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ふざけんなぁ!! 8

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セルティの、温泉旅行の夢が消えた瞬間だった。



☆★☆★☆


ホールにて、念願のチケットを手に入れ、歓喜の奇声を発しつつ浮かれ騒ぐワゴン組み三名+哀れな引率者を遠目で眺めつつ、他人のふりした帝人は、皆に書いてもらったアンケート用紙を纏め、不備がないかチェックした。
タダで遊ばせて貰えて皆も結構感謝していたのだろう、概ね各項目もびっちり埋まっていたのだが、静雄のみが『俺の為に死ね!!』と、でっかく一言紙一杯にかいて省略していやがった。

(ま、いっか。静雄さんだし)

でも、これもご愛嬌と、見て見ぬふりして用紙をカウンターに提出して店を出ると、夜なのにサングラスをかけたバーテンが、ガードレールに体を預け、トムと一緒にタバコの煙を燻らせていた。


「……世の中には、怖い世界があるんだなぁ……。門田ぁ、お前は凄い男だ。俺はあいつらを纏めているお前の事を尊敬する……」
「しみじみ言わないでくれ静雄。門田がますます哀れに思えてくるべ」
「俺はもう、二度とカラオケバトルはしねぇ。やるなら帝人と二人っきりがいい」
「ああ、そうしろ。アイデアは中々良かったんだがな、ルフィは兎も角、静雄にちびまる子のコスプレは……、視覚の暴力、破壊力ありすぎだ」
「うおぉぉぉぉぉぉぉトムさん、思いださせないでくださぁぁぁぁい!!」

たちまち、近くにあった侵入禁止の標識が、九十度の角度でへし折られた。
彼の気持ちは良く判る。自分だって今日は白スク水にタラコのキグルミで、そんなのマジで記憶から抹消してやりたいぐらいなのに。
そして、その日の三時間は、各々の黒歴史として心の中で封印されることとなった。


……筈だったのに。
事件はそれから五日後に起こった。



期末テストも残り一日となり、自室に篭ると静雄が寂しがるからと、居間のソファーで耳栓をしつつ、テーブルで黙々と物理の勉強をやっている最中だった。

「おい、帝人、あれ見ろ!!」
「ほよ?」

突如静雄にがっと肩を揺すられ、指差す方に驚いて見ると、耳栓をしていても微かだが、TVから聞きなれた自分の声がした。
【ひょっこりひょうたん島】が流れてくるのも悪夢だが、それに合わせ、大鎌を振るうウエディングドレス姿の首なしライダーや、ルフィに扮した静雄、筋肉隆々のキューティー・ハニー、ノリノリのシェリル・ノームのコスプレをした狩沢や、北斗の拳のケンシロウ姿になった遊馬崎の姿までが、次々に映し出されている。

「な、何で? これどういう事!?」

口から上が極力見えないように、とても良く加工されているけれど、あの時のカラオケ・パーティが、なんでコマーシャルになっているのだ?
自分達を知る人が見れば、一発で身バレするぐらい鮮明な映像である。

「まさおみぃぃぃぃぃぃ!!」

直ぐに携帯を鳴らして確認を取れば、幼馴染は暢気だった。
『あーあれ、あの部屋隠しカメラが入ってたんだよ。臨調感のある絵が欲しいって言ってたし』
「私、全然聞いてないんだけど」
『ああ、言っちまったら面白くねーだろ。それにこの撮影が条件でタダになったんだ、たっぷりただ飯食って楽しんどいてから文句言うなって』

帝人はぎりぎりと唇を噛み締めた。
タダより高いものはないとは言うけれど、本当だ。
だから奴は最初っから来なかったのだと、今はっきり判ったのだから。


『店長さぁ、濃い素材満載でホクホク喜んでたぜ。まぁ池袋中を捜したって、静雄や首なしライダーみたいな知名度が高い上、見栄えがいいキャラなんて、そうそう見つからないだろうし』
「そうでしょうねぇ……、……明日覚えてろ……」
『ははははははははは、お互い苦手な物理だし、ラストスパートがんばろうぜ帝人♪ じゃあなぁ~』
「正臣の馬鹿ぁぁぁぁぁ!!」


その後、あの宣伝は某動画投稿サイトでも評判になり。
池袋の乙女ロードに新たなオタクの聖地が誕生し、正臣のシンパだったあの店長は売り上げ倍増に成功し、めでたくそのカラオケチェーン店の地区マネージャーに昇格したという。


Fin.


作品名:ふざけんなぁ!! 8 作家名:みかる