二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

さとがえり

INDEX|15ページ/30ページ|

次のページ前のページ
 

12



「…なあ、玉藻」
「何ですか、鵺野先生」
九尾とその側女(そばめ)たちが退室したあとも、なんとなく座したままの姿勢で話しかける。
「『励め』って、何の事だと思う?」
「言わずもがな、でしょう」
「…聞くだけ野暮か、やっぱり」
「そうですね。…さて、我々もそろそろ退散しましょう。このことは青柳(ちち)に話して―後のことはそれから考えましょう」
落ち着いた場所で考えたいというのは、鵺野も同じ。一も二もなく同意する。
「そうだな」



「そっかー、九尾さまはそのような事をねぇ…」

帰宅して夕食後。
食後の茶をすすりながら、事のあらましを二人から聞いた青柳はしみじみと呟く。
「もう、本っっ当に参りましたよ! ああ言われてどう返事しろっちゅーんじゃ! とか思いましたから!」
その時を思い出し、憤懣やるかたなしといった調子でまくし立てる鵺野。
ちなみに手にしている湯飲みの中は普通の番茶でまったくの素面なのだが、まるで一杯呑んだかのようにテンションが高い。
普段はあまり物怖じしない質の鵺野だったが、相手がこと九尾であったために言いたいことも言えずに、ようやく吐き出す場を見つけて吠えているのだ。
「仕方ないですよ。人間界の一部で少子化が問題になっているのと同様に、我らあやかしの世界も次世代育成には苦慮していますから」
鵺野が荒ぶる雄牛とするならば、さしずめ玉藻は、綺羅に身を包んで優雅に旗をひらめかす闘牛士(マタドール)といったところか。玉藻のいつもと変わらない冷静な口調は鵺野の興奮を上手にやりすごし、落ち着かせる。その手に包まれれば無骨な安物の湯呑みが骨董品のように見えてくるから不思議だ。
「ああ、そうだね。なまじ種族としての力が強い分だけ産まれる子も少ないし、その子も脆弱と来ているし。おまけに新しい世代の育つ環境も、昔に比べると格段に劣悪。人間にこの脅威を認めさせ、信じられてこその存在(わたしたち)なのに、まあ〜〜脅威という点ではすっかり人間にお株を奪われた感じだし?」
青柳はまるで井戸端会議のご婦人よろしく相づちを打ちつつ、湯呑みを傾ける。
「けれど……励めってのは…。っんとに、どうも…」
両手に湯呑みを抱え、鵺野はごにょごにょと文字通りお茶を濁す。別に『したくない』わけじゃないが、九尾のようにあけすけに言われると恥ずかしくて身の置き所に困る。
「九尾さまに言われるまでもありませんが…先生は私が女になって目合(まぐわ)う事には、あまり乗り気ではないようで…そちらの方がちょっと困りますね」
玉藻は鵺野とつき合うに際し、「男か女か」などという性別のこだわりはないが、鵺野が乗り気でないというのを聞くと、逆に残念な気持ちにもなってしまう天の邪鬼なのだ。
二人の会話を聞いていた青柳はふと何かを考え込むように黙り、それから玉藻に妙なことを言い出した。
「…あのやり方は、駄目なのかい?」
「……『あれ』ですか?」
「そう、『あれ』ならいいんじゃない?」
「『あれ』は……余計に駄目だと思いましたから、言ってません」
親子の間、もしくは妖狐の間でのみ了解されている何かの暗号なのだろうか。文字通り第三者の鵺野にはさっぱりわかりない。
「なあ、『あれ』って、なんだよ」
「……話したところで無駄ですので、言いません」
「んだよ、気になるじゃん。ケチケチしてねぇで教えろよ」
「…玉ちゃん、良い機会だし本人も聞きたがっているんだから説明してあげなさい。その上で駄目だというならば仕方がないでしょう」
「…分かりました」
玉藻は湯呑みを置いて鵺野の方に向き直り、改まった顔つきで「鵺野先生」と呼んだ。
「この方法は、我が一族に伝わる術でして、かなり…と言いますか、その…『外法』ですので、一度しか言いません。」
よく聞いてくださいと神妙に告げられ、鵺野もまた湯呑みを脇に置いて座り直し、真面目に「分かった」と頷いた。
「術自体は決して難しいものではないのですが、ただ条件のあった協力者を確保することが難しいのです」
「じょうけんのあった…協力者」
鸚鵡返しする鵺野に、玉藻は軽く頷いて見せる。
「その条件というのは、私、もしくは貴方のどちらかを好いた女ということです。双方に気があれば一番ですが…まあ、まず無理でしょうね。とりあえずはその点を満たしていれば、女が人間であるか否かは問いません。妖狐の一門ならば親和性が高いのでより望ましい。つまり人間の女か、妖狐一族の女かです。そして肝心の術の内容ですが―その女を私と貴方とで交互に抱きます。そうすることで女の胎で貴方と私の精気が交わり、気が練り上げられ子が出来るという寸法です。女の腹を借りることで肉に包まれ安定して育つことができます」
途中、鵺野が口を挟む余裕もない出来ないとんでもない内容が語られる。突っ込みどころ満載でめまいがしてくるが、とりあえず結果だけに論点を絞って問うてみることにした。
「ええと……それは、そうやって生まれた子は俺たちとその女性との、三人の間の子ってことになるんだな?」
「いいえ。女はあくまでも子袋の役目であり、いわば苗床です。親とはなり得ません」
「そんな…その女性だって、自分のおなかを痛めたんなら、親だって思うだろう?」
「思いません。大概の、特に人間の女は9割がた出産時までに死にますから。妖狐の女ならば、協力する時点ですでに了解しているはずですので、そんなことは無いです」
玉藻の躊躇ない物言いに鵺野は気色ばむ。
「何だよソレ!? 非道ぇじゃねえか!? そんなん却下だ却下!! 実験のフラスコや試験管じゃあるまいし! 用が済んだら…ってか壊れたらポイかよ!」
この後もさんざん思いつく限りの言葉で罵倒する鵺野だが、玉藻には想定内の事なのでまったく効果がない。
悪口のネタがなくなってようやく鵺野が黙ったところで、「…だから、聞いたところで駄目だって『外法だ』って言ったじゃないですか」大仰なため息と、あきれたような声、やっぱりといった顔で、玉藻は青柳に言う。
「あ、でもほら、ある程度の力のある妖狐だったらまず死ぬことはないし、玉藻にほれてる可愛い女の子(妖狐)は沢山いるからさ」
心配いらないよと青柳は朗らかな口調で鵺野に言うが「そういう問題じゃないでしょう!」と思わずバシンと卓袱台を叩いて反論する。
青柳は玉藻に比べて気配も立居振る舞いも実に人間だが、こういうときにはやはり人間とは違うことを、妖狐である事実を思い知らされる。さながら男と女の間に横たわる河のごとし、だ。
「じゃあ…やっぱり玉ちゃんが女になった方が一番良いんじゃない? 死ぬリスクもないし、無関係な誰かを利用する事もないし。ねぇ?」
青柳は、もうコレしかないよね、これでいいじゃん、とでも言いそうな顔で息子である玉藻に同意を求める。
「だから…駄目なんです。先生がお気に召さないというのですから」
「さっきは九尾さまの御前だったんでしょう? 二人きりになればきっと話は変わるよ。いざとなればこう、玉ちゃんがガバッとやっちゃえば。得意の『魅惑』だって使えばイチコロ…」
「二人とも俺を無視して話進めるなああぁぁ!」
作品名:さとがえり 作家名:さねかずら