、入ってないんじゃないの?あいつ、明日コロスコロスコロスぶっコロス……」
「俺の真似すんじゃねーよ。それにそんな物騒な言葉、お前にゃ似合わねぇ」
『そうだ、やさぐれるな帝人!!所詮ゲームだ!!』
「そうだよ、全てセルティの言うとおりだよ。小学生みたいで問題ナッシング♪ ふごっ!!」
恋人から地獄突きを腹に喰らい、幸せそうな笑顔で悶絶する変態闇医者を更に静雄が蹴り転がし、その後大きな手を伸ばしてきた。
「結構可愛いと思うぞ」
髪がすっぽり埋まっているからといって、コンプレックス満載な広いおでこをあえて撫でられ、帝人は余計暴れたくなった。
「……静雄さん、やっぱり明日私、お手製プリン作りませんから。ううん、いっそ思い切って一週間ボイコットしちゃおうかな……」
「うおおおおおおおおい、そりゃねぇだろが、みかどぉぉぉ」
帝人は一回目と同様、ぷるぷる羞恥に震えつつ、【キグルミ】に扮し、【たらこの歌】を涙目で歌った。
ピンク色の衣装は布の面積がたっぷりあって嬉しかったが、あのタラコの縦長い被り物が悲しかった。
70点。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、これが俺の愛のパワーだぁぁぁぁ!!」
渡草にとって、とうとう当たり籤を引いたようだ。
嬉々として背中にコウモリの羽を背負った、丈が超短い漆黒のぴっちぴちメイド服を着込み、ノリノリで腰を振りつつ「フォーリン・レイィィィィィン♪」と絶叫している。
彼は上手かった。
【聖辺ルリ】の最新曲だというのに、振り付けまで完璧にこなしている。
だが、彼は視覚の暴力という言葉を知っているのだろうか?
スカートを翻し、腰を振る度中身が丸見えで、知りたくも無かったのに、渡草はペイズリー柄の茶系トランクスを愛用しているという事実が判明した。
92点。
田中トムは無難に【ガンダム】を引き当てた。
でもコスプレが【シャア・アズナブル】だったので、赤と黒い、彼独特のジオン軍の軍服姿は格好良かったけれど、茶羽ゴキブリの羽みたいな黒マントとグレーの目を覆う仮面、それととんがった白いヘルメットがとても笑えた。
しかも彼はとても歌い慣れていたようで、あの有名な【燃え上がれガンダム】を熱唱して堂々の90点をマークし、門田チームから「あんたなんかもう二度と誘わねーからな!!」「これで私達が負けたら、恨んでやるぅ、呪ってやるぅ!!」と、物凄いブーイングが飛んだ。
「ちょっと待てぇぇぇぇ!!」
今日の門田京平は、とことんついていなかった。
アマテラスが天の岩戸に立て篭ったように、カーテンの中で延々隠れ、次のコスプレに着替える時を待ちわびていた彼が、次に引いたのは【Cat‘s Eye】
紺色レオタードに、腰に布を巻いた姿に着替えさせられた門田を、帝人は見ることは無かった。
延々、静雄が「教育に悪い」と、大きな掌で目隠ししていたからだ。
作品名:ふざけんなぁ!! 8 作家名:みかる