さとがえり
多勢に無勢の鵺野だったが、それでも鬼の手の前には妖狐たちの攻撃もままならず、一進一退の相を見せていた。しかし、
「あれ、誰か」
悲鳴にしては少し芝居がかった九尾の声が聞こえ、鵺野は反射的にその方へ跳んでいき、彼女の腕を掴んでいた若狐を殴り飛ばした。
「あら、なんとまあ乱暴な…」
助けに来た鵺野の背後に回り込み、九尾はそこからのぞき込むようにしてそう呟く。
守る者の存在は、本来ならば鵺野の能力を最大に引き出す。しかし背後にかばう形の彼女の、その強大さを知るゆえか、いつもの調子がでなかった。
「んな、のんびりしていないでっ…どうにかしたらどうですか!?」
「おや、もうぎぶあっぷかい? 近頃の草食系男(だん)子(し)は根性がないのう」
「10人近くを相手に、しては、善戦していると、思う、んですがっ?」
そうこうしているうちに若狐たちの標的は、明らかに鵺野がかばっている九尾のほうに変わってきていた。鵺野の必死な姿にこの女こそが鵺野の弱点だと判断したのだろう。だから、彼らの交わす言葉の不自然さに気付くのが遅れたのだ。
「……まあ、そうだなあ、もうこれくらいにしておこうか」
隙を見て背後から攻撃を仕掛けてきた相手に、振り向きもせず九尾は開放した妖気を浴びせかけた。