さとがえり
「…でしたら―なにとぞ、手短に」
腰を浮かせた玉藻は、九尾の言葉にしぶしぶ座り直す。
「そなた達のようなものを快く思わない連中がいるのは知っていよう。殊に玉藻、お前に心酔しとる若狐たちは若気の至りゆえ、手が先に出よう。昨夜とて、お前の小姓がおらねばどうなっていたか知れぬ。そこで特例ということで、お前たちには今後危害を加えないようにと触れを出すことにした。その旨を伝えておこうと思ってな」
意外な九尾の言葉に、玉藻も鵺野も驚きを隠せない。
「……本気ですか」
「本気だとも。私は嘘はつかぬ」
「まこと、危害を加えぬとおっしゃられるか」
「そなたに与えた尾にかけて、偽りは申さぬわ」
しばらく双方のにらみ合いは続き、先に視線を逸らしたのは玉藻だった。
「―分かりました。九尾さまの有難いご配慮、この茶吉権現天狐・玉藻、謹んで頂戴つかまつります」
三つ指付いてひれ伏すごとく頭を下げた。慌てて鵺野も、隣に倣う。
九尾は満足げに見つめ、一言「励めよ」と言い残して去っていった。