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さとがえり

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「手取り足取り腰取りで、いろいろと教えてあ・げ・る」
「…姉上!」
「おお、こわいこわい」
きゃらきゃらと笑いさざめきながら、姉たちは玉藻から身をかわすように青柳の前まで膝を進める。並んで品良く三つ指を突き、「では父さま、お休みなさいませ」「お休みなさいまし、父さま」と銘々に礼をしてゆく。
青柳は父親の声音で「はい、おやすみ」とそれに答えた。
そのまま部屋を辞するかと思いきや、「それじゃあまたね、ヌエノセンセ」と、懲りずに姉たちはウインクに投げキッスと秋波を送る。玉藻は珍しくも声を荒げ、去りゆく背中に「もう来ないでください!」と怒鳴るが難なく躱して姉姫たちは去って行く。
「…済みません、余計なことを言ってしまって…」
「いいよ、別に。言っちゃったモンは。……不本意ながら、……くっ、ほ、ほんとのことだし…っ」
そういいながらも鵺野はなかなか心理ダメージから顔を上げられない。
基本的に鵺野は女性に迫られると抗えなかった。相手が年上だとそれが顕著にでる。恐らく母親や恩師である美奈子の影響だろうが、こうも押しに弱いというのは困った側面だと玉藻も鵺野自身も思っている。
玉藻もその辺をうまく利用した所がなきにしもあらずなので、あまり偉そうなことは言えないが……。
影を背負ってしまった鵺野を見ながら、玉藻は小さく嘆息し、黙って自分の前にあったカステラの皿を目の前に押しやった。
緩慢な動作でそれを受け取り、「ありがとう」とちいさく呟き、鵺野は鼻をすんと鳴らしてカステラを口に運ぶ。玉藻は「淹れ直してきます」と冷えてしまったカップを取り上げた。

お湯を沸かす間、玉藻は知らずに溜めていた息を吐いた。
姉たちは女の特権を最大限に活かして人間の男をいたぶって遊ぶのが大好きだ。いたぶる、といっても肉食獣が獲物をもてあそぶ風なものではない。例えば鵺野のように初心な男を濃厚な色香で惑わせ、からかい、その戸惑い振りや骨抜きになる過程を楽しむというやり方で、肉体的な傷はつけないにしてもあまり褒められた趣味とは言い難い。玉藻もかつてはそうであった筈だが、過去はどうであれ今は相思相愛の仲なのだ。蛮行をむざと許すつもりはない。
ともかく、鵺野が新たな標的にされたのは疑いようもなく、もし彼が一人きりの時を狙ってこられたら――。
ケトルの鳴る音に思考を中断してコーヒーを2つ分淹れた。淹れたての熱いコーヒーに、鵺野のカップにだけ砂糖を2つ落とし、ついでに見つけた牛乳も少し加えて居間へ戻ると、すっかり機嫌の戻ったらしい鵺野が二皿目のカステラを頬張っているところだった。
「牛乳があったので勝手にカフェオレにしてきました。砂糖は2個でよかったですよね?」
「おお、サンキュー」
ちょうどコーヒーが恋しくなったところだとカップを受け取って、半分近くを一気に干した。
「だけど、ちょっと納得した」
「なにがですか?」
玉藻の問いに、「さっきのお前のねーさんたちだよ」と前置きして「あんだけ迫られたら、確かにキスマークのひとつやふたつ、つくよな」と、やけに真面目ぶった顔で鵺野は言った。
「………」
事態の深刻さを知らぬは本人ばかり。
これは今後、より一層注意をしなければと心に誓う玉藻であった。

作品名:さとがえり 作家名:さねかずら